天狐の桜15
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リオウと黒羽丸は、ガラクタ市が行われている会場へとやって来ていた。狒々の屋敷を後にした後、挨拶回りにと雪麗の屋敷を訪れたのだが、ものの見事にお説教された上に追い出されてしまったのだ。
「近いうちにまた会いに行かなくては」
「…菓子折りの準備をしておきます」
黒羽丸はついと頭を下げた。まこと先程の雪麗の形相は凄まじいものであった。美人が怒ると怖いというのはリオウで実感していたけれども、やはり怖い。
『あんたね~~~~💢最後に此処に来たの何ヵ月前!?言ってごらんなさいよほら💢』
『よ、4ヶ月前デス…』
雪麗はそうよ!と憤然と畳を扇子でひっぱたいた。リオウの肩がびくっと跳ねる。背中に冷や汗が伝うのがわかる。
4ヶ月前、京都から帰って、リオウは乙女と鯉伴を連れてこの雪麗の屋敷を訪れた。…雪麗に多大なる心労と迷惑をかけたことを謝罪させるために。
『………………は~~~~~』
長い沈黙に長いため息。びくっと肩を揺らす頭を下げた二人に、雪麗は怒鳴るでもなくあのね、と口を開いた。
『妾は確かに迷惑を被ったわ。でも、それはもういい。今こうやって謝ってもらったから。それよりあんたたち…リオウにはちゃんと謝ったわけ?』
『は?』
これにはリオウの方が目を瞠った。思わず声をあげたリオウに、雪麗はぐわっと怒りに満ちた顔を向ける。
『は?じゃないわよ!!何あんたがすっとんきょうな声出してるの!!あんたはもうちょっと被害者ヅラして見せなさいよ!!まさか止められなかった自分のせいで妾が出てったとか思ってないでしょーね!!』
『あ、いや、あの』
『あんたが、妾が出てったのをひどく気に病んでたのは知ってたわ。でも、それはあんたが悪いんじゃないの。どーも根本的なとこ間違えてるってゆーか他人のせいに仕切れないってゆーか…あんたもう少し他人に厳しくなりなさいよ!!!!』
『は、はい…』
勢いに気圧されて思わず素直に返事をする。なおも雪麗は止まらない。
『出ていったらあんたが悲しむと知っていて、それでも出ていったことは妾が悪かったわ。それに関してはあんたにはとても申し訳ないことをしたと思ってる』
『…いや、だがそれは』
『いーから人が謝罪してるときは黙って被害者ヅラして素直に受け入れなさい!!!!』
『……………………はい』
なんで謝罪を受ける側が怒られているのだろうか。それから!!!!と雪麗は鯉伴の頭に扇子を突きつける。
『顔をあげなさいよ。乙女ちゃん、あんたもいいわ。気持ちはわかったし、帰ってきてくれたことが嬉しいから。――問題はあんたよ、鯉伴』
散々心を尽くした息子の気持ちを踏みにじり、結果的に嫁を守りきることもできず。言わせてもらえば、乙女が出ていく前から、息子と嫁をほったらかしにして遊び歩いていた放蕩っぷり。
『そんなあんたの土下座に一体どれ程の価値があるの』
((うっわ~~~~~……………))
奴良家の男二人は内心震え上がった。母同然の存在である雪麗には、どうも二人とも頭が上がらない。
『まぁいいわ。しっかり謝ってもらったし、この件はもうこれで終いにしましょ。リオウ、あんたは時々此処に顔出しなさいよ』
なんてことがあったのに。
この4ヶ月、年の瀬が近づくにつれ、物凄く忙しくなった。京都へ同行した遠野の面々に礼を言いに遠野まで飛んだり、新体制に移行したにあたって幹部の面々を訪問したり、シマの土地神たちを見舞ったり。
お陰でやり取りは文のみで、一度も会いに行くことは叶わなかった。マズイマズイと内心焦りながら、今日漸く来ることができたのだが、まさかここまで怒っているとは。
『あんたが忙しいのは知ってるわ。だからやり取りが文だけだったのもね。だったら呼べばいーでしょーがッッ!!!!』
『い、いや…逢いたいからといってわざわざ呼びつけるのは悪い気がしてな…』
『はぁ~~?💢あんたに逢いたいって言われりゃ飛んでくに決まってんでしょう!!それでなくとも4ヵ月文だけでほったらかしは無いわ!!💢』
おっしゃる通りで…
思わず頬をひきつらせるリオウの姿に、後ろに控えていた黒羽丸は珍しそうに目を瞬かせた。この方にはこんな顔もなさるのか。
『このまま新年の挨拶まで来なかったら氷づけにしてやろうかと思ったわ。いいこと?女の逢いたいを察するのが男ってもんよ、この仕事中毒者』
『…ふふ、』
『なによ』
憮然とした態度の雪麗に、リオウはふにゃりと甘えたような笑みを浮かべた。ドキ、としてしまうのが妙に悔しい。これだからぬらりひょんの一族ってのは…
『いや、なに…そこまで逢いたいと思っていてくれたのかと思ったら嬉しくてな』
『――――あ・ん・た・ね~~……だっっっからそういうとこだって言ってんでしょこの無自覚ド天然タラシ!!!!』
もういいわ!!遠慮なんかしないで押し掛けてやるーー!!
怒声に急き立てられるように、リオウと黒羽丸は屋敷から追い出された。何か怒らせるようなことを言っただろうか、と困ったように小首を傾げるリオウに、黒羽丸はどこか呆れたように小さく息をつく。
(無自覚というものは恐ろしいな…)
「…ふむ。まぁいい。行こう、黒羽丸」
叱ってくれるというのは愛されている証拠なのだから、気にやむ必要などない。次に気を付けてやればいい話で。
リオウはそう結論付けると、ごくごく自然に黒羽丸の手をとって歩き出した。その瞬間、黒羽丸の思考が停止する。
「え、なッ!?お、お手を…!?///」
「?でぇと、とは手を繋ぐものだと氷麗が言っていたぞ。ふふっほら、おいで」
宥めるように優しく促され、黒羽丸は観念したように繊手を握り返す。いつもと変わらぬ仏頂面。だが、僅かに目が泳ぎ、耳まで赤く染まっている。
(照れているのか)
きょと、とそれを見返したリオウは、クスクスと楽しそうに小さく笑った。