天狐の桜4
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屋敷を出たリオウは、辺りを見回したあと、ふわりと姿を消した。奴良組本邸に花の香りを孕んだ優しい風が吹き抜けたかと思えば、寄り添うように立つリオウと黒羽丸が現れる。
「おう、リオウ」
「…お祖父様」
「…黒羽丸、下がれ」
「はっ」
ぬらりひょんは無言で愛する孫に歩み寄った。風が凪いだかと思えば、嘗ての若かりし頃の姿へと転位する。リオウは何も言うわけでなく、ただ疲れたように目を閉じて立ち尽くす。
「……わざわざその姿に転位までして…若作りも程ほどになさったらどうか」
「この姿じゃねぇとこうしてオメェを抱き締められねぇだろうが」
ぬらりひょんはリオウを抱きすくめた。されるがままに大人しく腕の中に収まっていたリオウは、ふっと目を伏せると本来の姿に戻る。絹糸のような髪に指を絡め、毛並みのよい耳に唇を寄せるぬらりひょんは、遠い昔に継承された記憶によって苦しめられていたリオウを思い出した。
「復讐にのまれるな。記憶があろうと、お前はお前だ」
「…分かっている。そんなもの、とうの昔に」
花開院絡みだとよく気づかれたな、と自嘲すれば、お前は昔から変わらねぇからな、とぬらりひょんはくつくつ笑う。花開院と天狐の因縁を知っていて、かつ慰めることができるのはもう自分くらいなものだろう。
(こんなリオウが見れるのもワシの特権だな)
祖父として、孫であるリオウを愛しく思う気持ちに嘘偽りはない。だが、一人の男として、リオウを愛しているのも事実であって。勿論かつての妻珱姫のことは愛していた。彼女を愛し抜いたからこそ、こうしてリオウへの道ならぬ想いに気がついてしまっただけで。
(まだ、我慢できる)
ぬらりひょんは、ひょいとリオウを横抱きにする。あまりに突然の出来事に、さしものリオウも固まった。
「っな!?」
「少しはお前を甘やかさせろ」
ぬらりひょんはそう言ってニヤリと笑う。祖父としてか男としてか、そんなものは今はどうだっていい。このいつだって飄々と周囲をたぶらかす青年が、自分に表情を変えているという事実が誇らしい。
「っ、私には必要ない」
「つれねぇことを言うな。少しは付き合え」
遠くでドンチャン騒ぎをしている下僕たちの声がする。ちと早いが、台所で酒を幾本か拝借して、久々に二人で酒盛りをするというのも悪くないだろう。
幼い頃よくやっていたように、宥めるように額に口付ければ、諦めたようすでリオウは力を抜く。先程よりいくぶんか和らいだ表情の変化に思わず相好を崩しながら、ぬらりひょんはリオウの部屋へと歩いていった。
このあと、帰宅したリクオがドンチャン騒ぎをしている妖怪たちを怒鳴り付け、日曜日に陰陽師の友達が家に遊びに来る、なんて約束を取り付けられてしまったことを知らされて大騒ぎになるのだが、それはまた別の話。