天狐の桜4
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その日、一人の転入生がリクオのクラスを訪れた。
「フルネームは、花開院ゆらです。どうぞよしなに…」
さらりとした黒髪は短く、京訛りがどこかおっとりとした雰囲気を感じさせる少女、ゆら。休み時間にはいると、あっという間に他の女子生徒に囲まれた。
「花開院さん!!どこから引っ越してきたのー?」
「花開院さんて呼びにく!もう「ユラ」でいいじゃん」
「部活とかどーしてた?」
次々に話しかけに行く。それにやんわりと返事を返しながらふときこえてきた会話に、ゆらはついと視線を向けた。
「今度こそは!!今度こそはたどり着く!!」
町内の怪奇蒐集マニアの友人から買い付けた「呪いの人形と日記」がある!あれを使って必ずや自論を証明して見せる!!と息巻くのは清継。どうやら前回計画した旧校舎探索は失敗に終わってしまったらしく、話を期待していた友人らからつまらないと一蹴されてしまったらしい。
…まぁ、ご存じの通り、旧校舎に妖怪は居なかったのではなく、リクオの頑張りとリオウによって記憶を消されただけなのだが、知らぬが仏とはこの事だろう。
「その話、ほんとう?それ、私も見たいんやけど」
目を輝かせながら話に乗っかったゆらに、清継以外の全員が引いた。え?この子そっち系?なんて声も聞こえてくる。そーかい!?なんて嬉しそうな清継は、巻と鳥居という女子生徒も巻き込み、彼らも仲間だと声高に宣言する。
「おや…家長さんと奴良君!!丁度良いところに!!」
たまたま廊下を通りかかって見つかってしまったリクオとカナが、ゲッしまった!!なんて蛙が潰れたような声をあげていることも、よぉーし!!のってきたぞぉ!!と完全に楽しそうな清継は気づいていない。
「清十字怪奇探偵団!!今日はボクの家に集合だからな―――!!!!」
(な…なんか勝手に団体化しちゃってる――!!)
内心あきれ返るこちらもなんのその。清継は大股で此方に歩み寄ると、ガシッと両肩を力強くつかんできた。
「奴良君、これに先だって折り入ってお願いがあるんだ」
「え?な、何?」
「君の、あの麗しのお兄様をご招待してもいいだろうか!!!!」
「………は?」
思いがけない言葉にリクオはぴしりと固まった。曰く、以前旧校舎から助け出してもらった時、一目惚れをしてしまったらしい。妖怪ではかの狐の君を想っているけれど、人間で恋をしたのは彼が初めてなのだと。……どうやらずっと前に一度だけ会ったことがあるのを彼は忘れているようだ。無理もないが。
(ほらみろだから会わせたく無かったんだよ―――!!!!)
めきめきライバルが増えてしまっているではないか。いや、正直自分と清継なら確実に自分に軍配が上がるだろう。別にそれは問題ではない。だが、確実にアプローチをかけていくだろう清継が、相手にされないとはいえリオウの視界に入るのが許せないだけだ。…もしかしたら、リオウの姿を別な男に見せたくないというただの嫉妬なのかもしれない。
その時、甘く美しい……聞き覚えのある愛しい声が聞こえてきた。
「リクオ」
ばっと声の方を見ると、そこには人型に変化した兄がいた。相も変わらず黒髪黒目の人型であっても、神秘的で美しい。それでいてこちらを見て何処かホッとしたようにふわりと笑みを浮かべるところがたまらない。いや、って待ってくれ。何でここに兄さんがいるんだ!?
「兄さん!!体が弱いんだからダメじゃないか!!」
「今日は調子がいいから、散歩がてらな。ほら、忘れ物」
「あ、ありがとう…じゃなくて!!」
ばっと辺りを見回すと、リオウを案内してきたのであろう教師も、クラスの皆も、廊下を通りかかった生徒も教師も皆頬を染めて恍惚とした表情でリオウを見つめている。
確かに、普通に生活していたらこんな人間離れした美貌の人物に会うことなんかないだろう。リオウはそんな視線を知ってか知らずか、にこりと人好きのする笑みを浮かべるとリクオがいつもお世話になっております、と優雅に頭を下げた。
(余計なことしないで帰って―――!!!!)
いや、兄として、弟の友人に「弟がいつもお世話になっております」と挨拶するのは「人として」最低限の礼儀だ。だが、それはあくまで「普通の」人。
美貌で、声で、所作で、溢れ出る教養で周囲を魅了するリオウがのほほんとそんなことをやってみろ。清継なんか目じゃないくらい沢山の人間に目をつけられてしまうではないか。
「お、おおおお兄様!!!!///」
「?あぁ、先日はどうも」
「き、今日、ボクの家で奴良君たちと一緒に妖怪についてある自論を証明しようと思うのですが、よかったらお兄様も来てくださいませんか!!??////」
「私も?」
リオウは僅かに目を見開いた。リクオに視線を投げると、アワアワと何かを伝えたそうに手と口を忙しなく動かしている。そのまま視線を巡らせ、ゆらと呼ばれた少女に目を止めて、一瞬だが僅かに柳眉を寄せた。
(リクオは帰れと言いたげだな。だが、――なかなかどうして面白い)
リオウはふっと妖艶に微笑んだ。実に楽しそうな笑みに、リクオはひくりと頬をひきつらせる。
「構わない。リクオと共にお邪魔させていただこう」
(えぇぇぇぇ――――!!??)
リクオの心の叫びもどこ吹く風。学校が終わる頃にまた迎えに来よう、とリクオの頬を撫でると、リオウはついと頭を下げて帰っていく。
(もぉぉぉ兄さんはぁぁぁ~~~~!!!!)
男も女も皆兄の話で持ちきりだ。あんな綺麗な人初めて見た、恋人いるのかな?などなどリクオに飛んでくる質問も数多い。曖昧に笑って逃げながら、これからどうやって兄を守っていこうか考えてリクオは一人嘆息した。