天狐の桜4
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異変に気づかない清継は止まらない。淡々と日記を読み進めていく。ついに術は解け、人形は般若のような憎悪に歪んだ顔で刀を振り上げた。
2月28日引っ越し前日。おかしい、仕舞っておいた箱が開いている…
「日記を…読むのをやめてぇぇええ!!!!」
リクオの悲鳴に似た制止の声が響く。と、その時。数枚の術符が人形目掛けて投げつけられた。小さな爆発のようなものが人形の頭部を破壊し、人形の動きが止まる。
「浮世絵町…やはりおった」
(…………)
妖怪を見据えるゆらを、リオウは静かに見つめた。人間にしては霊力はまぁまぁと言ったところか。だが、如何せん詰めが甘い。さて、何時気づくのやら。
「陰陽師花開院家の名において、妖怪よ。あなたをこの世から…滅死ます!!」
清継たちは暫し呆然とたたずんでいた。だがすぐに我に返るとゆらに詰め寄る。
「お、陰陽師だって!?け、花開院さん!?今、確かに貴女そう言ったんだね!?」
こくりと首肯く彼女を見ながら、リオウは鈍く痛み始めた頭を押さえて息をついた。祓い方が雑。人間には限界があるのは知っているが、今の爆発で妖気を孕んだ人形の欠片が辺りに飛び散った。
リオウは半分神の血が流れているゆえに穢れに弱い。苛立ちに任せて腕を一振りすると、シュウシュウと音をたてて人形に宿る悪鬼が消滅していく。リオウ様、と耳元で囁く側付きの声に、ゆらの行動に一々目くじらを立ててしまう自分に気づいて自嘲する。
(小娘一人にこのような…この娘はかつてのあの花開院家の愚か者とは違うとわかっているというのに、私もまだまだ青いな)
「護符を財布にいれているのはいいが、咄嗟にレシートまで投げてしまうのは少々危ないのではないか?」
「あっ!!///」
一人暮らし慣れてなくて…と顔を赤らめるゆらに、リオウはふわりと微笑んで落ちていたレシートを渡す。ゆらは礼を言って受け取り、ガシッとリオウの手を握った。思わず雪女やリオウを守る黒羽丸が殺気だつ。
「奴良君のお兄さん」
「?あぁ、どうした?」
「……やっぱりや…奴良君のお兄さん、貴方とても澄んだ気をもってはります。気とは則ち霊力。これが優れたものであればあるほど妖怪に狙われやすくなるんです」
「ほぅ…」
(((そりゃあ神様だからなぁ……)))
リクオたちは思わず心の中で独りごちた。神力と霊力の違いがわからないのか、とリオウは落第の判子をぽんと押す。筋は悪くはないのだが、やはりまだまだ子供のようだ。知らないことが多すぎる。色々と知れば化けるだろうか。
「私は、京都で妖怪退治を生業とする陰陽師、花開院家の末裔…」
この町、浮世絵町はたびたび怪異に襲われると有名な町。噂では妖怪の主が住む街とすら言われている。
「私は…一族に試験として遣わされたんです。より多くの妖怪を封じ、そして、陰陽道の頂点に立つ花開院家の頭主を継ぐんです!!」
それから、もう一つ探しているものがあって…とゆらは静かに目を伏せた。
「白銀の毛並みに桜色の瞳。4本の尾と神通力を操り、莫大な神力で他を圧倒する美しき神の狐、天狐。かの一族は現在唯一の生き残りを残して滅びました。私達花開院家の一族は、天狐を保護するためにその生き残りを探しているんです」
「保護、だと…?」
リオウの体からぶわりと重苦しく感じるほどの殺気が迸った。殺気など生まれてこのかた向けられたことのない平和な子供たちは皆ぶるっと背筋を震わせながら、きょろきょろと辺りを見回す。
「神通力を使う尾が4本の、美しい狐…」
清継ははっと目を見開いた。それこそ、ずっと自分が会いたいと願っていたお方ではないか。月夜を駆け巡る闇の支配者と、心優しい美しき天狐。もう一度、ボクは彼らと会わねばならない…
がっしとゆらの手を握った清継は、一緒に探そう!!と声をあげた。妖怪の主たちを見つけ出そうじゃないか―!!清十字怪奇探偵団ここに始動だ―――!!!!と高らかに宣言する清継に、リクオたちはげんなりと視線を向ける。
「…申し訳ないんだが、私は先に帰らせてもらっても構わないか?」
「えっ?」
「あ、兄さん!もー、無理して出歩くから体調崩しちゃうんだよ。僕も一緒に帰るよ」
「いや、折角なのだからお前はお友だちともう少し楽しみなさい。すまないな、清継君」
「いっいいいいえ!!今日はありがとうございました!!/////」
がばりと頭を下げたことで乱れた清継の髪を、ついと手を伸ばして直してやる。一気に首筋まで赤くなって今にも倒れそうな清継にふわりと微笑むと、リオウはちら、とリクオを一瞥した。
嫉妬の色をひらめかせた男の表情。感情だけは一丁前か。ついでに後ろに控えた側付きの発するピリピリした空気を感じてくつりと笑う。嗚呼、一挙一動にこんなにも分かりやすく反応を返してくるのが面白い。