天狐の桜14
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いつも兄の手を握りしめて、父が出入りに行くのを見送っていた。
『リクオはリオウとそこで見てな』
大好きな父の背中は、何よりも大きかった。並みいる妖怪たちを、一声のもとに纏めあげるその姿。いつだって飄々として、どこか浮世離れしたようなその性格も。
『ほら、テメェら行くぜ。出入りだ』
自信に満ち溢れたその姿は、憧れだった。
(あれほど強かった親父を、誰が殺せたって言うんだ。あの時に何があった…!?俺はそれが知りてぇ)
思わずリオウの腰を抱く手に力が入る。此方の内心を見透かしているのか、リオウは無言で小さく微笑むと腰を抱く手をそっと撫でた。
「案ずるな。お前たちはこれ程までに強くなったのだから。…きっと上手くいく」
「へぇ、リオウが言うなら御利益ありそうだな」
「ふふっそうだろう?」
ふわりと微笑むリオウに、強ばっていたリクオの表情も和らぐ。ぴょこ、と動く狐耳に唇を寄せるリクオと、それを甘く微笑んで受け入れるリオウ。後に続く百鬼たちは、大将二人の姿に目を眇めた。
(((まぁ~~たイチャイチャしてる…)))
年嵩の面々は、総大将も2代目もこんなことあったな~、と呆れた様に息をついた。嫁を所構わず溺愛するのはぬらりひょんの血か、そうなのか。
何が辛いって、リクオは兎も角、リオウに関しては完全無自覚な所である。色恋に関しては殊の外疎いこの御方。現在どれだけ甘~~い雰囲気になっているのかまったく気づいていないだろう。
まったく、今の今までシリアスに歩いてきた筈なのに、目的の弐条城目前にして砂糖を吐きそうなんだがどうしてくれる。
「なんじゃいてめぇらぁあ!!!!」
弐条城東大手門。ずん、と腹の底に響くような轟音と共に、二匹の鬼が姿を現した。門を大きく越える程の巨大な体躯に、身の丈ほどはありそうな金棒を手にしている。
「弐条城東大手門門番 ガイタロウ!!!!」
「同じくガイジロウ!!!!」
「おんどりゃ此処を何処だと思っとんじゃい!!ハァァン!!」
「弐条城だぞ!!死にてぇのかくるぁあ!!」
リクオとリオウは静かに鬼たちを睨み付けた。リオウは尚も無言でパラリと扇を開き、呆れた様に目を眇めている。すたすたと前に出るリクオに、鬼たちは負けじとガンを飛ばした。
「なんじゃいその目はぁああ!?」
「何とか言えやごるぁぁあ!!!!ギャホーーー!!!!」
鬼たちは奇声をあげながら、金棒をリクオめがけて振り下ろした。しかし、その姿は霞のように消えてしまい、手応えはない。
「ひゃっひゃっひゃっなんじゃこいつは~~!?」
「皮みてぇにべろんべろんになって消えちまった~~!!」
「こっちだ」
「あん?」
ズガァッッと派手な音を立てて、ガイタロウの後頭部にリクオの蹴りが決まった。衝撃で前歯が飛び、翻筋斗打って堀に突っ込むガイタロウの姿に、残されたガイジロウはあんぐりと口を開ける。
思わず堀へと身をのりだし、がぼごぼと溺れる片割れの姿に情けない悲鳴をあげる。
「が、ガイタロウ~~」
「邪魔だ」
今度はガイジロウの背を、リオウの鋭い回し蹴りが襲った。何が起こったのか知覚できぬまま、悲鳴すらあげることなく堀へと落ちていく。
京妖怪たちは、門番二人の悲鳴と同時に開いた門にぎょっと目を剥いた。ガイタロウとガイジロウがやられたのか。幹部でないにしろ、門番を任せられるだけあって奴等もなかなかの実力者なのだが。
「うぉおおお!?」
「な…なんじゃい!!何が起こったんじゃぁあ!?」
慌てふためき、おろおろとあっちへ此方へ走り回る京妖怪たち。庭をぐるりと見回したリクオは、ふっと不敵に笑った。
「よぉく聞け。京の魑魅魍魎ども。奴良組(俺達)とテメェらの大将とは、四百年分の因縁てぇやつがごっそりついちまってるみてぇだが…この際キレイさっぱりと、ケジメをつけさせてもらいに来た!!」
邪魔する奴ぁ遠慮なくたたっ斬って、三途の川ぁ見せてやるから覚悟ねぇ奴ぁすっこんでろ!!!!
「ヒュウ♡カックイイ!リオウちゃんも何か言っといたらええんちゃう?かっこよくきめてや♡」
「ほう?私もか?」
そうさなぁ、と優美に微笑んだリオウは、ついと京妖怪たちに流し目をくれた。つつ、と誘うように刀身を撫で、形のよい唇がゆるりと弧を描くのが色っぽい。
ごくりと生唾を飲み込む音が聞こえる。凛と咲く大輪の華のごとく麗しく気高いその姿に、京妖怪たちは思わず目を奪われた。
「私は今この上無く虫の居所が悪い。――――死にたくなければ道を開けろ」
((((怖ッッリオウ様怖ッッ))))
奴良組の百鬼たちは、自分達の副総大将が相当怒っていることを察して震え上がった。この上なく色っぽくて美しいのに、目がこれっぽっちも笑っていないのがまた恐い。
惚けている京妖怪たちは、完全にリオウの空気に飲まれてしまったのだろう。この巧妙に隠された渦巻く殺気に、気づいてすらいないのかもしれない。
身の程知らずに手を伸ばしたが最後…二と陽の目を見ることなど叶わないというのに。
「リオウちゃん!!ぬらちゃんの孫!!この城の何処かに鵺ヶ池っちゅーのがある!!そこが羽衣狐の出産場所や!!」
リクオとリオウは、秀元の声にちら、と視線を投げた。雑魚からの攻撃に護符を使って応戦するゆらに檄を飛ばしながらも、何でもないかのようにひらひらと手を振る。
「あんたらならたどり着けるやろ。ぬらちゃんの孫…ならな♡」
「おう」
「っ、リクオ!!下がれ!!」
「リオウさん!危ない!」
いかんな~、と呟きながら巨大な顎がリクオとリオウに襲いかかった。リオウはリクオを庇うように抱いて後ろに飛び退く。
「兄貴は下がれ。俺がやる」
「はいはい」
リオウはひらりと宙返りすると、後ろに控える妖怪たちのもとへ引っ込んだ。リクオは素早く祢々切丸の柄へ手をかける。
「彼奴め、祢々切丸を取り出そうとしておるぞ」
小柄な男がぼそりと呟いた。
「そのまま横に振り回すぞ!!気を付けい!!」
男が叫ぶやいなや、巨大な顎を持つ男はがぱりと口を開け、リクオの剣先をかわしてしまう。
「よめるよめる。なにしゆうかわかるぞ。やっぱり玄関から堂々入ろうとしょった。わかるわかる。わかるぞ…お主が次何をするか手に取るようにな~~」
二匹の侍の姿をした妖怪は、にやりといびつな笑みを浮かべた。