天狐の桜15
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京都の戦いから4ヶ月―――――
「ホッホッホッホッ」
朝から氷麗はパタパタと走り回っていた。朝の六時には洗濯物を干し、学校でも備品を持って忙しそうに駆け回っている。
「お、なんだ?朝から早いな」
「師走だからであろう。ふふっこの時期は雪も降るからか、氷雪系の妖は皆元気一杯だな」
寒いの嫌~と言いながら火鉢にあたる小妖怪達を眺め、リオウはふっと目を細める。鯉伴はリオウの尻尾を徐に撫でた。4本の尻尾は相も変わらずモフモフとしていて温かい。
「お前を懐に抱いたらあったけぇよな…」
「………どこの世界に息子を湯たんぽがわりにする親父がいるんだ」
リオウは呆れたように言って、ぴしっと鯉伴の顔を尻尾で叩いた。まったく、ろくなこと言わない男だ。因みに、京都から帰った後、すっかり意気投合したらしい若菜と乙女は、にこにこ微笑みながら朝の茶事を楽しんでいる。
「お抹茶美味しい**」
「お茶菓子もとっても美味しいわ**」
「母上方のお口に合って良かった」
リオウはのほほんとした母達を微笑ましく見つめる。お互いがお互いによい影響を与えあっている様で、此方が憂慮していたことはまったくの杞憂であった。
度々、二人でお買い物に行ってきちゃった♡なんて言いながら、にこにことその日の出来事を話してくれたり、今日こんな面白いことがあったのよ、と実に楽しそうに語る姿に頬が緩む。
若菜も、以前からよく笑う女性であったが、乙女と出会いより表情が明るくなった。乙女も、若菜の天真爛漫さに惹かれてか、以前よりも非常に楽しそうに笑うようになった。
「リクオも無事三代目を継いだ。新体制になってからまだ日が浅いが…皆よくやってくれている」
親父のあとを継いだ猩影だけではなく、今回から新たに組を持つことになった面々もいる。特に年若い妖怪達は、下を纏めあげることに四苦八苦しながらも、各々頑張っているようだ。
「リオウ様ー!行って参りますね!」
「おや、今日は随分と早いな。ふふっ気をつけて行っておいで」
中学校の制服に身を包み、にこにこと庭から手を振る氷麗に、リオウは優美に微笑んで手を振る。それだけでぱぁっと表情を明らめ、るんるんと門へ向かう後ろ姿に、奴良家の嫁達はあらあらと目を細めた。
「氷麗ちゃん、今日も元気ねぇ**うふふっいつも元気だから、見ていて私も元気になっちゃう♡」
「本当、明るくて健気な良い子で…妾も見習わなくては**」
「本当、健気だよなァ。脇目も振らずずっとお前一筋なんだからよ」
「ごふっ」
リオウは思わず飲んでいた茶を噴き出した。いきなり何を言い出すんだこの人は。
「げほっごほっ…いきなり、何を」
「いや、周知の事実だろ。まぁ、氷麗には悪いがリオウはやらんけどな」
な~♡と言いながら頭をなで、文字通り構い倒す。今までこうして堂々と構ってやれなかった反動からか、やたらしつこい。
しゅる、と狐化して腕をすり抜け、やめろと言わんばかりに威嚇するリオウに、嫁達はころころと笑った。
「ふふっ仲良しねぇ**」
「やっぱりリオウ君のその姿、いつ見ても可愛いわ**」
まったくいつまでたっても子離れ出来ない親たちである。特に鯉伴。
リオウは膝に抱こうと手を伸ばす鯉伴に、ふいっとそっぽを向く。前足で抗議するようにてしてしと鯉伴の手を叩き落とすのがまた可愛らしい。
「すきありっ♡」
「!!!」
わしっと遠慮もへったくれもなく抱き上げられ、リオウはじたばたと身動ぐ。やめろー!と言いたげに全力で身をよじる様は最早ただの小動物。ただただ可愛いの一言につきる。
「リオウ様ー」
「!」
「おっと、首無が呼んでるみてぇだな」
ちゅ、と耳にキスを落とす。漸く解放されるのかと思いきや、鯉伴はリオウを抱いて歩き出す。そのまま、降ろせー!と言いたげにじたばたするリオウを撫でながら、満足そうな顔で鯉伴は部屋を出ていった。
嫁達は、息子溺愛の旦那とそれにものの見事に構い倒される息子の姿を、あらあらと笑って見送った。あぁやって構い倒したくなる気持ちはわかる。リオウが許すなら、自分達だってやってみたい。
「それにしても…そっか、リオウ君にもいつそんな人ができるかわからないわねぇ」
「リクオや、鴉くんのような身近な子達からも慕われているから、引く手数多ではあるけれど…」
ふむ、と思案にくれる。あのリオウが恋か。……………何故だろう、想像がつかない。
容姿端麗。文武両道に精通し、頭脳明晰で優しく愛情深い。その上家事も得意で、料理も子守りも得意。細やかな気配りも出来て、相手をたてることも知っている。
「あら、何処に出しても恥ずかしくない立派なお嫁さんだわ」
「リオウ君がお嫁に行っちゃうと、寂しくなるわねぇ…」
「あっお婿さんを貰えばいいのかしら**」
「あら!そうね**それなら私たちも寂しくないわ♡」
(なんで私が嫁に行くこと前提で話を進めているんだ母上方…)
一人、遠くの声も聞こえてしまうリオウは、のほほんと好き勝手に話す母達に、鯉伴の腕の中で思わずげんなりと肩を落とすのであった。