天狐の桜4
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浮世絵町のとある洋館。その大きな屋敷の奥に、リオウたちは通されていた。島は想像よりもあまりに大きな屋敷に感嘆の声をあげる。
「はぁ…すげぇ…ここ、清継くんち?」
「ふふふ…ボクのプライベート資料室さ…」
超成金じゃないすか、なんて言葉が思わず口をついて出る島に、口を慎めと目を眇める。大学教授でもある祖父が使っていた部屋をまるごと借りているのだという。そのうちボクの資料でうめてみせると意気込む清継に、へぇ…と一同は曖昧な返事を返した。
「兄さん…うちに物にとりついたりする妖怪いたっけ?」
「いや、人形に取り付くものはいない。恐らく現代的な付喪神だろう」
「ま、またそっちなのか…困るなぁこんなご近所で」
「大丈夫。いざとなれば私が出る」
それに…と続けたリオウは、己の隣の何もない空間にむかって目を細めた。一瞬何を…と目を眇めるが、すぐに合点が行く。恐らく黒羽丸か首無辺りがリオウによって姿を隠された状態で彼を護衛しているんだろう。
「この…日本人形なんだけどね…」
「うわっなんかいかにもな…」
部屋の一角に静かに佇む日本人形に、皆は顔をひきつらせた。ごわついた黒髪は何処かボサボサで、白塗りの顔と対称的な重苦しさを感じる。細目で黒目がちな目もどこか不気味で禍禍しい。
リオウは一人、人形から感じる妖気に柳眉をひそめた。低級かつ現代的な付喪神か。こんな若造がまだうちのシマに蔓延って悪さをしているとは…。
「ほ、本当に呪いの人形なん…?」
「信憑性は高いと思う。一緒に持ち主の日記が残ってるんだ」
「日記?」
「読んでみよう」
清継は古びた手帳のようなものを取り出した。ついで静かに読み上げていく。
2月22日…引っ越しまであと7日。昨日 これを機に祖母からもらった日本人形を捨てることにした。といっても機会をうかがってはいたが、本当は怖くてなかなか捨てられなかっただけで、雨が降っていたが思いきって棄てた…
リクオがちらりと視線を人形に向けると、人形はまるで何かにすがるように両手を伸ばし、血のような黒い涙を流していた。
「すると今日なぜか棄てたはずの人形が玄関においてあり、目から血のような黒っぽい…どぉしたリクオ―――!!!!」
リクオは思わず人形にタックルして皆から隠し、ごしごしと涙を拭き取った。リオウはそれを見ながら袂で口許を隠し、クスクスと小さく笑っている。………完全に楽しんでいる。
貴重な資料にタックルかますな―――!!と吠える清継は、すぐさま人形を確認する。
「なんともなってないか…全く貴重な資料を…名誉会員から外してしまうよ?まぁいい、次だ…」
2月24日彼氏に言って遠くの山に捨ててきてもらった。その日の夜、彼氏から電話。「助けてくれ…気づいたら後ろの座席にこいつが乗ってた…」考えてみれば昔から変だった、この人形。気づけば髪が伸びているようにも見えた…
「あ…リオウ様、これ…」
「ふむ、まずいな…」
雪女の言葉にリオウは口許に手をあて、人形にむかって息を吹き掛けた。途端に伸びていた髪は動きを止め、人形は大人しくなる。神気で捕縛して動きを止めたのだ。
まぁ、リオウ自身にしてみれば、ここで完全に息の根を止めてやる気はさらさら無く、リクオを始めとする若い衆がどのように対処するかを見たいだけなので、低級でも力を振り絞れば解けるような弱い術しかかけていないのだが。
リクオたち妖怪は勿論……花開院家の娘だという少女の実力を見据えるために。