天狐の桜15
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リオウ様、リクオ様、師走です!
「また飾りが落ちてる」
中学校の清十字団にも参加ができないくらい忙しくなってしまいました。
「お、おじょーちゃん偉いねぇー」
「はーい」
それもこれも、リクオ様が三代目を襲名したため、リクオ様の側近だった青田坊、黒田坊が幹部入り!それにともない一部の幹部が引退。
着々とリクオ様態勢が出来上がる中、なんと私めも三代目側近頭になってしまいました!
『氷麗なら任せられよう。これは誰よりも責任感があって一生懸命だ。この組のために、努力は惜しまないでいてくれることだろう』
(リオウ様にあぁ言っていただけたからには、ここでちゃんと氷麗はできる女だと証明しなくては!)
そうなると地盤の強化のため、我々も新たな畏を集めねばなりません。牛鬼様や鴆様のように、組をもつのです。青、首、黒も頑張っています…私も頑張らなくては!
しかし私は、自分の百鬼など考えたこともありませんでした。そこで任されたのがこの錦鯉地区。以前は母である雪麗の管轄だったそうです。
「あの!何かお手伝いすること御座いますか?」
氷麗は屋台の店主達に声をかける。今日は、この錦鯉地区で行われるガラクタ市。こうした祭りで店を出すテキ屋。これも奴良組の畏を集めるために重要な仕事の一つだ。
氷麗の声に、まさにヤクザの名に相応しく屈強な男達が振り返った。強面の男達がぎろりと睨み付ける様は、流石凄みが違う。
「……「おじょーちゃん」は見ててくんな」
「あ、でも私ここ任されたんで…あの」
「こちとら今日のガラクタ市で忙しいーーーんだよ!!!」
ガァンッと苛立ちに任せて鉄板を叩きつける。ひぇ、なんて情けない声をあげて肩を竦める氷麗を、ぞろぞろとがたいのいい男達が取り囲む。
周囲の客から女の子を囲ってるぞ、うわっこわ…なんて声も聞こえてくる。だが、此処錦鯉地区に長いこといる彼等とて、年若い頭に思うところがあって。
「いいですかい。上からの命令だから置いときますがねーーー」
「こちとら三百年この界隈でやってんだ!!!」
「おぅおぅお飾りの頭は黙って見てなーーー!!!」
「ヒィ…」
この人たちは奴良組系荒鷲一家…奴良組の財源のひとつである、歴史深いテキ屋系妖怪ヤクザなのです!
錦鯉地区は浮世絵町とは離れてますが、下町もまた奴良組のシマなのです。怯んではダメ…来るべき戦いのために、ここも強化しなくちゃ!
「で、でも私、本家ではお料理も任されておりますし…」
「ふん、雪麗さんの娘なぁ…」
じろじろと値踏みするように氷麗を見た。こんなちんちくりんの小娘が、か。
「あの人は色っぽかったけどなぁ」
「へぇ!?」
「こんなガキ持ってきて…新しい大将は何考えてんだい」
「いや、なんでもリオウ様が推薦なさったらしいぞ?」
「嘘だろマジかよ~~」
(り、リオウ様とリクオ様の悪口まで~~!!!)
どーせならリオウ様が顔だしてくりゃぁやる気でんのにな、なんて言いながら、男達は屋台へ戻っていく。
氷麗はぽつんと神社の社の縁側に座り込み、一人悔しさに身を震わせていた。情けなさすぎる。こんなの、リオウはおろか誰にも見せられない。
「かかか…バッカだなー雪ん子ぉ」
ケラケラと笑う声にばっと顔をあげると、木の上で牛頭丸と馬頭丸が情けねぇと言いながら高らかに笑っていた。
「あ!あんたたち!本家預かりでしょー!なんで外に」
「バーカ。それはもう解かれたよ。牛鬼様が貸元頭になられてお忙しいからな。いつまでも本家で遊んでるわけにゃいかんのよ」
「んでもって、今はリオウ様に頼まれたお使い中ー」
リオウ様に頼まれたお使い?と氷麗は目を瞠はる。そんな氷麗を嘲笑うように、牛頭丸はそれはそれはいいどや顔で胸を張った。
「"お前達はしっかりしているから、信頼している。よろしく頼む"っておっしゃられちまったからなー!」
「な、ななななな…っ」
自慢か。自慢なのか。そりゃあ自慢したくもなるだろう、あのリオウ様に"しっかりしている""信頼している"なんて手放しで誉められたんだから。きぃー悔しい!!
(……おやおや…大丈夫か?)
そんな悔しそうに拳を握りしめる氷麗をひっそりと見守る人影があった。人間に化けたリオウである。マフラーに大きめのカーディガンを羽織った温かそうな格好もスマートに着こなしており、すれ違う人々から熱い視線を投げられる。
「こぉら。こんなとこで一人で何してんだ?別嬪さん?」
「っ!?」
リオウは突然後ろから抱き締められ、咄嗟に鳩尾に肘鉄をかましながら回し蹴りを放つ。おっと、なんてヒラヒラ手を振りながら離れた人影は、ついで隙をついてリオウの手首を壁に押し付ける。
「げっ、父上…」
「"げっ"はねぇだろ。護衛もつけねぇで何一人でふらふらしてんだ?」
人間に化けた鯉伴は、リオウの黒髪に指を滑らせた。相変わらず、人間のこの姿も実に美しい。だが、少々自分の魅力に無頓着すぎるのが玉に瑕か。
「黒羽丸はどうした」
「私だって一人になりたいときくらいあるものだ」
「一人に、ねぇ?…!」
うっとりするほど麗しい笑みを浮かべて、リオウは父の唇に指を押し当てた。ぞくりと背筋が甘くしびれるのを感じる。ここまで一挙一動が妖艶に成長するとは、最早こいつの畏は色気なんじゃないか?
「野暮なことは仰らないでくれ」
(野暮、ねぇ…?)
あの護衛の黒羽丸の目を盗んで抜け出すとは、流石はぬらりひょんの血を引いているだけある。ちゅ、と指先にリップ音をたてて口付け、じゃあ、と口を開く。
「お前は、どんな言葉が欲しいんだ?」
「ふっそれこそ…遊び人の名高い父上ならすぐ分かりそうなことだが」
ついと伸ばした繊手が、そっと鯉伴の胸を押す。誘うようなその仕草に、鯉伴はくっと口角をつり上げた。そこまで言うなら応えてやろうじゃねぇか。
「俺とデートしようぜ?リオウ♡」
「お断りします♡」
は?
思わずぽかんとした鯉伴の目の前で、リオウの体が桜の花びらとなって消えていく。あ゙っと手を伸ばすも、ふわりと散った花弁が悪戯に手を掠めるのみ。
「やられた……」
まさかこうくるとは…さて、どうやってあの奔放すぎるかぐや姫を連れ戻そうか。やれやれと頬をかきながら、鯉伴は深く息をついた。