天狐の桜2
夢小説設定
ご利用の端末、あるいはブラウザ設定では夢小説機能をご利用になることができません。
古いスマートフォン端末や、一部ブラウザのプライベートブラウジング機能をご利用の際は、機能に制限が掛かることがございます。
「うわ―――…近くで見ると超不気味ね!」
及川氷麗と名乗る少女はそう声を弾ませた。噂の旧校舎は、窓ガラスは割れ、所々朽ち果てた床は抜けている。本当に人が出入りしている雰囲気はない。
中は埃の臭いと、なんの臭いか鼻をつくような臭いも混じっている。清継は、兎に角事細かく調査だ!と意気込んでいる。ここに妖怪がいるなら、あの方々に通じるなにかがきっとあるはずだ!!
「じゃあ、とりあえずこの部屋をチェックしようか」
清継たちは美術室へと入っていく。リオウはそっと影からその姿を見送り、楽しくてたまらないと言わんばかりに艶やかな笑みを浮かべた。その傍らで彼を守るように控えている黒羽丸は、微笑みにドキッとしつつ平静を装って息をついた。
「さて、リクオはどうするか…」
「………リクオ様を助けにこられたのですか、場を引っ掻き回しに来たのですか」
「両方に決まっているだろう。何を今更」
臆面もなく言い切ったリオウに、黒羽丸は思わず頬をひきつらせた。人型とはいえ、人間の前に姿を見せてはまた面倒なことになる。何がどうって、ただでさえ妖怪たちを惹き付けているというのに、今度は人間の子供までとなれば、護るものも難しくなる。
「此度此処に住み着いた妖たちは許してはおけぬ。血肉を食らうやつらも少なくない。追いたてれば、何れ組に仇なすものとなろう。…安心しろ、苦しみなど与えぬ。すぐに終わる」
リオウは後ろに迫っていた妖に扇を一振りし、あっという間に塵も残さず焼き尽くした。咄嗟の事に対応しきれず固まる黒羽丸の唇をなぞると、その指を自らのそれに当て、淡く微笑んだ。
「私を守るか、私に守られるか。お前はどちらがいい?」
「っ…///」
無表情だった黒羽丸の瞳が驚きに瞠られ、ついでぶわっと赤くなった。まさに蕩けるような頬笑み。これがこんな埃っぽく血生臭い廃校舎でなければどれだけ良かったか。
「……お守り致します」
「そうか。頼りにしている」
完全に遊ばれている。黒羽丸は己の情けなさに肩を落とした。そんな側付きも何処吹く風。リオウは、戸棚の脇にいた妖怪を、戸棚をスライドさせて押し潰したリクオに肩を震わせた。袂で口許を覆い、声を圧し殺す。
「それにしても、雪女と青田坊はよく化けたものだ」
「…っリオウ様、此方へ」
黒羽丸に肩を抱かれるようにして物陰に隠れる。廊下に出てきたリクオは、ふとある気配を感じて視線を巡らせた。
(今、確かに兄さんの気配がしたんだけど…っていうか兄さんにこんな姿見せられないよ…)
リクオは背中にべったり張り付くカナにため息をついた。想い人に他人にベタベタされているのを見られるなんて最悪だ。それだけは避けたい。まぁ、あの兄のことだ、ほう?なんて楽しそうに目を細めて笑うだけだろうけど。
「む、ここは給湯室か」
「うわー危なそう…。水回りだし。開けてみます?」
「ダメ――――!!!」
リクオは咄嗟に扉の前に立ちはだかった。ヤバイ。此処にまで何かいたら困る。いや、十中八九何かいるんだけど。
何すんだよ、驚かせやがって…と眉根を寄せるシマと清継に、いやー喉乾いちゃって…なんて苦しい言い訳をする。守る難しさは、兄の側仕えである首無や黒羽丸が時折ぼやいているのを聞くが、いやはやここまで大変とは。
「チィ…ノド…かわいてたのに…血ィ…メチャのみたいのにィ…」
グシャァァッッ
後ろの部屋から聞こえてくる恐ろしい声に、リクオは問答無用で扉を閉めた。何か挟んだような気もするが、そんなの気にしない。考えたくない。
「変なヤツ…」
「行こう」
「あぁ!!!待って!!!僕が先頭に行くよ!!!ってあぁ―――!!」
便器からムクムク出てきた巨大な目玉の妖怪を踏みつけて潰し、天井からぶら下がった鬼婆の顔面を殴り飛ばす。ヤバイ臭いのする扉は片っ端から閉め、顔を出した妖怪は薙ぎ倒す。
ちなみにその後ろをつけているリオウと黒羽丸が、潰されたり殴り飛ばされた妖怪たちを片っ端から滅していたりすることはリクオたちは知らなかった。
「なんもないね…」
「ホントだな…拍子抜けするくらい」
(ありえね―――!!!)
とても一人じゃ庇いきれない。バレるバレないじゃなく、このままじゃ皆に危険が…
はっと顔をあげると、清継たちが食堂へ入るのが見えた。さぁっと血の気が引いていく。
「ま、待って!!!」
「へぇっ……いい雰囲気。すっごい出そうですよ、清継くん」
ペチャペチャと濡れた音がする。肉の腐ったような酷い臭いが鼻を突く。
部屋の角に無数の人影が見えた。あるものは少女、あるものは首が無く、またあるものは半裸の男の姿。牙を剥き出し、寄って集って何かを貪っている。
足元には腐敗した野犬の死骸が。
「え?」
清継たちは引きつった声をあげた。異様な光景から目が離せない。恐怖に体が硬直し、その場に縫い止められたように動けなくなった。
(し、しまった……!!!!!!)
あ゙ぁ゙あああぁぁあぁあ!!!!!!
妖怪たちは奇声を上げて襲いかかってくる。清継たちは腰を抜かして倒れこんだ。カナは何!?何!?と悲鳴を上げてリクオの腕にしがみついた。
「うわぁぁあああ!!!で、出たぁぁああ!!!」
くそっどうする…。どうしたらいい…!?全然間に合わない…!!!
(兄さん…!)