天狐の桜21
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野風を斬り捨てたリクオは、ある気配についと視線を巡らせた。リオウの気配が動いた。此方に合流しないのか?
いや、もし何かあるのなら必ず此方に一言あるはずだ。──まさか、誰かに連れ去られた?
「黒羽丸。お前は俺と来い。リオウを探すぞ。氷麗、お前はカナちゃんを頼む」
「は…はぃぃぃい!?」
氷麗は思わずカナを指差して目を剥いた。なんで!?なんで私がこいつを!?ていうかリオウ様を探すんです!?それなら自分も一緒にいきたい!!
「雪女。…仕事だ」
「わかってるわよ!!」
氷麗は相も変わらず仏頂面で呟く黒羽丸に噛みついた。盃を交わした主の言葉は絶対だ。あぁ、まったく、私だってリオウ様を探しにいきたいのに!黒羽丸ばかりお側に侍ってズルすぎる!!
その時、耳をつんざくような悲鳴が空を裂いた。
「ばっ化物!!化物ぉぉ!!」
「!!」
交差点のど真ん中。野風の手によって無惨な姿となった恋人に取りすがり、泣きじゃくる女性がいた。彼女にとって、目の前で野風を倒したリクオが善か悪かはどうでもいい。
"人間ではない化物"、愛する者を奪ったそれそのものが恐ろしく、ただ憎い。
「うわっ本当だ…」
「え?でも今助けて…」
「妖怪がもう一人いるぞ!!」
それは人々にとっても同じこと。手にした携帯端末やカメラを構え、口々に非難と困惑の言葉を口にする。
「三代目…」
「こういうことかよ」
リクオはぎり、と奥歯を噛み締めた。手強いやつらだ。俺とリオウの大事なものを一つ…見事にぶっつぶしやがった。
<まだだよ>
その時、気味の悪い男の声が脳裏に響いた。それは頭のなかに直接響くようで、リクオたちはばっと視線を巡らせる。
「この怪談は終わらないよ。君たちが滅びるまでね…!!」
見れば、交差点の向こう側に二人の男がたっていた。二人とも着流しに羽織姿で、金糸の髪の若い青年と、黒髪短髪で目に光のない不気味な笑顔の青年。
金髪の青年は、以前地下鉄事件の折に黒田坊とリオウが対峙していた奴か。
「リクオ様、あ、あいつらって…」
「───百物語組か」
氷麗と黒羽丸も気がついた様子で瞳を見開いた。あれが百物語組──リオウを狙い、組を潰そうと画策する輩。
黒髪の青年は、殺気だつ三人にクスリと笑うと、歌うように告げた。
「一晩だ。一晩で君達の存在は消え失せるよ」
一晩で奴良組すべての畏を"百物語組"が奪うから
バサバサと激しい羽音が頭上に響く。巨大な烏のような一羽の鳥だ。それはゆっくり頭上を旋回したかと思えば、高層ビルの上に止まるとやおら嘴を開いた。
【奴良リクオ ヲ 殺セ!!サモナクバ 自ラガ 滅ブコトト ナルゾ!!】
人の言葉を話す面妖な烏。しかし、冷静さを失った人間たちにとっては、妖怪の戯れ言もすべてが誠。すがるものの真偽など歯牙にもかけない。
ざわざわと民衆がざわめく。リクオは苛立った様子で目の前の男二人を睨めつけた。
「てめぇら百物語組か?この一連のことはてめぇらが仕組んだのか?」
男はニコニコと口元だけで笑っている。吸い込まれそうなほど光のない黒い眼をついと細め、男はゆっくりと口を開いた。
「さっゲームを始めましょう」
「何?」
口、耳、腕、骨、鼻、脳、面の皮……百物語組には七人の幹部がいる。百物語(そ)のなかに隠れている重要な七人を夜明けまでに見つけ出し、七人全員を潰せば奴良組の勝ち。
「な、何をいってるんだ?」
「師匠~もっと優しく説明してあげないと…理解できなさそうですよ」
金髪の青年はへらへらと笑った。単純に言うと、今度こそお前らは終わりってこと哉、と侮蔑のこもった視線を投げる。
「あはは。単純な鬼ごっこですよ」
"ケイドロ"と"ジャンケン"がまざった感じかな。あたしらが人々を襲い…人間が君を襲います。そして君はあたしらを追うのです。
「あ、そうそう。言い忘れていましたが、リオウ様のことも戴きます。"あの方"含め、あたしらは"そういう妖怪"なので」
リクオは思考をフル稼働させた。こいつは何をいっている?まるで本当に盤上の遊戯のように命を弄んで、あまつさえリオウを狙い、この一連を───ゲームだと?
「ルールは"特になし"。何をやっても構いませんよ。強いていうなら"舞台"は東京…"残り"は14時間です。さぁ、お互いの畏を賭けて頑張りましょう!」
次の瞬間、風が動いた。誰の目に映る間もなく、リクオは抜き身の刀で黒髪の青年に切りかかっていた。
「ふざけてんのかてめぇ。何がゲームだ!!」
その時、黒髪の青年はにやりと怪しげな笑みを浮かべた。かかったな、馬鹿な男だ。
「あいつ…人を襲ってるぞ!!」
「やっぱり…やっぱりそうなんだ…」
「!!」
人々の言葉に瞠目するリクオをにんまりと見つめ、男はぴしっと扇子を突きつける。
「わかっていると思いますが…人間は自らが助かるため、君を本気で殺そうと来ますよ」
つまり、君が勝てばあたしらは滅びるが…あたしらが勝つってことは…その時君と君の奴良組は人間の憎悪で焼き尽くされるってことだよ。
君は今から一千万人の都民に襲われる。人間てなぁ恐ろしい生き物だ。身にかかる不幸を何かのせいにしたがる。
「今は昔よりも噂が広まるのが早いから、更にたちが悪い。信じて救われるなら嘘だってデマだってかまやしない。リオウ様が心から愛して、君が信じて共に生きようとしている人間なんて…そんなもんだよ」
そう。たったの"そんなもの"。強い方に靡き、媚び、群れることでしか己の身を守ることのできない所詮は雑魚の群れ、それが人間。真実なんてものはどうでもよくて、これが大きい方が勝ち、少数を淘汰する。リオウが慈愛をかけるには勿体無い奴等。
「おっと、はじめまして。あたしの名は圓潮。百物語を語り継ぐ…噺家でございます」
三百年たって漸く反撃できる機会を得た。憎しみは君に、畏はあたしらに集まる。
クックッと低く笑いながら、圓潮と柳田は人混みに姿を消していく。人々はぞろぞろと武器を片手にリクオ達を取り囲み、皆ギラギラと憎しみと恐怖にとりつかれた瞳で此方を睨んでいる。
(チッ…厄介な野郎だぜ)
まんまと嵌められた己が情けない。が、それはとうに過ぎたこと。まずはリオウを迎えにいかなくては。同時進行で幹部達を炙り出し、なんとしてでも今夜中に決着をつけなくてはならない。
「黒羽丸!!お前は俺とリオウを探すぞ!!トサカ丸!!ささ美!!奴良組全員に伝えろ!全員で奴等を炙り出す!!」
リクオの声に応えるように三羽はばさりと翼を広げた。