天狐の桜21
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ガンガンと金属バットで鉄骨を打ちながら、男たちはじりじりと距離を詰めてくる。
「リクオ様、リオウ様…」
「氷麗、黒羽丸、二人とも抑えて」
今ここでやりあうのは得策ではない。出来る限り人間は傷つけたくないし、なにより状況がわからない今、下手に動けば自分の首をしめることになってしまう。
「ッ伏せろ」
四人の頭にバッドが振り下ろされた。空振りしたバットは、けたたましい音をたてて鉄骨を歪ませる。リクオの背に冷たい汗が流れた。こいつら、本気で殺しにきている。
「あの…<件>の予言って何ですか!?何かの間違いじゃ…」
言い終わらぬうちに、振り下ろされたナイフでスクールカバンが切り裂かれる。
「しらばっくれるんじゃねーよ。人間のカッコしやがってよ…とっとと正体あらわせよ妖怪」
「な、なんだよそれ…っ僕は人間だよ!!」
パシュッッと空を裂く音がしたかと思えば、リクオの頬に鮮血が舞った。撃ち出された銃弾は頬を掠め、明後日の方向に飛んでいく。
「惜しい♡」
「どこがだ下手くそ」
「リクオ…っ」
リオウはリクオの頬を両手で包み込んだ。掠ってしまったのか、皮膚が裂けてしまっている。痛々しいそれに柳眉を寄せると、リオウはそっと傷を癒す。
「次は俺だ。見てろ」
リクオを狙った狙撃犯たちは、再びライフル銃をジャキッと構える。主君を傷つけられた黒羽丸と氷麗は、揃って殺気だった。
「貴様ら…ッ」
「あんたたち…それ以上やったら、もう手加減はしない!!」
構える二人に、男たちはニヤニヤ笑ってカメラを構える。
「おおっほ…」
「と…撮れ!」
「あの二人…やっぱ妖怪なんだ」
「じゃあさっきから奴良リクオを庇ってるあの綺麗な人も!?」
リクオは男たちの言葉にハッと目を見開いた。ダメだ、コイツらの狙いは──
「黒羽丸!!氷麗!!ダメだ!!こいつら僕らが変身するのを待ってんだ!!」
「で、でも私…」
「氷麗!!」
リオウは咄嗟に氷麗を黒羽丸の方へと突き飛ばした。ついで、人間の一人が撃ち出した謎の光線のようなものが、氷麗を庇ったリオウを襲う。
バリバリとまるで電流のようなものが全身を這う。本来の姿であれば、人間の攻撃など効きもしないが、今は人型。
「うっ…ぅ、ぁ…っ」
激しい痛みと共に、力の抜ける感覚。目の前がチカチカと明滅したかと思えば、フッと意識が遠退く。力なく崩折れる肢体を抱き止めたリクオは、怒りと絶望に絶叫した。
「リオウ!!」
「ヒャハハー!!見ろよ俺の象をも殺す改造テーザー銃!!美人妖怪退治したぜーー!!」
「やったね!!ガクト君!!」
ワハハハと嗤う人間たちの声。腕の中でぐったりと動かないリオウ。激しい怒りが身の裡を焦がし、目の前が深紅に染まる。
「「リオウ様!!」」
「二人とも…手ぇ出すなよ」
「「!」」
ドスのきいたリクオの声に、黒羽丸と氷麗は目を見開いた。人間の姿ながら、それは有無を言わせず従わせる大将たる覇気を感じる。
リクオはリオウを片腕に抱き抱えると、カランと床に落ちていた鉄パイプを拾い上げた。先程まで騒いでいた男たちに一瞬静寂が走り、やっぱりこいつは敵だと再び盛り上がる。
「こいつ…抵抗する気か?」
「やっぱり敵じゃねぇか!!騙そうとしやがって!!」
「とうとう妖怪に変身するぞー!!」
「撮れよ!!撮れ!!」
瞬間、疾風が駆け抜けた。手にあったデジカメやスマホ、ビデオカメラが宙を舞う。
「えっ…」
あまりの早業に、リオウを撃った男は目を見開いた。息を飲む間もなく、目の前にあの少年がいる。殺される?死ぬのか、俺は?突如立たされる生死の境地に、体が凍りついて声もでない。
「おい」
「へ…あ…」
首に鉄パイプが突きつけられる。背中を冷たい汗が流れる。眼前の温厚そうな少年は、既に歴戦の修羅へと変わり、子供とは思えぬ殺気を放っている。
「黙ってりゃ、いい気になりやがって…」
──これ以上やらせんな
「なんだよ…こいつ…」
リクオの剣幕に、男たちは皆距離をとる。スマホを手にした男は、慌てた様子で掲示板を開いた。
■ やばい
こいつ
メチャクチャ
中学生なのに
男がそう打ち込んだ所で、黒羽丸は男のスマホを奪い取った。素早く掲示板の内容を確認し、リクオへと渡す。
スマホを受け取ったリクオは、噂の内容を一瞥するとスマホの画面を男たちに突きつけた。
「なんだこれは…これが<件>の予言か…?」
「ぎゃひ…た…助けてくれ!!」
「いいから言えって」
「ヒィ~~!!ネットで広まってたんだ…今この國に変なことばかりおきるのは、ある男のせいだって…この國を救うには、妖と人の子である奴良組三代目"奴良リクオ"を殺せってさ…」
「!」
男の言葉に、リクオたちは瞠目する。と、その時、上から大柄な女が降ってきて、男たちを無造作に踏み潰した。ぐしゃりと肉の潰れる音がして、鉄臭い臭いが漂う。
「あーあ。折角変身が見られると思ったのに。ちっともダメね…中学生一人本気にさせられないなんて。おまけに───私のリオウ様に傷をつけたお馬鹿さんはだぁれ?」
眼鏡をかけ、髪を纏めたその女は、ぐるりと男たちの顔を見渡すと、あんたね、と呟いて先程リオウを撃った男に手を伸ばした。
女の手がまるで鞭のように動き、一瞬にして男の首が刈り取られる。頭を失った身体は、鮮血を撒き散らしながらぐしゃりと崩れ落ちた。
目の前の惨状に、男たちは皆悲鳴をあげて逃げ出した。それをつまらなそうに一瞥すると、女はヒュンヒュンと腕を振り回す。
次々男たちの首を獲り、腕から生える口でぐちゃぐちゃと咀嚼していく女は、ニタリと笑った。
「全部ぜぇんぶ私のものなの。傷をつけるのもその肌に触れて汚すのも、全部全部私でなくちゃ。あぁんでもそのぐったりした顔も素敵…♡」
人間の姿も美しい。だが本来の天狐の姿ならまたより一層美しいのだろう。あぁ、どちらの姿を犯してやろうか。早くその肌に触れて汚してやりたい。
「初めまして。奴良リクオ君…私の名前は悪食の野風。貴方と同じ妖怪よ♡」
──さぁ正体を現しなさい。じゃないとどんどん食べちゃうわよ♡