天狐の桜3
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妖怪の総大将と呼ばれ、いたずら好きで…人の嫌がることばかりする妖怪
それがぬらりひょん
それが僕の……おじいちゃん
「やっと帰ったかリクオ!お前ま――た学校なんぞに行っとったんか!」
「…当たり前でしょ?中学生なんだから」
すげなく言い切るリクオに、ぬらりひょんは面白くなさそうな顔をする。
「あのなぁ…お前はワシの孫。妖怪一家を継ぎ、悪の限りを尽くす男にならんか―――!!」
「断る」
ばっさり切って捨てたときのリクオの顔は、まさに悪党ににつかわしいとんでもなく恐ろしいものだったと、後にぬらりひょんは語った。
奴良組本邸の屋敷の奥、静寂に満ちた部屋で、リオウは一人花を生けていた。花はこの季節らしく小手毬と菖蒲を使い、上品な作品に仕上げていく。
(見事なものだ)
後ろに控える黒羽丸は、迷いの無いその手つきと生み出される美しい作品に舌を巻いた。客人が来れば茶の湯でもてなし、こうして床の間に花を添えることも忘れない。和歌が来れば返歌をすらすらと返し、請われれば舞だって披露して見せる。
「見事なお手前で」
「よい。稚拙な出来であるのはわかっているから、無理して誉めるな」
「ご謙遜を」
いや、謙遜などではないのか。この方の己に求めるものが高すぎるだけで。周囲からすれば一級品でも、本人にしてみればその辺の陳腐なものと変わらないのだろう。
「鴆は来たか」
「はい。今はリクオ様とお会いになられています。お会いになられますか?」
「ふむ、薬は先日もらっているが…そうだな。リクオと会ったと言うことは、お祖父様は鴆に説得を依頼したんだろう。で、恐らくそろそろ…」
ふざけんじゃねぇ~~~~!!!!
「ほら、な」
「リオウ様」
黒羽丸はリオウの傍らに膝をついた。それを一瞥し、リオウはゆらりと立ち上がる。さて、激情型の儚い友人をさっさと止めてやらなくては。
わらわらと群がる野次馬に、邪魔だと言わんばかりに扇で掌を打つ。ぱぁんと響く乾いた音に妖怪たちは慌てて道を開けた。
「其処を退け」
リオウは鴆の傍らに膝をついた。ついと手をかざすと優しい光が溢れ、次第に鴆の症状が軽くなっていく。鴆の頭を膝にのせ、そっとその短い髪を撫でると、鴆はうっすらと目を開けた。
「リオウ…」
「騒々しいから何事かと思えば…お前はもう少し心穏やかに過ごせんのか」
「はっ…テメェにだけは、言われたくねぇ…っ」
優しい光が鴆を包み込み、ひゅーひゅーと掠れた息の音も正常に戻っていく。完全に症状が落ち着くと、鴆はゆっくりと体を起こした。ゆらりと立ち上がる鴆を一瞥し、目を閉じる。…眩暈がする。今日はどうやらあまり体調が思わしくないらしい。
「リオウ」
名を呼ばれたリオウはついと鴆の目を見据えた。なんだ、と言わんばかりにぱたりと純白の尾が一振りされる。
「お前が認めたものでも、俺は俺の道を行く」
「ほぅ。構わぬ、好きにしろ」
面白いとばかりに妖艶に目を細め、ぱらりと扇を開く。見送りにと部屋を出ると、頭を垂れた蛇太夫が控えていた。
「久しいな、蛇太夫。変わりはないか?」
「ご無沙汰しております、リオウ様。私めにもお声をかけてくださるとは、光栄の至」
リオウは蛇太夫の言葉についと目を細める。天狐は心の声を聞ける耳をもつ。この御仁の前では隠し事も通用しない。何か物言いたげに唇を開くが、リオウは疲れたように首を振り、鴆と連れだって庭へと出ていく。
蛇太夫は暗い光を宿した瞳で、その後ろ姿を見つめていた。