天狐の桜1
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「おはよう、リオウ君」
「母上」
リオウはぱたぱたとよく働く若菜にふっと微笑んだ。自分よりずっとずっと年下の、母。自分を本当の子供のように扱ってくれる若菜を、純粋に母として慕っている。
人の子の一生は短い。かく言う自分も、生まれて暫くして祖母の死を看とり、その後も人間たちの命の儚さを目の当たりにしてきた。身内の死は、思うよりもずっと重いものだ。自分達神や妖怪にとっては瞬きのような人生。
(共に過ごせる時間を大切にしなければ、きっと後悔する)
自分に残された残り時間も少ない。だが、リクオも、若菜も、自分より長く生きるとは限らない。
「リクオ様おはようございます!」
「今日もお元気ですねぇー!」
「リクオ様、お着替えしましょう。小学校に遅れてしまいますよ」
朝から組の中は大騒ぎだ。まさにてんやわんやしている状態。我関せずとすました顔で茶を飲んでいたリオウは、ふっと目元を緩めた。
「何もリクオの身支度なんぞ首無に任せればよいものを…」
「皆若を構いたくて仕方ないんですよ~」
年嵩の妖がそう言ってリオウの傍に腰かける。それをみてわらわらとリオウの周りにも皆が集まってきた。因みに、リオウの半歩後ろには黒羽丸が静かに鎮座している。
(わぁ…今日も今日とてアイツ、リオウ様のお側離れないんだもんなぁ…)
(リオウ様のお側に俺達がじゃれていくだけでスゴい顔で睨むんだもんな)
(誰か古株の奴がいないと近寄りにくいんだよなぁ。俺たちだってリオウ様にかまってもらいてーのに)
なんて小妖怪たちの悩みなど露知らず。きちんとした所作で朝餉を終えたリオウは膝に乗ってくる妖達を優しく撫で、尻尾をゆらりと操って相手をしながら、最近のうちのシマはとぼやく年嵩のものたちの話に耳を傾ける。
「兄ちゃん!僕学校いってくるから!」
「おや、では見送りに行こう」
見送りに行こうなんて主体的に言ってみるものの、言う前からリクオにガッチリ手を掴まれていて、一緒に行こうと言われているも同然なのだがそれを言ってしまうとリクオがへそを曲げてしまうので心のなかにしまっておく。
ふわりと優しい風が吹き込んだかと思えば、リオウの姿は人間のそれへと変わっていた。面差しはそのままだが、耳や尻尾はなく、長い髪も烏の濡れ羽色。
お髪を…と慌てて飛んでくる首無や毛娼妓に構わぬとひらひら手を振ると、リオウはリクオに手を引かれるようにして外へと出ていった。