天狐の桜16
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奴良リオウは酒に強い。所謂蟒蛇という奴である。
飲んでも飲んでもつぶれることなんざ一度もなく、400年近く生きている彼の酔うところを見た者は一人もない。
話は変わるが、神々は穢れに弱く、妖酒を飲むことはできない。妖酒は醸造過程でどうしても作っている妖の妖気に侵されてしまう。その為、神々は妖酒を飲むことは出来ないのである。
それは周知の事実であり、その為リオウに妖酒である「妖銘酒」をはじめとした酒は出されない。彼に出されるのは普通の人間が作った酒だ。
ん?何でこんな話をしているのかって?
それは――――――
「…リオウ?」
「ん、ふふふ…♡」
現在進行形で、その妖酒を飲んでしまったリオウが完全に酔っぱらってしまっているからである。
犬神から徳利と盃を受け取り、酒を酌み交わすうちに、リオウの目元が徐々に赤く染まり、目が潤んできた。
一番最初に異変に気がついたのはリクオであった。酔った姿など見たことのない彼は勿論、鯉伴やぬらりひょんも、リオウの様子に首をかしげる。
「お、おい…リオウ?どうした?」
「ん、ぅ…♡ふふ、おじぃさま…?」
「リオウ、まさかお前…酔ってんのか?」
「ふふふ…ちちうえ、そんなこわいお顔じゃあ、男前がだいなしだぞ…♡」
(((完璧に酔ってやがる………)))
涼やかな目元を朱に染め上げ、とろんと蕩けた桜色の瞳が酷く色っぽい。理性もだいぶ飛んでいるようで、完全に言動がふわっふわしている。
気だるげな雰囲気に、潤み蕩けた瞳。しどけなく開かれた形のよい唇からのぞく小さな赤い舌。ただでさえ普段も色気の暴力といって差し支えないのに、それに加えて色気が5割増しだ。最早完全なる目の毒。
「こら、その辺にしとけよ」
「そうですよ、リオウ様。今お水をお持ちしますから」
首無はリオウの手からそっと盃と酒を取り上げた。恐らく台所で酒を間違えたのだろう。取り次ぎをしたのは犬神のようだし、彼はまだ来てから日が浅い。後できちんと説明しておかなくては。
思案を巡らせつつ、そう言って立ち去ろうとした首無の頬に、リオウの手が触れた。
「むぅ…ん、ふふふ♡くびなし…♡」
「り、リオウ様…?//え、は!?なっんむっ!?////」
誰が止める間もなく、リオウは首無の頭を引き寄せて唇を重ねた。触れあうだけの幼稚な口づけだが、ちゅーーー♡と効果音をつけてやりたいくらいには長い。いや、衝撃的すぎてそう感じるだけなのかもしれないが。
リオウは一頻り口吸いすると、ぺろ、と舌舐りしながら首無を流し見る。脳が状況を処理できなくなったのか、鼻血を出して昏倒する首無に、リオウは妖艶に笑う。
「ふふ…っ♡ん、もうしまいか?もっと楽しませておくれ…♡」
これにはあれほど騒がしかった大広間も水を打ったように静まり返った。え、リオウ様って酔うとキス魔だったのか?いや、それよりも、だいぶ腰にくるその色気を何とかしてほしい。
「リオウ!っ!?」
「ふふっ♡リクオ…♡んん♡」
リオウはリクオの首に甘えるように腕を回して、唇を重ねた。最初は動揺に固まったリクオだが、リオウからキスをしてくれるなんて願ってもないチャンスに、口づけで応える。
小鳥が啄むような、しかし何度も何度も角度を変えて行われる長い口づけ。体を支えるように背中を支えていた手が、戯れに尻尾と耳に触れたとき、リオウは柳眉を寄せていやいやと首を振った。
「むぅ…や…っ、私は、口吸いがしたいだけなんだ。だから、変なとこさわるな…っ」
(かっっ…)
(((((かっわいい…………////)))))
その場にいた者たち全ての心が一つになった。なんだそれは。拒絶の理由も可愛らしいが、いやいやと幼子のように首を振る仕草も可愛らしい。
リオウはするりとリクオの腕を抜けると、慌てる妖怪たちなど露知らず。彼が可愛がっている面々の唇を戯れに奪っては、妖艶に笑ってまるで花から花へ移る蝶のように腕のなかから消えてしまう。
猩影に犬神、牛頭丸なんかのうぶな面々は赤面して固まり、若い頃に転位したぬらりひょんや鯉伴、その他ある程度経験のある面々は、腕をすり抜けるリオウに不服そうに唇を尖らせる。
…まぁ、逃げられる面々は、口づけの途中で悉くその体に触れようとしたのが原因なので、自業自得なのだけれど。
「り、リオウ様ぁ~~~!?///い、いけません///そんな、////」
「ふふ♡相も変わらず、お前は愛いな…♡氷麗♡」
リオウの白魚のような手が氷麗の後頭部を引き寄せ、唇が重ねられる。…と、重ねられる寸前にリオウの細い指が氷麗の唇に押し当てられ、その上からキスをする形となる。
直接のキスじゃないことに、身構えていた氷麗ははぇ?とすっとんきょうな声をあげた。リオウは蕩けるような笑みを浮かべて、氷麗の頬を撫でる。
「直接、熱い口づけをしたら…お前は溶けてしまうだろう…?だから、おあずけ♡」
「ッッ~~~~♡♡////」
「きゃーーー雪女ーー!?」
声にならない悲鳴を上げて後ろに仰け反る氷麗に、思わず毛倡妓が悲鳴をあげる。やだもう本当にどうしよう。
何がどうしようって、水を勧めても「やだ♡」の一言で切って捨てられるし、そもそも此処にいる面々の殆どがあわよくば自分もリオウ様と…♡なんて考えている奴等ばかりなもので、ちゃんと止められない。
この頃になると、外で羽子板で遊んでいた三羽鴉も、漸く中の様子がおかしいことに気がついた。
「リオウ様?っ!」
「くろうまる…♡」
ふら、と歩み寄り、首に腕を回すリオウに思わず瞠目する。だが、赤面するより早く、鼻につく酒の匂いとその泥酔っぷりに、黒羽丸は眉をしかめた。
「誰だ…リオウ様をこんなになるまで酔わせたやつは……💢」
場の空気が二、三度下がり、ぞわりと背筋が粟立つ。流石はリオウ様至上主義のお側付き。妖艶に口づけをねだる姿にノックアウトされる前に、泥酔している現実に気づいて周りに殺気を飛ばすとは。
「お水をお飲みください、リオウ様」
「ふふっ♡いやだ…♡」
酔っ払い相手に真面目に相手していても拉致が明かない。黒羽丸は深く息をつくと、近くにいた毛倡妓の盆から、水の入ったコップを奪い取る。
(ま、まさか頭からぶっかけたりしねぇよな?)
(無理に口にコップ持ってっても意味ねぇと思うぞ~?)
主の緊急事態となると、どこかぶっとんだ行動を起こす、生真面目ド天然なこの男。流石にリオウに危害を加えるようなことはしないとは思うが…とはらはら見守る周囲をよそに、黒羽丸はコップの水を口に含んだ。
「?くろ、んぅっ」
「「「はぁぁああ!?」」」
舌で唇を抉じ開け、喉の奥に水を流し込む。驚いて引っ込もうとする舌を、己のそれで押さえつけて大人しくさせる。驚きに目を見開き、しかしとろんとした顔でそれを受け入れたリオウは、こくりと水を飲み下した。
「ん、はぁ、♡もっと…♡」
「畏まりました」
黒羽丸は涼しい顔で口移しに水を飲ませていく。二度、三度とそれを繰り返したところで、腰が立たなくなってしまったのか、リオウの体ががくりと崩折れる。
「は、ぁ♡ふ…♡ん、くろう、まる♡」
「はい、リオウ様」
眠たそうにうとうとするリオウを優しく抱き上げる。呆然とする面々を残して、黒羽丸は大広間を後にした。
そろそろお召し替えもしなくてはいけないし、なによりこの状態のリオウをこんな狼の巣窟においてはおけない。
「………うわぁ…やっちまったな」
「……後で我に帰って墜落するに一票」
「えぇ…んじゃあ俺は、結局気づかなくて周りに言われて自覚して慌てるに一票」
颯爽と部屋を後にする黒羽丸の背中と、呆然と固まる一同を交互に見て、弟妹たちが好き勝手言い合っていたりするのだが、それはまた別の話。