天狐の桜18
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鯉伴の姿が一瞬にして本来のリオウの姿へと変わった。ぬらりひょんが反応するより早く、神気がその体を拘束する。
「これに懲りたら、私に喧嘩を売るのも大概にしてくださいませ。お祖父様」
酷く妖艶な微笑みを浮かべ、ぬらりひょんの薄い唇を撫でる。いつになく丁寧な言葉遣いな辺り、相当怒っているらしい。
「リオウ…テメェ…💢」
「おや、父上。流石は水も滴るいい男。言葉の通り頭の先から足の先までびっしょりだな」
「誰のせいだ誰のッッ」
「私のせいだな。私が、貴方を蹴り飛ばして、無様に池に突っ込ませた張本人だが。何か?」
(((すんごい煽っていくな…今日のリオウ様)))
妖怪たちは呆れたように、楽しげに挑発するリオウを見つめた。相当頭に来ていたのだろう。物の見事に相手をぶっ飛ばして、かつプライドまでズタボロにする辺り、本当に容赦がない。
「これで漸くお分かりか?お二方。心配されずとも、私は十分強い。───相手の実力すら正しく見抜けぬとは、お二人とも目隠しでもして生活でもしていらっしゃるのか?」
小馬鹿にしたように鼻を鳴らし、高慢な笑みを浮かべて皮肉を垂れる。美人なだけに、この凄まじく上から目線のこの態度も絵になってしまうのだから恐ろしい。
((こ、こいつ…いつか絶対なかす…💢))
物の見事にいいようにしてやられた総大将と二代目は、小憎らしい笑みを浮かべるリオウに頬をひきつらせた。
余談だが、この「なかす」というのをどんな意味で言っているのかは、あえて言及しないでおこう。全く、大人げない二人である。
リオウはそれはそれはにっこりと、非の打ち所の無い笑みを浮かべて小首を傾げた。
「自分は誰よりも強くて護られなくたって平気とか思っておられるだろう。まったく、護られる覚悟のない奴が、私を護るなどと烏滸がましいとは思いませぬか?お二方」
私だって貴殿方をこうしてぶっ飛ばすくらいには力があるというのに。なぜこれで一方的に護る、護られるの関係が成立すると思うのか。
「私もな、貴殿方に気を使って黙っていたが、最古参たちにもっと我が儘を言えと散々に言われてしまってな。ふふ、此度はこうして力で示させていただいた」
もっと早くにこうしていればよかったな、なんて言いながら、リオウは開けた着流しを整えた。まぁ、ぬらりひょん姿になっても吐血しない位には神気が回復したからこそ、こうしてうって出たわけだが。
リオウが腕を一振りすると、ぬらりひょんを拘束していた神気が解ける。ぬらりひょんは、その機を逃さず、リオウの腰を抱き寄せると、くいとその細い顎を持ち上げた。
「ワシの一番傍に侍るといい。のぅ、傍にいたいのじゃろう?」
「あっ親父ずりーぞ!!」
「ふふ、さて。お言葉は嬉しいが、今の私の大将はリクオだからな。あれの了承がなければ、私はあれから離れられぬ」
"貴方の副総大将"であった時もあったというのに。その時に手を伸ばさなかった貴方の自業自得というものでは?
(((うわ~~~そりゃ自業自得な上に地雷です総大将~~~~)))
そう、なんせ散々リオウがお側に置いてくださいと頼んでも、見向きもしなかった奴等である。まさに完全なる因果応報。自業自得。
リオウはするりと腕を抜けると、凛と響く声で首無を呼びつけた。
「首無。扇子を一本ダメにした。手配しておくれ。柄はお前に任せる」
「畏まりました」
ペコリとひとつ頭を下げて、ぱたぱた駆けていく後ろ姿を見送る。ざばりと濡れて重くなった着物を絞りながら歩み寄る鯉伴は、てきぱきと指示を出すリオウに目を眇めた。
「お前…俺達をこんなにしといて、おねだりしたかったのは自分がやることを黙ってみてろってそれだけか?」
「ほう、というと?」
「お前の気持ちは十分にわかった。可愛いおねだりのひとつでもありゃ、いくらだってテメェのために働くぜ?俺は」
「ワシもじゃ。よもや傍に置けぬとは…それだけが口惜しいがの」
「ふむ。では、お二方にお願いがあるのだが…」
上目使いに見上げ、口許を袂で隠す。烟るような睫毛がふるりと震え、桜の瞳がゆらゆらと揺れる。非常にいじらしい仕草に、二人の大将は頬が緩むのを感じた。
「お二人にしか頼めぬことでな…お願いでございます。どうか、お聞き届けを…」
「よい。何でもいってみよ」
「おう。ほら、何をしてほしいんだ?」
袂で隠されたリオウの唇が、妖しい笑みを形作る。様子を窺っていた妖怪たちは、その可憐な唇から出てくるだろう言葉を察して視線をそらした。
今や、屋敷は大惨事。総大将の部屋を中心に、襖や畳はぼろっぼろ。となれば、その望みは決まっているもので。
「嗚呼、ありがたきお言葉…♡」
天女もかくや、という可憐な微笑みをたたえ、リオウはそっと二人の手をとった。
「私は今から出掛けなくてはならなくてな。お二人には、この屋敷の、この惨状を、是非ともこの騒動前より綺麗に整えていただきたい♡」
「「…………………へ?」」
ぴしりと固まる大将二人に、リオウは頼みましたよ、とにっこり笑うと、巨大な狐の姿に転位して大空へと消えていく。
「「………………」」
「「「「…………………………………」」」」
妖怪たちはだらだら冷や汗を流しながら、かちんと固まっている二人からじりじり距離をとる。
(((ここにいたら、絶ッッ対手伝わされる)))
だが、悲しきかな完全に「あんたらで頑張ってくださいね俺達は知らねー」とそっぽを向くことが出来ないのが、下僕というもので。
「おいテメェらぁ…」
「何逃げようとしてんだァ…?」
地を這うようなおどろおどろしい声音に、思わず足が竦む。冗談抜きで怖い。下手な殺しあい以上に畏を感じる。いや、それもどうなんだという話だけれど。
「「テメェらも手伝え!!」」
「「「「「横暴だぁぁあ!!!!」」」」」
奴良家の庭に、妖怪たちの悲鳴にもにた叫びが響く。だが、大将命令に下僕が逆らえる筈もない。その日奴良組の妖怪たちは、やいのやいのと賑やかに、修復作業に追われるのであった。