天狐の桜5
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浮世絵町東口の、とある繁華街。
雑居ビルが立ち並び、どこか雑然とした夜の町を数多のネズミが走り回る。そんなビルの合間の暗がりから、どこか艶めかしい女の声が聞こえてきた。
「うう…ん…」
ぴちゃぴちゃと濡れた水音がする。これに気がついたパトロール中の一人の中年警官は、またかと内心ため息をついた。夜の町では、色事の店が多いのもあって、外で淫行を働くものであったり、喧嘩や窃盗などの犯罪が絶えない。
「くぉら、何してんだそこで」
路地裏に懐中電灯を向け、人影を確認する。顔は見えないが、ホストらしい若い男と、その影に隠れているのは女か。
「けっ…ドブネズミめ。オメーらがいるからこの町は…」
そこまで言いかけ、ゆっくりと振り返った男の顔を見て、警官は凍りついた。口許にべっとりと血をつけ、口の端からは鮮血が滴り落ちる。女の方はとうに事切れていて、恐怖にひきつった顔で喉元を食いちぎられていた。
「な…なっ…」
気がついたときにはもう遅い。夜の闇にまた一つ、男の断末魔と肉を裂き、骨を砕く音が響き渡った。
「―――相変わらず、"猫"を喰うのが好きなネズミだな。窮鼠」
窮鼠と呼ばれたホストの男はゆらりと視線をあげた。冷たい目で己を見つめるのは、髪の長い和服姿の男。
「ボス…そんな言い方は無いでしょ~。それがボクの、"悪行"なんだから」
へらりと笑ったホスト男の口許は、鮮血に濡れていた。
今日も今日とて奴良組は騒がしかった。
「だから…若。な~んでワシらがそんなコソコソせにゃ~ならんのです!!」
「人間の友達が来るから隠れろだぁ!?」
「はぁん!?」
「あのねぇ~。ワシらは妖怪一家なんですがね――――!!」
今日は日曜日。何でも、リクオの友人たちが勝手に、奴良家で妖怪談義をしたいと取り決めてしまったらしい。
ギャンギャン騒ぐ妖怪たちに、縁側に腰かけて話を聞いていたリオウは、五月蝿いと言わんばかりに尻尾で縁側をたしんと打つ。耳もぺたりと垂れており、相当やかましかったことがうかがえる。
「陰陽師の末裔が来るらしい。お前たちには、人の目からは見えないように術をかけてやろう。声まで消すのは面倒だから、あくまで姿だけだ。各々しっかり隠れるように」
まぁ姿は見えないわけだから、大人しく庭にでもいればいい話なんだが。さくっと説明して有無を言わせず腕を一振りして術をかけると、リオウもふわりと人型へ転位した。途端にピンポーンと鳴るチャイムの音。
「リクオ、出迎えを。あまり待たせるのは失礼だろう」
「う、うん。あ!兄さん!!絶対にみんなの前に出ちゃダメだよ!!特に清継君の前に!!」
「わかったわかった」
リオウはひらひらと手を振った。面白くなさそうな顔をして、リクオはリオウをぎゅーっと一頻り抱き締めたあと走っていく。人型をとった黒羽丸と首をマフラーで隠した首無がそっとリオウの傍で膝をおった。
「リオウ様」
「今戻る。今術をかけられ損ねたものは私の部屋へ通せ。皆で茶でも飲もう」
リオウは流れるように立ち上がると、二人を引き連れて部屋へと帰っていった。