天狐の桜19
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≪終゙点ーー終点゙ーーー≫
ガガ…とノイズの混ざるアナウンス。ガクンと大きく車体が揺れたかと思えば、瞬きの間に辺りから乗客の姿は消えていた。
暗く、木の根や蔦が古いレンガ造りの壁から床までを覆う、古い駅。しんと静まり返ったそこには、時折どこからか水の滴り落ちる音が微かに響くのみ。
「なんだ…ここ?」
≪なおこの電車は折り返しません。永遠に≫
「あ?おい。ふざけてんのか車掌」
巻は思わず眉根を寄せた。一体何なんだ。何がどうなっている。混乱に苛立ったように歯噛みする巻を尻目に、少女はひらりと電車から駆け出した。
「あ!待ってよ!!おい…っ!!あんたなんで鳥居の姿して…」
少女を追って外に出た巻は絶句した。木の根が縦横無尽に張り巡らされ、まるでドームのようになったその空間。そこには、天井近くまで堆く積まれたコインロッカーが聳え立っている。
「な…なんだこれ……どんだけ<コインロッカー>が……」
「生きて帰りたかったらぁ~~~…ここから迷子になった<私>を見つけて!」
これは確かに噂に聞いていた都市伝説だ。コインロッカーの赤ん坊が成長して……少女になって。こいつがその幽霊少女だったのか。
(ん?"わたし"を見つけて?)
「時間は44秒!ハイよーいスタート!!」
「ばっ…44秒!?ふざけんな!!!!」
「じゃないとぉ~~~──死ぬから」
少女の声は真剣で。飄々と笑いながらも、その目は笑っていない。間違いない、こいつは本気で此方を殺しにきている。
「……………"あんた"を…探しゃあいいんだな」
気丈に言葉を紡ぐ。"探して"だって?何を今さら。むしろ奇遇だ。自分は"彼女"を探しにきたのだから。
鞄をひっつかみ、中からマルチツールを取り出す。小型ナイフの刃を出して、ビッと少女に向かって突きつけた。
「やってやろーじゃん!!鳥居はここにいんだろ!?そんなそっくりな顔して関係ねーとは言わせねーーー!!浮世絵中一のパツ金ナメんなよ!!」
「うふふふふ。さぁどおかしら。10秒経過ーーー」
ひらりとコインロッカーの上に飛び乗った少女は、歌うようにそう言って笑った。さぁ、今度の人間は"私"を見つけてくれるだろうか。それとも、"お友達"として……ずっとここにいてくれるのか。
───今までの人間たちのように
「鳥居!!どこだー!!いるんだろ!?叫べぇ!!」
必死に木の根を切り裂いて、喉が割れんばかりに鳥居を呼ぶ。いるはずなのだ。此処に。この場所に。こんなにも彼女にそっくりな"幽霊少女"がいるのだから、無関係なはずがない。
「20秒経過ーー時間ないよーーー」
少女は実に楽しそうにクスクスと笑う。随分必死に探してくれているようだ。何故彼女が"鳥居"と呼んでいるのかは知らないが、それはまぁいい。
人間があがく姿は面白い。見つけられなかったら、仲間になってもらうだけ。でもきっと、きっとこの娘は──
(きっと限りなく"正解に近い")
意味もなくそう思う。面白くてしかたがない。今まで来た人間の中で、一番ワクワクしているかもしれない。
(この…声は…)
薄れ行く意識の中で、鳥居は遠くに親友の声を聞いた。
「巻…巻なの…?」
うまく声が出ない。掠れた弱々しい声。だが、それはきちんと巻の耳に届いていて。巻はばっと辺りを見回した。今の声は…!
「あと15秒」
「声がした!!ちょっと黙ってて!!」
「うそ?ホント~~~?聞こえないよ~~~」
少女幽霊がクスクスと笑う。制限時間はあと僅か。巻はめげることなく必死に鳥居の名前を呼び続ける。
「鳥居ーーー!!鳥居ーーー!!」
「来てくれたのね…巻…」
「鳥居!!!!」
微かに聞こえた鳥居の声に、巻はコインロッカーに飛び付いた。
「どこいんの!?喋って!!もっともっと喋って!!」
「あぁ巻…巻ィ」
「やったわ!やっぱりいたんじゃん!今開けるからもっと喋って!」
声を頼りに、必死に木の根を切り裂いてコインロッカーを抉じ開けようと試みる。時間が刻々と迫っていく。焦りが募るが、木が絡んで中々開かない。
ザクザクと根を切り裂き、力任せに扉を抉じ開ける。その時、ギィ…と軋んだ金属音をたてて扉が開いた。
「開いた!!」
鳥居は、息を弾ませた巻の声にホッと息をついた。しかし目の前の扉は開かず、変わらず漆黒の闇が広がるのみ。
「……巻?」
「ウゥッ!?」
開いたそこにあったのは、親友の顔ではなかった。ぎょろりと目を見開き、血の涙を流して絶命している少年。
「おしいーー残念時間切れーーーー」
「ま…待って…!!今のは間違えて…!!」
「だめよ。貴女もここで……」
私の遊び相手になってね
ずるずると死体がコインロッカーから這い出してくる。次々と這い出してきたそれは、ふらふらと巻の方へとにじりよってくる。
「ヒィィィ!!!!やめて!!!!イヤァァァア!!!!」
「巻っ!?巻!?あぁあ!!!!」
体に絡み付いた木の根が邪魔で、全く動けない。早く、早く巻を助けなくては。大事な大事な、最高の親友なんだから。
誰か……
誰か……ッ!!
「紗織ィィーーーー!!!!」
誰か紗織を助けて!!!!
「それは私の"気に入り"でな。手を出すことは罷りならん」
涼やかな声と共に、死体が青白い炎に包まれる。思わずひゅっと息を飲む巻の目の前に、<黒>と<白>が滑り込んだ。