天狐の桜2
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ひらひらと桜が舞っている。夜闇に儚く舞い散る花弁を見つめていたリオウは、ふと近づいてくる気配についと視線を投げた。
「体はいいのかい」
「お前に心配されるほどではない。…お前が三代目を継いだ姿をこの目で見るまでは、死ぬに死ねぬ」
縁側に腰掛け、煙管を吹かすリオウの前に、一人の少年が現れた。長く伸びた白銀と漆黒の髪。切れ長の瞳は紅玉で妖しい光を放つ、端正な面差しの16、7程の少年。
「兄貴」
「何だ」
「兄貴はいつもここで桜を見てんのか」
突然の抽象的な問に、リオウは意味を図りかねたように目を細めた。そうだ、と短く答えると、少年はふーん?と気の無い返事をして桜を仰ぎ見る。
「まぁまぁだな」
「ほぅ。気に召さなかったのなら残念だ」
適当な返事をしつつ、煙管を吹かす。少年はそんな兄をじっと見つめた。ついで素早く彼の膝裏と背中に手を回し、流れるように抱き上げる。
「っ!?」
リオウはふっと体が浮く感覚に、思わず身を固くした。瞠目するリオウに、少年はニヤリと妖しい笑みを浮かべる。
「とっておきの桜の見方を教えてやる」
リオウを抱いたまま器用に桜の枝を登り、一番太い枝に腰掛け、リオウを下ろす。
そこはまさに桜のなか。美しい景色に思わず口許を緩めるリオウを抱き寄せ、その髪に唇を落としながら、少年は愛しくて堪らないとばかりに笑う。
「俺は、嫁さんと同じ景色を見ていたい。だから、俺は兄貴の見ている世界も見たいし、兄貴に俺の見ている世界を見てほしい」
ここからの眺めも、悪くはねぇだろ?
リオウは何ごとか口を開きかけ、ついでふっと笑みを浮かべた。
「――――悪くはない」
リオウはしっかりと少年を見据えた。その真剣な視線は、さながら刃のように鋭く少年を射抜く。
「"お前"に三代目を継ぐ意思はありや、無しや?」
「ある」
リオウはその言葉に心底嬉しそうに目を細めた。桜水晶の瞳がうっとりと蕩ける。形のよい唇がゆるりと弧を描き、艶やかな髪がさらりと風に揺れる。
少年は美貌の兄の頬にそっと手を伸ばした。恋人の逢瀬のようにその肌に触れ、唇を寄せる。唇が重なる寸前、リオウの白魚のような細い指が間に滑り込んできた。
「お前が組を継いで、それこそ私の気持ちが傾くほどにいい男になれば、嫁にでも何でもなってやろう」
だが、今のお前に私はまだ早い。
少年はムッとした表情で枝にリオウを押し倒した。リオウは表情を変えること無く、余裕な微笑みを浮かべて少年を見据えている。
「必ず嫁にとる。…だから、それまで俺の隣で俺の導く組を見ていろ」
居なくなることは許さない
暗に体調を案じているらしい少年に、リオウは蕩けるような笑みを浮かべた。大人しく嫁にとられてやるかは自分が決める。だが、それまでこの少年に付き合ってやるのも一興かと。
「覚醒の時は近い、か…」
ゆらりと陽炎のように姿を消したリクオに、リオウは静かに瞳を閉じた。