天狐の桜16
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12月31日。世間一般では所謂大晦日と呼ばれるこの日。人々は大掃除にお節の準備にと走り回っている。
それは妖怪も例外ではなく、奴良組の面々もこの日ばかりは、新年を迎えるために忙しく働いている。
「今年の汚れは今年中にだな!よっしゃーやるぜー」
「今年はいろいろあったからな~」
妖怪たちは天井裏から、棚の上は勿論、部屋の隅の埃までひとつ残らず掃き出していく。クリスマスだなんだと、年末も連日飲み会を開いていたが、今日ばかりは仕事をしなくては。
「おーいまだ呑んでんのかよ!」
「んぁ…もう大晦日か」
「早くせんと幹部らが来るぞ!」
鴉天狗にせっつかれ、皆パタパタと走り回っている。ちなみに挨拶まわりから帰ったリオウは、部屋の片付けを終わらせ、居間で客間に飾る花を活けている。
時に、年末には心霊特集番組が増える。
「あっなーなー!これリオウ様じゃねー?」
「あっほんとだ!!リオウ様ーリオウ様!」
「はいはい、なんだって?」
リオウ様特集してる!!ときゃあきゃあ騒ぐ小妖怪たちをあやしながら、テレビに目を向けたリオウはぎょっと目を瞠った。
≪【大スクープ!!】狐の神様"天狐"は実在した!?京都の怪騒動と天狐の謎に迫る!≫
「……………………は……?」
それは散々動揺した末に出てきた唯一の言葉であった。耳と尻尾がぴしりと固まる。どういうことだ。特集?何故?
「…………………まずいな…」
これはまずい。非常にまずいことになった。出来れば平穏に平穏に、組の皆と暮らしていたいのに、どうしてこうなった。
何より、自分のことを大々的に解説されて特集されるのが、この上無いくらい恥ずかしい。画面の向こうでは、専門家を名乗る人物がつらつらと偉そうに解説を続けている。
≪天狐とは、4本の尾を持つ神狐であり、強力な神通力を持つ慈愛の神です。天狐は神の中でも特殊であり、最も強い力を持つ皇となる者と、それを守護する一族からなります。≫
一族と言えど、数が多いわけでなく、神通力を扱えるのは皇だけであると言われています。しかし、書物によれば、ある事件によって一族は皆殺しにされ、皇である姫が生き残ったそうです。
≪では、今回はその姫が?≫
≪いえ、目撃者の話では青年の姿をしていたと。その姫の子供か、姫と伝わっていたことが誤りであったことかはわかりませんが、この青年が天狐の皇であり、最後の生き残りであることに間違いはないでしょう≫
映像や写真もあるんです!と画面に映し出されたのは、とある古寺での光景であった。
純白の狐耳に4本の尾を持つ、和装の美青年。青年が手をかざすと、優しい光が溢れ、人々の傷がどんどん癒えていく。呆気にとられて言葉もない人間たちに、青年は気を悪くすることもなくくすくすと笑って姿を消す。
(あの時か………)
昔は連絡手段なんぞ文か早馬、特異なものでは式神位なものだ。見たものを視覚化して伝えあうとすれば、絵姿位しかない。…………そう思っていたから、完全に油断していた。
(しっかり写ってしまっているな…この可能性は失念していた)
妖や幽霊、神といった人ならざる者というのは、普通常人には見えないものだ。しかし、力の強いものは、人間の目にもうつるように顕現することが可能である。
今回は、妖に襲われる人間たちを助けるために、人間の前に姿を現した。…が、まさか動画をとられて拡散されるとは思わなんだ。
≪現在京都では、天狐饅頭やグッズも多数販売されてるんですよ~!≫
「嘘だろう……勘弁してくれ……」
畏が集まる、なんて純粋に喜んでもいられない。ただただ恥ずかしい。なんだ天狐饅頭って。お狐様のぬいぐるみまで出ているらしい。
妖たちも、頭を抱えるリオウと画面を見比べ、あちゃあと目を眇める。流石日本人。何でも商売にしたがるその商魂と仕事熱心さは認めよう。
だが、………神様事情的にはこれ不敬に当たらないか?大丈夫かよ日本人。まぁ当の本人(リオウ様)は、これしきのことで不敬だやめろと怒ったりするような方ではないが。
「何で年末のこの忙しいときにこんな…絶対新年の挨拶にきた奴等の話題はこれになるだろうが…」
((((リオウ様も気にするとこそっちなのか~~~))))
おおらかで優しいところがこの神のいいところだが、天然ゆえか、どこか若干ずれている気がしてならない。
無礼者!!なんて感情は微塵もなく、ただただ恥ずかしいだけなのだ。恥じらい困惑している様子で、耳と尻尾が垂れている。
(マスコミ査定が云々、とリクオに怒られてしまう…)
なんといって誤魔化そうか、なんて思いながら額を押さえて息をつく。
因みにこのあと、続々と挨拶にやって来た幹部たちに、お土産に是非これをと、天狐饅頭やらキーホルダーやらぬいぐるみやらの『天狐グッズ』をわんさか渡されて頭を抱えていたりするのだが、この時のリオウはまだ知らなかった。