天狐の桜15
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"つらら組"なるものが誕生した氷麗は、へこたれていたのが嘘のようにテンション高く駆け回っていた。
「さて何をしましょう荒鷲一家!!!」
「うるせぇなぁ、今忙しいんだよ!!!!」
「だからこそお手伝いに…」
「あぁ~~!?」
また来やがった、とばかりに荒鷲一家は顔を歪める。このくそ忙しいときに、ガキのお守りまでしてられるか。冗談じゃない。
「じゃあ~~買い出し行ってこい!野菜だ…これとこれと…重くて無理だろーけどッでも今すぐ欲しいんだよな~~!!!!」
「はい!!行くわよみんな!!」
元気よく返事をして、氷麗はぱたぱたと駆けていく。その後ろには、氷麗組の面々がふよふよとついて回っている。
「…ガキ増えてねーか?」
強面集団な荒鷲一家が、これでは幼稚園だ。しまりがないったらありゃしない。使えない頭を据えただけならまだしも、ここは子守りをするとこじゃあないというのに。上は何を考えているんだか。
「ったくえらい奴を…」
「買ってきました!!!!」
「うぉぁ!?はぇぇなぁ!?」
「はい!ありがとうございます!」
にっこにこ笑顔で氷麗はくるくるとよく働く。すっかり調子も戻ってきた様子で、いきいきとしている。その姿には、荒鷲一家も目を瞠った。
「氷麗は頑張っているようだな」
「…………」
出店をまわりながら、ちらと元気に走り回る氷麗に視線を投げて、リオウはふっと目を細めた。元々年下に甘いリオウだが、氷麗や猩影など組のなかでも特に年若い面々に関しては殊の外世話を焼いている。
組の副総大将が手づから教え、頭を撫でて褒めてくれるなんて、普通は絶対にあり得ない。ましてやこうして見守ることなど。
(………少々甘やかしすぎではないだろうか)
嫉妬とも、いつもの生真面目すぎる性格ゆえの気づきともつかぬ複雑な感情。いや、そもそも体が弱いのだから、不必要に外に出ない方がいいのだが。
「………!」
黒羽丸の目に、とある古道具屋の一点の指輪が止まった。リオウの瞳と同じ紅水晶が据えられた小さな指輪。よく目にする指輪の形とはどこか違う、独特な繊細さのあるデザイン。
黒羽丸の視線に気づいたリオウは、その先にある指輪を見て感心したように息をついた。これはまた、随分と珍しい代物だ。
「ほぅ…桜形の指輪か。これは大正辺りの代物か?」
「おや、別嬪さんよく知ってるねぇ。このタイプのものは戦争始まってから消えちまってねぇ。大正時代に発展した日本独特の繊細なデザインが…」
(…………流石だ)
黒羽丸は、懐かしいなと目を輝かせて目利きをするリオウに舌を巻いた。一目見て物の価値を当て、その背景なりなんなりを店主と楽しそうに語り合う。
「あんた話せるねぇ。さては歴史学生だろう」
「ふふっ、まぁそのようなものだ。…桜形の台座に、紅水晶の石か。なかなか良い代物だな」
リオウは指輪を持ち上げ、ついと目を細める。見たところ、大正時代初期のデザインか。恐らく、日本で指輪のデザインが作られ始めてすぐ辺りの作品だろう。
「男がつけるにはちと可憐すぎるか?」
「ふむ、台座と指輪のデザイン自体は問題ないだろうが、石の色がな…ふむ。そんなら、ほれ、こうして紐を通して首から下げれば…」
「ほう、それなら似合うだろうな」
細い革紐に通し、首飾りにして見せる店主に、リオウは満足そうに頷いた。店主はリオウとその後ろに控える黒羽丸の顔を交互に見て、微笑ましそうに目を細める。
「別嬪さん、もしかして、そこのにーちゃんはあんたの彼氏かい?」
「!」
「な…ッ///」
焦る黒羽丸に、きょと、と目を丸くするリオウ。店主はにこにこと笑いながら、お代は良いからと指輪を手渡した。
「あんた別嬪だからな、まけとくよ。まさかお迎えが来る前にこんな別嬪さんと話せるとは思わなかった」
「おやおや、ふふっどうもありがとう。また来年も来よう。是非長生きしてくれ」
彼氏、という言葉に肯定も否定もせず、リオウは人好きのする笑みを浮かべて店を離れる。慌てて追いかける黒羽丸の首に、先程の指輪の首飾りをかけ、ぐい、と引いた。
「!」
「欲しい、と顔に出ていた」
なかなか似合うではないか、と満足そうに形の良い唇が弧を描く。それならば鎧の下につけても邪魔にはなるまい。
「あ、ありがとうございます」
「紅水晶の意味は"慈愛""優しさ""和やかさ"だったか。自身や周囲の負の力を溜めない、衝突や争いを避け、心に安寧をもたらす力があるらしい」
パトロールは衝突も多いだろうし、丁度良いだろう
リオウはそう言ってぱっと手を離した。次はあれを見てみたい、とリオウは無邪気に笑って店屋をのぞく。黒羽丸は首にかけられた指輪をなぞり、そっと握りしめた。
(慈愛、優しさ、和やかさ…)
まるで貴方様のようですね、と喉まででかかった言葉を、黒羽丸は飲み込んだ。