天狐の桜14
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一方、その頃。リオウがこの船に居ることなど知らぬリクオたちは、大広間で作戦会議を行っていた。側近である黒田坊が前に立ち、ホワイトボードを指しながら説明を始める。
「えー、おほん。よいかな、遠野勢?まず奴良組の組織の説明をするとですね…」
奴良組には、本家の他に、達磨会や牛鬼組といった最高幹部と呼ばれる二十の貸元がいる。今回の出入りには、貸元からは狒々組の猩影が参加している。
「また、猩影様は入ってまだ間もないため、参謀役にはこの黒田坊がつきます。宜しいですね?リクオ様」
「………いんじゃね」
「では私中心に、本家が指示を出します。遠野勢。京についてからのお前達の役目は―――」
「ちょっと待て。何で俺たち遠野がてめーらの部下みてぇにあつかわれてんだよ?」
淡島の言葉に、一瞬場が水を打ったように静まり返る。リクオ様と盃を交わしたのだろう?と不思議そうに首を捻る側近たちに、遠野の面々は腰を浮かした。盃だと?
「だぁーれが!!ふざけんな!!遠野が盃を交わすかよ!!」
「じゃあ何でついてきた?」
「おぉ!?そりゃあよー!!…えーとだな…それはあれだ…」
段々と声が小さくなっていく。言いたいことはあるっちゃあるんだが、上手い言葉が見つからない。目が泳ぎ始める淡島にため息をひとつつき、イタクが口を開いた。
「リクオはまだ鬼發も鬼憑も中途半端。ついてってやんねーと心許ねーだろ。何より……リオウに泣いて頼まれたからな」
「「「はぁ!?リオウ様に!!??」」」
「おう!"遠野の…私たちには、お前たちが必要だ。頼む…お前たちの力を貸してはくれぬか…?"って、涙ぽろぽろ流して頼んでたから、そんじゃあ一肌脱いでやっかと!」
奴良組の側近たちは皆複雑そうな顔をした。そんな顔見たことない。いや、狐なだけあって演技力は折り紙つきだというのはわかっているので、泣いて頼んだというのも演技だったんだろうなとわかってはいるんだが。
((((俺/私だって見てみたかった!!!!))))
所謂嫉妬である。黒田坊は複雑そうな面持ちながらも、漸々うなずいた。
「……そうか。それはありがたい」
だがリクオ様とリオウ様にタメ口はやめろ
黒田坊の言葉に、空気がピりつくのを感じて、リクオは居心地悪そうに眉根を寄せた。
「は…奴良組が落ち目だってのも本当のようだな。お前らみてーなのが側近じゃあリクオは強くなんねーよ。まぁ、大方…お前らはリオウに甘やかされてきたんだろうがな」
リオウは懐にいれた者たちを甘やかしてしまうきらいがある。早い話が過保護なのだ。
なまじ力があるだけに、相手に守られているという意識や力不足を感じさせること無く、上手に守ってしまうのだ。
だが、それでぬくぬくと育ってきただろう側近たちに、足を引っ張られてはたまったものではない。
「ちょっとあんたたち!!いい加減にしなさいよ!!」
「うるせーぞ女ぁ!!」
毛倡妓が抗議し、淡島がそれに食って掛かる。一気に騒がしくなった面々に、リクオはやれやれと肩を落とした。
今回は対等の立場での…謂わば同盟だ。だが、どうにも本家には出入りに参加するのは本家の部下という固定観念があるらしい。…兄なら、この場を上手く納められるのだろうか。
(いや、無い物ねだりしてもしかたねぇな)
出立したのは数刻前だというのに、早くも想い人に会いたくてしかたがない。さっさと羽衣狐を倒して帰るか、と内心独りごちながら、兎も角こいつらをなだめようと口を開きかけた。…その時。
「おい、おめーら。―――口のきき方に気を付けろ」
聞いたこともないドスの聞いた声だった。はっと声の主を仰ぎ見れば、壁に寄りかかった首無が遠野妖怪たちを睨み付けていた。首無はにこりと笑みを取り繕うと、リクオに席をはずしていただけますかと背中を押す。
「?お、おい…?」
「いーからいーから!」
物腰こそ柔らかいものの、問答無用で広間の外へ放り出される。
「なんだ首無の奴…聞かれちゃまずい話でもすんのか?」
さて、どうしたものか。作戦会議だったのに追い出されてしまってはどうにもならない。ぶらりと船内を見て回るか。
「…………?兄貴の気配、か?」
船内の奥から、微かだが兄の気配がする。まさか、隠れてついてきたのか?あれほど体が弱いのだから無理をするなと言われていたというのに。
(…まぁいい)
丁度リオウ不足で会いたいと思っていたところだ。会いたいから来てくれて良い、なんて格好がつかないが、向こうから飛び込んできたのなら話は別だ。抱き締めて逃がさないように捕まえておかなくては。
兄の気配を辿りながら、リクオはゆっくりと船奥の部屋へと歩みを進めていった。