天狐の桜21
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インターネットのとある掲示板。そこでは、一つの書き込みから妙な噂が飛び交っていた。
■件って知ってる?
■け…件って何?
■「くだん」だよ。
「けん」じゃねーよ。
■生まれるらしいんだよ…
近々<件>が…
■あー俺もきいた
RT@YOKAIMANIA
生まれるらしいんだよ…
近々<件>が…
217 RICA
あー…"くだん"って…未来を予言する妖だろ?
生まれてすぐ死ぬやつ
218 MISO
そうそうw
■○月×日
△山県の使われなくなった酪農場で
件が生まれる件。
■マジで??
■紛らわしいんですけど…
■ホントらしい
俺もきいた
■○○県で生まれる
みんな聞いてる
■マジなら俺も生きたい
■俺も
■牛から生まれんだって?
頭は人、体は牛……だから件
■生まれてすぐ予言を言うんだ。その予言は絶対。
自らの命を懸けて放つ言葉は、絶対外れない。
一つの書き込みから、噂は瞬く間に広がっていく。それはかつての比ではなく、人から人へ…場所という壁を越えて広がっていく。
そして──○月×日
△山県のある寂れた牛舎に人だかりができていた。それは明らかに酪農関係者といった風貌の者たちではなく、噂につられて集まってきたのであろう男たちであった。
人だかりの真ん中には、一頭の身重の牛が倒れている。やがてその腹が蠢いたかと思えば、ズルズルと一頭の子牛が誕生した。
──牛の体に人の顔を持つおぞましい獣が
「ヒェ…本当に…」
「う…生まれた…!?」
ごくりと誰ともなく生唾を飲む音が大きく響く。異様な光景から目が離せない。縫い止められてしまったように体が動かず、恐ろしさに目を背けたいのに、意に反して視線はその獣を見つめてしまう。
やがて、獣はよろよろと立ち上がった。
【聞ケ 人間ドモ】
それはあまりにおぞましく、身を震わせるほどおどろおどろしい声。噂を聞きつけ、件の誕生に立ち会った者の一人……清継は、思わずひゅっと息を飲んだ。
これが、妖怪…かの天狐や妖怪の主に感じた、憧れにも似た感情はそこにはなく、ただひりつくような恐怖が全身を苛む。
嫌だ。嫌だ、聞きたくない。聞いてはいけないと脳が警鐘を鳴らす。全身から冷たい汗が吹き出し、体が硬直して動かない。
だが、そんな清継を嘲笑うかのように、世にも恐ろしい"獣"はニタリと嗤った。
【近ク コノ國ハ滅ビル…助カリタクバ 人ト妖ノ間ニ生マレタ呪ワレシ者…】
──奴良組三代目 奴良リクオ ヲ 殺セ!
放課後の浮世絵中学校──その校門がなにやら騒がしい。キャアキャアと女子生徒は黄色い声をあげ、男子生徒は真っ赤になって惚けている。
その視線の先にいるのは、二人の青年。長く艶やかな黒髪を緩く結んだ絶世の美人、そして、その傍らに守るように立つ黒髪のイケメンであった。
((リオウ/リオウ様と黒羽丸ーーー!?))
いつもは目立たぬ所まで来てから合流するのに、どうして今日は学校の校門前に。というか何がすごいって、あれだけキャーキャー言われながら、二人とも全く意に関せずなところである。
「!リクオっ氷麗っ♪」
うなじで緩く結わえた長い髪を揺らし、リオウは笑顔で駆け寄った。先日と違い洋服姿で、カラーシャツにカーディガンを羽織った姿もよく似合っている。
「おかえり」
「た、ただいま…ってそうじゃなくて!こんなとこで何してんの!?」
「?ふふっ"でぇと"だ♡」
・・・・はい?
どういうこと?と黒羽丸を見れば、無言で視線を逸らされる。リオウは心底楽しそうに目を細め、行こうとくいくい袖を引く。
「私はお前たちともでぇとがしたい✨」
「えぇーーーっと……リオウ様?デートの意味をご存じで……?」
「?共に出掛けることを"でぇと"と言うのであろう?」
((そーーれはちょっと違う気が……))
どう説明したものか。そもそも、ぬらりひょんや鯉伴がいつも突然「デートしようぜ」なんて言いながら、リオウを連れて歩くからそんなイメージがついてしまったのか。
リクオと氷麗の反応に、リオウは不思議そうにぱたりと瞬く。違うのか?と己の懐刀を見上げれば、僅かな逡巡の後に口を開いた。
「日時や場所を決めて逢うこと…が正しい意味かと」
(なんかそれも堅いなぁ…)
リクオは思わず目を眇めた。いや、あってはいるんだが。リオウはそうか、と呟くとしゅんと柳眉を下げた。
「そうか…約束のもとに成り立つものを"でぇと"と呼ぶのか。むぅ、では私はお前たちとでぇと出来ぬのだな…」
「いいやリオウがデートと呼ぶんなら誰がなんと言おうとこれはデートだよ何より僕もリオウとデートしたい」
なんだかんだ言いながら、想い人に激甘な三代目である。はっしとリオウの繊手を握り、勢いのままに一息に言い切る。
最近徐々に甘えてくれることが増えてきた。畏が集まったことによって神気も安定し、こうして自分や黒羽丸と共に外出することも出来るようになったからか、以前より明るい表情が増えた気もする。
何よりリオウから、"デートがしたい"なんて可愛いことを言ってくれたのだ。本人が意味をわかってるかどうかはこの際置いておくとして、リオウの望みは全て叶えてやりたいし、自分だってリオウとデートがしたい。
───の、だが。
「しかしリクオ様、リオウ様。百物語組の調査は如何致しましょうか」
奴良組一真面目一辺倒なこの男。##NAME1##の意思を最優先にしたいのは山々だが、今は奴良組の明日がかかる大事な局面。そもそも二人とも、早く帰って調査を進めたいとも言っていたではないか。
「嗚呼、そうだな…そうか、それがあったか……………むぅ」
リオウは憂いげに目を伏せると、不満げに唇を尖らせた。分かってはいたが、百物語組のせいで自由がない。何をするかわからない奴等の行動を探ることで、一日が終わってしまうのだ。
つまらない。実につまらない。漸く自由に外に出られるまで体調も神気も回復したというのに。おのれ百物語組。
(((リオウが拗ねてる/リオウ様が拗ねていらっしゃる!!??)))
実に残念そうなリオウに、三人は思わず変な声が漏れそうになるのをぐっと堪えた。可愛い。なんだこのお狐様。そんなにデートしたかったのか。
「むぅ、しかし仕方ないな。早く帰るとしようか」
「そうだね。色々落ち着いたら、ゆっくりデートしようか」
「!ふふっあぁ、約束だぞ」
ふわりと嬉しそうに微笑み、小指を絡めて指切りする。さて帰ろうか、と屋敷に向かって駆け出しかけたその時、氷麗があ、と声をあげた。
「!?リオウ様、リクオ様!待ってください!あんなところにアイスクリーム屋さんありましたっけ!?」
男三人はえ?と目を丸くした。見れば、道の向かいに新しいアイスクリーム屋が出来ている。氷麗はじいっと店を睨むように見つめ、ぶつぶつと何やら呟いている。
「今日は時間も出来たことだし…日もまだこーんなに高いし…それに忙しすぎるとホラ…体に毒ですよー」
「えぇ!?今早く帰ろうって言ったばかりだよね!?」
「ふふっまぁ良いではないか。お前は本当にあいすくりーむとやらが好きだな」
行っておいでと甘やかすリオウに、リクオと黒羽丸は目を眇める。またそうやって甘やかすんだからと言わんばかりの視線に、リオウは笑って肩を竦めた。
いそいそと買いに行った氷麗は、ルンルン気分でアイスに舌鼓をうっている。
「あ、これおいしー♪」
「私にも一口くれぬか?」
「えっ!?」
リオウはあーん、と口を開ける。長い睫毛に彩られた黒曜石のような瞳がついと細められる。ダメか?なんて悪戯っ子のように微笑むのが、色っぽくも大変可愛らしい。
「だ、だだだだってそれじゃ"かんせつきす"になっちゃいます////」
「?かんせつきす…?」
不思議そうに目を丸くし、小首をかしげる。辿々しく復唱すると、どういう意味だと言わんばかりにリクオと黒羽丸に視線をやった。
「……何か他の物体を仲介として行う接吻です」
だからそれは説明が堅すぎないか黒羽丸。リクオは思わず隣の黒羽丸を二度見した。いや、全くもってその通りなのだが。広辞苑かお前。
「おや、それはすまぬ。不躾なことをしてしまったな」
「はぇ、あぁぁいえその、別に嫌ではないというか、むしろ嬉しいんですけどってそうじゃなくてぇぇえ\%$&#+///」
主従の一線が~と悶える氷麗と、笑顔を浮かべつつ内心困惑しきりのリオウと、そんな二人を乾いた笑いを浮かべて見守るリクオと黒羽丸。──非常にカオスである。
そんな四人に近づく人影があった。キャップを目深に被り、スマホを構えた短髪の男。
「あの、奴良リクオ君ですか?」
「はい?」
突然かけられた声に振り向いた瞬間、カシャッとカメラのシャッター音が鳴った。唖然とするリクオに構わず、男は走り去る。黒羽丸の体から殺気が立ち上ぼり、リオウは剣呑に目を細めた。
「…追いますか」
「──良い。人の子に悪戯に手をあげるのは好かぬ」
早く行くぞ、とリクオと氷麗の腕を引く。嫌な予感がする。早く屋敷に帰らなければ。リオウは皆を急かすようにして駆け出した。