天狐の桜2
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「甘い」
すぐ側で、最愛の兄の声が聞こえた。ついで隣のカナや清継たちが美しい緑焔に包まれる。3人は意識を失ってどさりと倒れこんだ。
ばっと風が駆け抜けたと思えば、リクオ様、だから言ったでしょ?と雪女の声が聞こえ、目の前で妖怪たちがぐしゃりと押し潰された。そこには、その場の妖たちを叩きのめす雪女と青田坊、黒羽丸の姿が。
「こーやって若ぇ妖怪(やつら)が…奴良組のシマで好き勝手暴れてる訳ですよ」
「いつまでも甘い顔していればつけあがりおって…」
ここは貴様らのシマではないぞ、この戯け
ボッと叩きのめされた妖怪たちが青白い焔に包まれた。塵も残さず燃え尽きる。悲鳴すらあげることの叶わない妖たちに、リクオは驚くと同時に半ば同情した。
リオウは、飄々としているように見えて実は結構怒っているらしい。
「若…しっかりして下せぇー。あなた様にゃ、やっぱり三代目ついでもらわんと!」
青田坊がふんっと握りこぶしを固める。現状に全く頭がついていかない。どういうことだ、なぜ此処に兄がいる。雪女と青田坊、黒羽丸がいるのはどうして…
及川さんと、倉田くん…いや、今彼等は学生で…まさか、雪女と青田坊は化けていたのか!?
「だから、「護衛」ですよ。確か烏天狗が言った筈ですけど…」
四年前のあの日、これからは必ずお供をつけるって!ずぅ~~~っと一緒に通ってたんですよ!
「ずぅ~っと!?聞いてない…聞いてないぞぉ~!?」
「いいえ、確かに言いました。この烏天狗が」
「お前、本当に忘れていたのか」
リオウは呆れたように息をついた。鈍いにもほどがある。ひょこっと窓から顔を出した烏天狗はリクオにやれやれと肩をすくめて見せる。
「まったく…心配になってきてみればあんな現代妖怪(若造共)。妖怪の主となるべき方が情けのうございますぞ」
「だから僕は人間なの!!」
「まだ仰有るのですか!!!あなた様は総大将の血を四分の一…」
「僕は平和に暮らしたいんだぁぁああ!!!」
ぎゃんぎゃん騒ぐリクオと烏天狗に、リオウはぱらりと扇を開いて口許を隠した。五月蝿いと暗に告げるリオウに、黒羽丸は烏天狗に「親父殿」と諌める。
何もこんなところで言い争う必要など無い。それに、一刻も早くリオウをこのような埃っぽい場所から連れ出してやりたかった。
「あ、そう言えばカナちゃんや清継君たちは…」
「案ずるな。気を失っているだけだ。今ここで妖を見たという記憶だけ抜いておいた。…さて、とりあえず外へ運んでやろう」
リオウはついと腕を一閃した。途端に人間3人の体はふわりと宙に浮く。おいで、という妙に逆らいがたい甘い声に、皆素直に近づいて寄り添えば、一瞬だがくらりと軽いめまいを感じた。
はっと気がつくとそこは学校の近くの小さな公園だった。う…と呻き声をあげながら起き上がる三人を見て、リオウは扇を一振りして烏天狗と黒羽丸を隠す。
「あ、貴方は…!!!/////」
「リクオ君のお兄さん!!!////」
「気を失って倒れていたから運ばせてもらった。…大事ないか?」
突然目の前に現れた麗人に、3人は目を白黒させた。なぜ此処に?運んだとはどういうことだ?どう話を合わせようかと逡巡するリクオを一瞥すると、リオウは3人へと視線を戻し、ふわりと人好きする笑みを浮かべた。
「何、肝試しをしていた友達が倒れてしまったとリクオに呼ばれてな。気を張っていたんだろう。何もいなくてホッとして、緊張の糸が切れたのかもしれないな」
リオウは三人の頭をぽんぽんと軽く撫でた。途端にぶわっと赤くなり、何処か恍惚とした表情でリオウを見つめる三人と、ブリザードと般若を背負って彼らを睨み付ける雪女、青田坊、リクオたち。言わずもがな、姿は見えないながらも鋭い殺気を放つのは黒羽丸だ。
(だから兄さんを人前に出したくなかったんだ―――――!!!)
ただでさえ清継君なんか妖怪の時の兄さん狙いなのに、人間の時の兄さんまで狙われたらたまったもんじゃない。そもそも自分以外にそんな風に触れないでほしい。
「さ、気を付けて帰りなさい」
「は、はい!!!////」
「お、お兄さんも////」
「サヨナラっ////」
バタバタと駆けていく三人の顔は耳まで赤い。リオウはくるりと振り返ると、倉田と及川…青田坊と雪女の頬を撫でた。
「よくやった。リクオの護衛、立派だったぞ」
「「!!!!!!/////」」
「これからもよろしく頼む」
「は、はいっ!///」
「おまかせ下せぇー!///」
途端にぱぁあっと機嫌が良くなって頬を上気させる二人。リオウは、先の三人に向けたものとは違う、親しいものにだけ向ける柔らかな笑みを浮かべた。
扇を一振りして、烏天狗と黒羽丸の姿を戻す。ぶすくれるリクオと、無言で不満を表す黒羽丸の頬を撫で、そっと二人の手を取ると、小首を傾げる。
「さぁ、帰ろうか。お前たち」
((あぁ、本当にこの人には敵わない))
何者の心をも掴んでしまう神獣天狐。
わかっていても騙される、その魔性の魅力に、一同はほうと感嘆の息をついたのだった。