天狐の桜14
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鬼纏とは、奴良組二代目 鯉伴が生み出した、半妖怪の類いにしか出来ぬ業である。人である部分に下僕の畏をとりつかせ、力に変える「鬼纏」には様々な術があると言われる。
下僕の畏を羽織り、主の畏と合わせて新たな力を生み出す術を「畏襲」といい、下僕の畏を主の刃に乗せ何倍もの威力を敵に向かって放つ術を「畏砲」という。
≪まっさかお前とリクオが習得するとはなァ。ちっと妬けるぜ≫
≪あぁ、光栄なことに私の"ハジメテ"はリクオだ≫
≪おい、光栄なことにってのはどーゆーこったよ…?💢つーかその言い方は誤解を招くからダメだ≫
ひらりと天を駆けるリオウは、隠形している父に軽口を叩き、ふんと鼻を鳴らした。リクオを主と定めて信頼し、身も心も全てを預けた。だからこそできた業。
≪さぁ、リクオとだからできたのかもな≫
リオウはそれきり口をつぐんだ。鯉伴はやれやれと肩を竦めると、静かに目を閉じた。自分は…こいつにとって決して良い父親ではなかった。
誰かを信じて全てを預けろといいながら、護りたくて隣にすら立たせず、ずっと鳥籠の中へ押し込めた。挙げ句、ある日突然呆気なく死んだ馬鹿な親父。
≪リオウ≫
≪………≫
≪お前が責任を感じるのはもうやめろ≫
≪―――はて、なんのことやら≫
リオウはぴたりと足を止めた。ヴゥ…と低い音がしたかと思えば、弐条城全体を包み込むほどの巨大な魔法陣が光を放ち、一瞬にして消える。
≪仕込みは上々…≫
リオウはふわりと姿を戻すと、瓦礫の上へと静かに降り立った。白銀の艶やかな髪が風に靡き、形のよい唇がゆるりと弧を描く。
「リクオは死なぬ」
脈絡もなくリオウはそう呟くと、姿を隠す父へとにっこりと笑った。はしゃぐ子供のように、嬉しくてたまらないとばかりの笑み。
「約束したからな」
≪…………おー、そーかい≫
なんて心底嬉しそうな顔をするのだろうか。死なないなんて、そんなのただの口約束であって、誓いがあろうがなかろうがなんの根拠もない。それなのに。
「父上」
静かな声に意識が引き戻される。その声に体を縛り付けられたように硬直し、目が離せない。リオウはそんな父を知ってか知らずか、二度は無いぞ、と困ったように笑った。
「二度と、私の前から消えないでくれ」
寂しそうなその声音に、鯉伴は何も言えずに立ちすくむ。そんな父にも気を悪くすることなく、リオウは城の下に集まる古参たちを見つけ、ぱっと表情を明らめた。
「牛鬼!狒々!一ツ目!」
ふわりと飛び降りると、勢い余って牛鬼の腕の中へ飛び込んでいく。幼き日のような微笑ましい光景に、古参たちも皆頬を緩ませてリオウを迎えた。
≪あーったく…≫
側にいながらにして孤独を味わうのは、どれ程の苦痛だろう。リオウは幼い頃から聡明な奴だった。あれが、遠野で見せるような無邪気な笑みを組で見せなくなったのは、いつの頃からだろうか。
(「大人っぽい子だ」なんて散々言われてたがとんでもねぇ。彼奴は大人に"ならざるを得なかった"んだな)
本当に言葉足らずの家族だな、と鯉伴は人知れず苦笑した。
一方、リクオは羽衣狐と退治していた。鬼纏っていた黒田坊を畏砲として放つも、二尾の鉄扇に刃は阻まれ、技が通らない。
「三尾の太刀」
羽衣狐の尻尾から一振りの刀が現れる。羽衣狐はその刀を抜くと、リクオの顔めがけて容赦なく振り下ろした。
「この刀でお前らの血を絶やすことを夢見てきたわ!!!!」
リクオの体から鮮血が噴き出す。三尾の太刀がぐらりと傾いだリクオの左胸を貫いた。肉を裂き、ぐちゃりと臓物を貫く濡れた感触が伝わる。
「生き肝をいただくぞ」
しかし、三尾の太刀の切っ先はリクオの心臓をとらえてはいなかった。リクオの左手が切っ先を握り、受け止めていた。
確かに体の中心を切り裂いたと思っていたその太刀筋も僅かに逸れており、リクオの右腕から鮮血が舞う。―――認識をずらされた?
「おかしいのう…心の臓を貫いたと思うたがな」
羽衣狐は不思議そうに刃に触れ、指についた血を見せつけるように舐める。ぬらりくらりとやり過ごしおって…血も生き肝も喰ろうてやると言うとるのに。
「リクオ様!!!!」
「奴良君!!魔魅流君行くで!!」
「待ちな」
リクオはビリビリと着物を裂いた。ざっくりと深く切れた左手に祢々切丸を縛り付ける。じっとりと布地の白に赤黒い血がにじんでいく。
「よぉ、あんた…いつから羽衣狐になったんだ?」
「"人間の"あんたに質問してんだぜ」
「!?」
羽衣狐は大きく目を見開いた。人間の?どういうことだ。己は妖狐。人間であった記憶などない。――まさか、依り代に…?
どくりといやに鼓動が響く。同時に、一瞬脳裏をよぎったのは少女の記憶であった。年端もいかぬ少女が、楽しそうに笑っている。少女の前に伸ばされた大きな手に、少女は嬉しそうに走り寄っていく。
また、この記憶が――――――……
「"人間のあんたと"話をさせてくれ。俺の中の…ありえねぇ記憶のことだ」
俺と―――あんたのこと
「………関係…ない……」
羽衣狐は苛立ったように指を噛んだ。唇に鮮血の赤が紅のように映える。
「千年を転生し続ける妾とは、関係のない話じゃ…!!!!」
妾には依り代の記憶など ない――――