天狐の桜14
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(動きが読まれた…?)
リクオは素早く刀を構え直す。小柄な妖怪は、蛙のように大きく割けた口をにたりと歪めて、見える見えると繰り返した。
「気を付けろよ…鬼一口。彼奴より"一刀両断の意思"を確認!」
疾風のごとく来よるぞ!
風のように飛び込んだリクオであったが、鬼一口はその頭をぐるぐると回転させてかわされてしまう。リオウはその姿を見ながら、ほう?と目を細めた。
リクオもなかなか素早く懐に飛び込むことが出来るようになったらしい。が、それでもまだ発展途上。一人で戦うには、覚はどうも戦いにくい相手のようだ。
「鬼一口と覚(サトリ)とは…厄介な奴もいたものよ」
すっかり出番をとられてしまった、と拗ねたように唇を尖らせるリオウは、ふらりと百鬼たちのもとへ歩み寄る。
城の入り口に鬼一口に覚とは、まったく厭らしい配置だ。先に弐条城にいる京妖怪を襲撃した際、殺し損ねたか。いやはや運の良い奴等よ。
「鬼一口?」
リオウは、聞きなれぬ名に首をかしげる若い妖怪たちにふっと頬を緩めた。鬼一口とは、蔵に住まう妖怪で、匿うために蔵にいれた女をペロリと平らげてしまうという妖怪だ。
「有名な所では、在原業平が追っ手から逃れる時に蔵に匿った姫を喰った…なんて話だな」
「あっそれ知ってます!"伊勢物語"の"芥川"のくだりですね!」
「前にリオウ様が読んでくださったやつか~~。へぇーこいつが…」
「感心してねーで戦え!!!!💢」
鴆の突っ込みにリオウはしれっとそっぽを向く。さて、戦えと言われても、先程まで散々お前たちが前線に出るな突っ込むな無茶はするなと説教垂れていたのではないか。
「覚…なぁ。ふん、予言より早く動けばいいだけのことよ」
「周りをお前と一緒にすんな」
黙ってみているのはつまらんと言いたげに、刀を担ぐリオウに、イタクは呆れたように鎌を構えた。リオウも応えるように尻尾を揺らすと、ちらとリクオを一瞥する。
「リクオ。そこな鬼2匹は任せたぞ。あんまり遅いと私が殺る」
「はっ…そりゃあ頑張らねぇとな」
リオウは庭にぞろぞろと涌いてきた京妖怪たちに、にっこりと微笑んだ。
「そういうわけなのでな、ちと私と遊んでおくれ」
言うが早いか、リオウの姿は京妖怪たちの眼前から消え、かわって派手な血飛沫が上がった。返り血を被る間も無く、舞うように次々と敵を切り伏せていく様はまさに夜叉。
「ほら、お前たち。私とどちらが多く狩れるか競争でもしようか」
「あーあー遊び始めちまったよ…ったく」
死体が次々と炎に包まれて消えていく。鴆はやれやれと肩を落とした。少しも大人しくしていられないほど苛ついているらしい。京妖怪と何かあったのか。
「まぁ、彼奴は遠野の奴等がいるからなんとかなるか…」
流石昔馴染みなだけのことはある。お互いがお互いの動きを完全に読み、互いに動きやすいように戦っている。
これ程までに完璧に連携できるのは、リオウにとって遠野が護らなければいけない庇護対象ではないからか。
(ったく…妬けるねぇ)
ま、あれが怪我して真っ先に頼りに来るのは此方だから良いのだけれど。
覚は、楽しそうにひらりひらりと宙を舞うリオウに目を細めた。あぁ、本当に美しい御方だ。天地魔三界一の美貌とはよく言ったものだ。
そういえば、美女と言えばかの天狐やこのぬらりひょんの祖母も美しい女だった。
「珱姫…あれも美しい女だったなぁ…お前にもかすかに面影はあるようじゃ。いや、お前より天狐様の方がより面影があるか」
何をキョトンとしているのだと覚は嗤った。思えば、400年前も美しい姫を何人も羽衣狐に捧げてきた。それがついに実を結ぶ時がやって来たのだ。
「…そーやって、ずっと罪もねぇ人間を殺め続けてんのか…?」
「だから何だ?」
「呆れた妖怪(奴等)だっつってんだよ…」
だが、どうやって戦ったら良い。リオウのように予言より早く、というのは、今の自分には難しい。であれば、何をしたら良い…?
「リオウ」
「…何だ」
イタクと背中合わせになったリオウは、思いの外苦戦しているリクオにふむと思案を巡らせる。彼処にはゆらがいる。二人いれば撃破できると踏んだのだが、少しばかり浅慮が過ぎたか。
「時間が惜しい。あと四半刻待ってもリクオがあの妖怪どもを撃破出来なければ、お前と遠野で先いくぞ」
「ほう…それはまた、悪くはないな」
まぁ流石に、四半刻もかからないとは思うが。
「ゆら殿!リクオの助太刀を頼む!秀元!」
「はいはい。任せとき~~♡」
よくもまぁあっちこっち斬りながら指示が出せるもんだと秀元は舌を巻いた。因みに今現在、目にもとまらぬ速さで剣技を繰り出しては、結界を張ってリクオたちを雑魚から守っている。
「リオウ、見ねぇうちに速さが落ちたんじゃねぇか?」
「ふん。お前こそ、取り逃がしが多いぞ?修行好きが聞いて呆れる」
「「いやお前ら十分暴れてるだろ」」
イタクが軽口を叩き、リオウがさらりと返して、雨造と淡島が突っ込みをいれる。俺達にもとっとけ!と吠える辺り、本当に仲が良い。
「そーいや、リオウ。お前お側付きはどーしたよ?いただろ?鴉天狗のにーちゃん」
「あぁ、あれなら指示などしなくとも…」
言うが早いか、視界の隅を漆黒の塊が横切った。リオウに向かい放たれた矢を叩き落とし、瞬時に間合いを詰めて相手を叩きのめす。成る程、空から護衛していたらしい。
(…面白くねぇな)
ついそう思ってしまうのは、大人げないことだろうか。何百年も前から付き合いがあって、悪友然としていて、こちらの方がずっと長く想い続けていたというのに、ぽっと出の若造にとられた気がして妙に落ち着かない。柄にもないことを考えるもんじゃないな、とイタクは小さく舌打ちした。
その時、轟音と共に火柱が上がった。式神の気配が増え、苛烈な霊力の本流に、リオウはふっとそちらに視線を投げた。リクオとゆらが今鬼一口と覚と戦っていた筈だが、何かあったのか。
「ゆら殿…?」
「おい」
イタクは、リオウの背後から襲いかかる妖怪を、リオウを抱き寄せる形で回避させ、鎌を振り下ろす。
「油断するな」
「お前がいるから油断してるんだ」
ふっと微笑みながら、リオウはイタクの背後の敵を切り伏せる。見れば、パラパラと破壊された門の木っ端が舞い、すっかり焼け野原状態になった橋の上にリクオとゆらが立っていた。
「残念、抜け駆けは出来ぬようだ」
「ふん」
イタクは飄々としたリオウの言葉に鼻白んだ。本気で抜け駆けする気なら、四半刻も待たずして突っ込んでいっただろうに。相変わらずリオウはリクオに甘い。
「リクオ。怪我はないか?」
「おぅ。…ったく、結局突っ込んでったな?」
「私だって黙ってみているだけはつまらぬのでな」
ふわりとリクオの傍に降り立つリオウに、リクオは片眉をあげた。先程まで苦しそうに喘いでいた奴とは思えない。まったく、目が離せない。
「それより、皆も来たな。よし、そろそろ乗り込むとしよう」
「よっしゃ行くぜ!!目指すは羽衣狐が待つ鵺ヶ池だ!!」
一行は威勢よく城内へと駆け出した。