天狐の桜1
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「でねでね!おじいちゃんがスゴかったんだ!」
「そうかそうか。お爺様もリクオがそう言っていたと知れば、とてもお喜びになるだろう」
実に仲のよい兄弟だ。和装の美青年と元気一杯の小学生。端から見れば異様な光景だが、近所の人たちからは「あら奴良さん家のお兄さん今日も弟君のお見送りなのね」「仲良くて良いわねぇ」位にしか思われていない。
「カナちゃん!」
「あー!リクオくん!リクオ君のお兄さん!」
「おはよう。…それじゃあ二人とも、気を付けてな」
うんっ!と首肯く二人に軽く手を振って、リオウはバスを見送る。これ逃したら遅刻っていってるでしょー!とカナはリクオにプンスカ怒っているようだが、肝心のリクオはそんなこと気にもとめていないらしい。
毎日見送りにバス停まで来ているからか、すっかり顔馴染みとなったバスの運転手の男性が、ちらちらと此方をうかがっていることに気づく。リオウはふわりと人好きのする微笑を浮かべた。
「どうも」
「っ!/////」
途端に慌てたようにバスは発車する。窓から手を振る年の離れた弟に、苦笑しながら手を振り返すと、リオウは自らの後ろに音もなく降り立った青年にため息をつく。
「……今度は何に怒っているんだ」
「怒ってなどおりません。…ただ、些か無防備過ぎるかと」
「黒羽丸は本当に心配性だな」
トサカ丸達を見習え、と目を眇めれば、あれと自分は違うとわかっておいででしょうとしれっと返される。まぁまぁ、と甘い声がしたかと思えば、箒を持った首無が困ったように笑っていた。
「リオウ様のそれは今に始まったことじゃありませんからね」
「どういう意味だ」
リオウはふわりと変化し、元の姿へと戻った。誰がどこでみているかわからないのにと青褪める二人もなんのその。一陣の風が吹き抜けたかと思えばそこにはもう既に何もいない。
「…臍を曲げてしまわれたか」
「…お前が余計なことを言うからだろう」
残された側仕え二人は、溺愛してやまない主を思って深いため息をついた。
一方門の前で掃き掃除をしていた面々は、朝のドタバタを終えてはーっと息を吐き出した。なんというか、毎度のことながら疲れる。元気なのは良いことなのだが…
「ふ~~!やっと行ってくれたわい!」
「ほんと…総大将に似ていたずら好きで…元気がよくって!」
「子供は元気が一番だ。…お前たちも中々楽しそうではないか」
「リオウ様!」
お帰りなさいませ!と集まってくる妖怪たちの頭を軽く撫でる。側仕えの二人がいないうちに我先にと集まってくる妖怪たちに、後で茶でも飲もうかと軽く誘いをかけていなすと、リオウはなにかを見つけた様子でついと目を細めた。
視線の先には慌てて追いかけてきたらしい側仕えの姿が。幾分もしないうちに黒羽丸と首無が駆け寄り、睨みをきかせるのにため息をつきながら、茶の準備をしようと屋敷に戻っていくリオウ。
「リオウ様大変…」
「いつもいつもあぁじゃあ気が休まらないだろうに…」
「あの二人、心底リオウ様に惚れてるからなぁ…ま、分かってて反応みて遊んでるリオウ様もリオウ様だからな」
やれやれと言わんばかりに皆で肩をすくめる。正直、二人の気持ちもわからなくはないのだ。リオウは本来、奴良組の長子として組を継ぐ立場。皆がそう望み、その実力も十二分にあるが、彼は体が弱い。雪女はでも、と朝引っ掛かった庭の罠を見つめた。
「きっと…リクオ様が、あの子が私たちの三代目を継ぐのね!」
「えぇっ…どうかのぅー。いくら総大将の孫と言っても、人間の子供にワシら奴良組の長がつとまるかのぅ…?」