天狐の桜14
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京の偵察を終えた三羽鴉は、宝船へと急いでいた。騒ぎがなければいいが、リオウの命もあって船が壊れるようなことは避けなくてはならない。なにより、喧嘩したらすっ飛んでいって物理的に仲裁してやる、なんてそれはそれは良い笑顔で微笑んでいたのだから、それだけは阻止せねば。
(これ以上、御身にご負担をかけるわけには…)
「おい、なにか様子がおかしくないか?」
トサカ丸の言葉に、意識が引き戻される。そして船上に目をやり、唖然とした。
「黒羽丸が、二人!?」
確かに、己れがそこにいた。小妖怪たちに囲まれ、"朔"という金翼の天狗を見なかったか?先程まで居たんだ、会わなかったか?と口早に質問され、わかったわかったと宥めている。――――待て、"朔"だと?
聞き覚えのある酷く懐かしい名に、黒羽丸の動きが一瞬止まる。が、すぐに我にかえって、飛ぶ速度をあげた。ダァンッッと派手な音をたて、一分一秒でも惜しいと言わんばかりに急降下して着地する。
まさかの本人との鉢合わせに、ぎょっとしたのはリオウの方だ。
「り――――」
「リオウ様!!こんなところで何をしておられるのですか!!」
黒羽丸の言葉を遮るようにして、リオウは声高にそう叫んだ。言うが早いか、がっとその両肩をつかんで黙らせる。
「さぁ此方へ!!」
「く、黒羽丸?」
「ど、どっちがどっちかわからなくなったぞ…?」
「…………今引っ張っていった方…あれリオウ様…だよな?」
「その、はず…」
迫力に圧倒され、ズルズルとなす術無く奥の部屋へと連れていかれる兄の姿を、呆然と見送っていたトサカ丸とササ美は深々と息をついた。それにしても……
((テンパっていたのか…リオウ様誤魔化し方雑だなぁ…))
小妖怪たちは混乱していてわかっていないようだが、血を分けた自分達兄弟にこんな雑な言い訳は通用しない。勢いで乗りきれるほど、簡単な相手ではない。……だからこそ、余計に焦っていたのかもしれないが。
宝船の奥。ひっそりと静まり返った小さな座敷。そこはかつて、この天狐が幼き頃に隠れ家としてよく遊んでいた部屋であった。
「こんなところで何をしておられるのです」
「ふむ。強いて言うなら…隠れ鬼か」
「リオウ様」
「わかったわかった。そう怖い顔をするな。男前が台無しだ」
眉間に深くシワが刻まれる。本来の姿へと戻ったリオウは、クスクスとこちらを見て楽しそうに微笑んでいた。…全くもって、反省のはの字もない。
リオウは宥めるように黒羽丸の頭を一撫ですると、ついと腕を凪ぎ払った。たちまちその姿が黄金の翼に天狗の面を持った青年の姿へと変わる。
「上手くいったと思ったんだがな。…あぁ、お前がこの姿を見るのは初めてか」
「…"朔"、ですか」
「ふふ、どうした。何か不満か?」
「――――いえ」
リオウは困ったように笑いながら姿をもとに戻す。
きっと、この麗人は覚えてはいまい。己がその名を与えた烏がいたことを。