天狐の桜17
夢小説設定
ご利用の端末、あるいはブラウザ設定では夢小説機能をご利用になることができません。
古いスマートフォン端末や、一部ブラウザのプライベートブラウジング機能をご利用の際は、機能に制限が掛かることがございます。
「リオウ、お前ちょっと機嫌が悪くねぇか?」
「!」
部屋に戻り、遅い夕餉をとっていたリオウは、リクオの言葉にはた、と目を瞠った。リオウの傍に控えていた黒羽丸と首無は、気づきもしなかった主の様子にリオウを凝視し、犬神は心配そうに眉を下げる。
「……なんでそう思うんだ?」
「なんとなく」
なんとなく、なのか。
リクオの回答に、リオウの周囲は拍子抜けする。リオウは、困ったように柳眉を下げ、尻尾を揺らした。
別に機嫌が悪いわけではないのだ。ただ、ただ少しだけ。ほんの少しだけ、なんだかもやっとしているだけで。…絶対に気取られていないと思ったのに、よくわかったな。
「なんだ、"寄り道"のことまだ根に持ってたのか?」
「そんなわけあるか」
盃片手に呆れたように片目を閉じる鯉伴に、リオウは茶を飲む手を止めて突っ込んだ。それはもう別になんとも思っていない。
結果として、囚われた子供たちの魂も解放できたし、猩影とリクオが鬼纏で敵を撃破するのも見れた。だから、別にそこに関してはもうどうでもいいのだ。
(……………では、私は何にもやっとしてるんだ…?)
「大丈夫ぜよ?」
「ふふっあぁ、心配をかけてすまないな」
よしよし、と顔を覗きこんでくる犬神の頭を撫でる。嬉しそうに笑うのが年相応の少年らしくて可愛らしい。
これが"あにまるせらぴー"とやらなのか、なんて斜め上に思考を飛ばしながら、リオウは尚もわしゃわしゃと犬神を撫でる。忠犬のように嬉しそうに撫でられる辺り、リオウもリオウだが犬神も犬神である。
「リオウ、ちっと此方に来い」
若かりし頃の姿に戻っていたぬらりひょんは、ポンポンと自分の膝を叩いた。余談だが、ぬらりひょん三代が並んで酒を酌み交わしている光景はなかなか壮観である。
「……はい、お祖父様」
訝しげにぬらりひょんを凝視したリオウは、ため息をひとつついて立ち上がった。こんな風に自分を呼ぶときは、大抵何を言おうとこの祖父は退かない。
祖父の前に、若干の距離をとって座る。明らかな警戒に、ぬらりひょんはくつくつと笑うと、素早くその手を引いて抱き寄せた。
「!!!」
「「「リオウ様!!」」」
「「おい親父/ジジイ…💢」」
殺気立つ周囲も気に止めず、ぬらりひょんは驚きに目を見開くリオウの細い顎を持ち上げる。ついでその華の顔をじろじろと眺め、にっこりと笑った。
「ズバリ、ヤキモチじゃろ☆」
「はっ???」
まさにぽかん、といった様子でリオウは固まった。なんだって?ヤキモチ?………この私が?
側付き三人衆は勿論、リクオと鯉伴もぬらりひょんの言葉に固まった。いち早く我に返り、はて何のことだと思考を巡らせたリオウは、ぬらりひょんが言っていることに思い当たってかあっと頬を赤らめた。
「べ、別に私は妬いてなど…っ」
「ほう?鯉伴は兎も角リクオに見抜かれとるのによく言うわい。お前、昔から自分のことに関して感情を無意識に隠すの癖になっとるじゃろう」
寂しいも、悲しいも、いつもこの天狐は隠し通そうとする。感情を露にするときは、組のことや身内のことばかり。
十中八九、感情を隠すようになったのは、リオウの寂しがる顔が見たくて放浪癖を悪化させた鯉伴への反抗心だろう。が、リクオは兎も角、長年傍にいて、その表情を見続けた此方をなめないでもらいたい。
「ほら、何に妬いとったんじゃ?」
言わない限り解放してはもらえないらしい。本当に、妬いているにも入らないような下らないことなのだが。
「……リクオ」
リオウはついとリクオに手を伸ばした。お?と片眉をあげるぬらりひょんは、リオウが何に妬いているのか気になるようで、大人しく解放する。
リオウは、むすっとした顔でリクオの膝に手を置くと、ずいっと顔を近づけた。上目遣いに睨む顔に、リクオは思わずごくりと喉をならす。
「…私も、鬼纏がしたい」
「…………は?」
リクオは思わず目を瞠った。拗ねたように小さく唇を尖らせるのが可愛らしい。いや、それよりも…鬼纏?
「いつも氷麗や黒田坊ばかりではないか。私は、まだお前と一度しかしたことがない」
「……り、リオウ?」
「私もお前とひとつになりたい。ダメか…?」
「「「ダメだ!!!!/です!!!!」」」
間髪入れずに大将二人と側付き組から制止の声が飛んでくる。いや鬼纏がダメ、とかという問題ではなく、もうリオウの言葉の選び方の問題ではあるのだが。
「むぅ…私はお前の百鬼なのだろう?」
「……おう。いや、今のはそういう問題じゃなくてだな…」
リクオはにやける口許を押さえ、リオウの腰を抱き寄せた。顔を見られないように、そっと耳に唇を寄せるが、両隣の大将二人にも、目の前の側付きたちにもリクオがにやけきっているのは一目瞭然である。
((あー俺の嫁さんが今日もこんなに可愛い、とか思ってやがんだろうなこいつ💢))
羨ましい。物凄く羨ましい。誤魔化されぬぞ、と尻尾がリクオの背中をぽふぽふ叩くのだが、それも含めて羨ましい。
「次は必ず、な?」
「…本当か?」
「おう」
「ふふっ約束だ…♡」
リオウは満足したようで、にぱっと笑うとするりとその腕を抜ける。首無は意を汲んで、湯浴みの支度を持ってリオウと共に部屋を後にする。
そんな二人を尻目に、犬神はバチバチと火花を散らす三人の大将を見て目を瞬かせた。まだ此処に来て一年もたたないが、リオウの傍に侍ることで、大体の特徴は掴めた。…のだけれど。
「あの、」
「なんじゃ?犬神」
「総大将…って、リオウ様にソーユーこと教えない割に、手を出すのは何でなんぜよ?」
おずおずと質問した内容に、確かに、とリクオと鯉伴、黒羽丸もぬらりひょんを見つめた。此方は何も知らないぽやんとしてるのが可愛いとか、汚しちゃいけない気がして、とか色々あるが、目の前で「抱き潰してやろうか」とまで発言するこの男。結局何がしたいのか。
ぬらりひょんは、なんじゃそんなことかとケラケラ笑うと、ゆっくりと立ち上がった。悠然と襖に手をかけると、ついと皆を振り返ってニヤリと笑う。
「んなもん、ワシが教え込みたいからに決まっとるじゃろ」
「「「……………」」」
光源氏計画かーーーーー!!!!
妖しく笑って出ていったぬらりひょんに、男たちはバタバタと追いかけるも時すでに遅し。そこにはもうぬらりひょんの姿はない。
身内に惚れる云々は最早どうでもいい。どうせそんなことだろうとは思ってた。そんなことよりも今危ないのはリオウの貞操である。思ったよりも虎視眈々と狙ってるヤバイ奴が超身近にいるってどうなんだ。
その後、焦ったように湯浴みの最中なリオウのもとに突撃し、悉く首無に撃退される面々の姿があったのだが、それはまた別な話。