天狐の桜3
夢小説設定
ご利用の端末、あるいはブラウザ設定では夢小説機能をご利用になることができません。
古いスマートフォン端末や、一部ブラウザのプライベートブラウジング機能をご利用の際は、機能に制限が掛かることがございます。
「……なるほど…4分の1は…妖怪だってーのか…」
鴉天狗から事情を聞いた鴆は情けないと自嘲した。此方はれっきとした妖怪だと言うのに、結局足手まといにしかならなかった。
「なぁリクオ。今のオメェなら…継げんじゃねぇのか?三代目」
オレが死ぬ前に、晴れ姿見せちゃあくれねぇか
リクオは無言を貫いた。代わりに酒を取り出し、飲むかと勧める。……任侠者の世界において、酒を酌み交わすとはそれすなわち相手をおのれの下僕として認めるということ。
鴆は実に嬉しそうに笑った。こいつになら、ついていける。命の限り仕えていくことも厭わない。親の代ではない、直接リクオから義兄弟の盃を受けとりたい。
「いいぜ、鴆は弱ぇ妖怪だかんな」
オレが守ってやるよ
リクオはニヒルな笑みを浮かべた。
焼け野原。嘗て屋敷だったものが辺りに散乱し、虫の声すらしない静まり返ったそこで、リクオと鴆は互いに腕を組んで盃を交わした。…義兄弟の盃を。
(惜しい…朝になるとまた戻られてしまうのだろうか)
「惜しい、という顔だな。鴉天狗」
「っリオウ様…。そりゃあ惜しいですとも。この姿、最高幹部に見せれば納得してくれるでしょうに…」
リオウはふっと目を細めた。確かに、今のこの姿を見せれば皆リクオのことを認めてくれるだろう。だが、それでは「人間」としての昼のリクオはどうする?どちらもリクオだ、どちらかが優遇され、片方が望まれないなど、そんな身勝手なことは許さない。
「兄貴、帰るぞ」
「もういいのか」
リクオは軽々と朧車に飛び乗った。リオウはその姿にふわりと微笑む。御簾の隙間から差し込む月明かりが、リオウの白銀の髪にキラキラと輝き、雪のような白い肌に長いまつげの影が落ちる。
それが酷く儚げで、幻想的で。今にも消えてしまいそうな麗しの兄に手を伸ばすと、リクオはそのままリオウを押し倒した。リオウははた、と目を瞠る。
「顔色がよくないな」
「いつものことだ。お前が気にする程のことではない」
「気にするさ。嫁の体を心配して何が悪い」
滑らかな頬に手を滑らせる。その手を頭の後ろに回して抱き上げたかと思えば、リクオの膝を枕にするように下ろされる。所謂膝枕だ。これには流石のリオウも頬をひきつらせた。僅かに頬が赤いのは照れからなのか。
「寝てろ」
「…必要ないと言っている」
「じゃあ旦那(オレ)の我が儘に付き合ってくれ」
長く艶やかな髪を一房持ち上げ、そっと口付ける。リオウは勝手にしろ、と疲れたように呟いておとなしく目を伏せた。
「カラスよ」
「え?」
「あとどれ程の盃を交わせば、妖怪どもに認められたことになる?」
「え!?」
「オレは、三代目を継ぐぜ」
(こ、この人…昼はあんななのに、一体どういうことなのか…)
鴉天狗は感激すると同時に酷く惜しい気持ちに駆られた。リオウはどちらもリクオだと微笑んでいたが、それにしても、やはり妖怪である己にしてみればこのようなお方に組を継いでもらいたいと思ってしまう。
「兄貴、三代目を継いだ暁には必ずあんたを嫁にとる。…オレの嫁(モノ)になる覚悟をしておけ」
「…若造が」
尻尾がたしんと畳を打つ。だが声を荒らげるでなく、大人しく膝枕をされて髪を撫でられているのを見るに、必ずしも嫌というわけではないんだろう。この気高く高貴な天狐にこうして触れられる優越感がぞくりと背中を駆け抜ける。
「なぁ、鴉天狗。さっきの画図。最高幹部って何人いるんだい?」
あまりに凛々しく、頼もしい姿に感激にうち震える鴉天狗に、リクオはそう言ってにやりと笑った。