天狐の桜5
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一方、門の外で待つ清継たちもなかなかに騒がしかった。……否、清継が、落ち着きなく胸を踊らせていた。噂には聞いていたが、これは確かに何か妖怪がいそうな雰囲気。その上ここには自分の想い人であるかの美しいひとがすんでいる。あわよくば今日も会うことができるかもしれない。
「妖怪クイ~ズ!第17問。次のうち鳥を従えて飛ぶ火の妖怪は何?a.釣瓶火、b.ふらり火、c.姥火」
「う~ん、Cですか?清継君!」
「ブー!答えはB。ハッハッハ!島くん、君はまだまだだね~~。気合いが足りないよ」
「気合いっすか…」
「今日は花開院くんに気合いを入れてもらうからね――!!」
プロだぞ!!妖怪の!!と実に楽しそうな清継に、気合…ですか、と力なく返すゆらは目が死んでいる。頼りにされているのはいいんだが、この清継のテンション、ずっと付き合っているとものすごく疲れる。
「それにしても、噂に違わぬボロ屋敷」
これにあの実に優雅でお美しいお兄様まで住んでいらっしゃるのだから不思議だ、と清継は独り言ちた。だが、そう考えるとこの屋敷のボロさも、急に趣あるものに思えてきてしまうのだから恋とはすごいものである。
「ごめんごめん、遅くなっちゃって…」
「本当に遅いぞ、奴良君!!さっさと案内したまえ!!」
ひょっこり顔を出すリクオに、妖怪屋敷で妖怪会議だ!!と清継は声を弾ませる。ちょっと清継君!奴良君に失礼だよ!と注意するカナの声も届いているかは怪しい。それほどまでに清継のテンションは高かった。
(バ…バレとるやないですか…妖怪屋敷って)
(け、消される…)
(隠れろ隠れろ)
妖怪たちはリオウに術をかけてもらっているとはいえ、消されてなるものかとビクビクしながら隠れる。人を畏れさせてなんぼなのだというのに、人を恐れて隠れなくてはならないとは。
リクオは隠れている皆に心のなかで謝り倒しながら客間へと案内する。風でギシギシと鳴る古めかしい天井や戸板が妙に不気味で、清継たちはごくりと生唾を飲んだ。
「なんかほんとに出そう…」
「奴良君、こんな家に住んでんだね」
「いい雰囲気だ。それじゃ始めよう」
奴良君、後でお兄様にご挨拶にうかがっても構わないかな!?と鼻息荒く問う清継に、兄さん今日は体調が…と曖昧に笑って流す。実に残念そうな顔でそうか、と呟いた清継は、気を取り直してと咳払いをひとつする。
「今日は花開院さんに、プロの陰陽師の妖怪レクチャーを受けたいと思います」
「は」
急に話を振られたゆらはすっとんきょうな声をあげた。だが、頼まれたのだからと居ずまいを正す。
「そう…ですね。最初にこの前の人形…あれは典型的な"付喪神"の一種でしょう」
「器物百年を経て化して精霊を得て より人の心を誑かす」。付喪神とは打ち捨てられた器物が変化した妖怪だ。妖怪は色々な種に分けることができる。
人の姿をしたもの。鬼や天狗、河童など超人的な存在。超常現象が具現化したもの。ようかいの1/3は火の妖怪であるとも言われている。
「奴等の目的はみな、人々を恐れさせること。なかでも危ないのは獣の妖怪化した存在。奴等の多くは知性があっても理性がない、非常に危険!」
欲望のままに化かし、祟り、切り裂き、食らう!!
「決してさわらぬよう、お気をつけ願いたい!」
そして――それら百鬼をたばねるのが、妖怪の総大将「ぬらりひょん」。噂ではこの浮世絵町にいついているという。
一同はゆらの話に息を飲んで聞き入っていた。よもやそんな恐ろしいものが身近にいようとは。…一人、リクオは別の意味で顔面蒼白になっていたが。
「"ぬらりひょん"か…妖怪の主とは言え、小悪党な妖怪だと思っていたよ」
清継は神妙な面持ちでゆらを見据えた。ゆらはそれにこくりと一つ頷いて応えると言葉を続ける。
「そう、ヤツは人々に多くの畏れを与える、別格中の別格。」
でも、ヤツを倒せばきっと自分も認めてもらえる。古の時代より、彼らを封じるのが我々陰陽師。その縁を、この地で必ず…
「お茶入りました~~~」
突然入ってきた髪の長い着物の女性に、一同はぴしりと固まった。毛娼妓だ。呆然としている間にしずしずとお茶をいれ、ごゆっくり、という言葉と共にパタンと静かにしまる扉。
リクオは間髪いれずに部屋を飛び出した。
「何!?誰?」
「おねーさん!?」
「奴良あんなすごいお姉さんがいるのか!?」
後ろから聞こえる声なんぞしったことか。あんな堂々と、もしバレたらどうするつもりなんだ…!廊下に出たリクオは、食事を運びいれようとしていた毛娼妓たちを叱りつけた。
「たのむよ!君らが顔出したら妖怪屋敷ってバレるじゃない!!」
「す、すいません。台所にいたので連絡網が回ってこなくって…もう行きませんわ、そんな物騒な子」
命拾いしたわ~と冷や汗をかく毛娼妓。台所担当の妖怪たちは、若は中学生になってからあんな悪い友人ができてしまってとさめざめ涙を流した。とりあえず、リオウ様の所へ避難するのが得策だろう。
(さて、この部屋から出ないように足止めを…)
毛娼妓たちを見送り、襖をスッと開けたリクオは、もぬけの殻になっている客間に暫し瞠目した。どういうことだ。何処にいった。…まさか、屋敷を歩き回ってるのか!?
「どうしてこうなるんだよ…!!」
リクオの半ばやけくそな声が静まり返った客間に静かに消えていった。