天狐の桜14
夢小説設定
ご利用の端末、あるいはブラウザ設定では夢小説機能をご利用になることができません。
古いスマートフォン端末や、一部ブラウザのプライベートブラウジング機能をご利用の際は、機能に制限が掛かることがございます。
通されたのは、珱姫の菩提が弔ってある仏間であった。リクオが遠野へ修行に出るきっかけは、この部屋へこいつがのこのこ来て大口叩いたことだったなとリオウはぼんやり思案を巡らせる。
「帰ってきたってこたぁ、出られたってことだな」
リオウはついと隣に座るリクオに視線を投げた。ぬらりひょんは尚も真っ直ぐにリクオを見つめている。
「何か得られたかい?」
暫しの沈黙の後、フッとリクオは視線をはずした。
「どうかな。まぁ、"ぬらりひょん"って妖怪が何なのかってのは…わかったかな」
「そうかい。じゃあ―――」
「あぁ。これから京都に発つ」
静かな口調に秘められた強い決意。ぬらりひょんは素早く刀を抜くとリクオめがけて凪ぎ払った。だが、その刀身は霞を切ったのように手応えはなく。リクオの姿はゆらりと空にたち消える。
ついで仏壇の前にゆらりと姿を現したリクオに、ぬらりひょんはくっと口の端を持ち上げた。これはなかなか、大したもんだ。
「おぉ~。良くできてるじゃねーか。ま、すきにするがえぇさ。お土産に八つ橋よろしく」
ふーやれやれと肩を叩くぬらりひょんに、リクオは意外そうに片眉を上げた。行きはあれほど大騒ぎしたというのに、ずいぶんと簡単な…
「因縁を断ってこい。帰ってきたらお前が三代目じゃ」
あぁ、そうじゃ。と、ぬらりひょんは思い出したように口を開いた。京都には"あいつ"もいたのだった。
「京についたら秀元に会うとええ。」
「誰だ?それは」
「陰陽師のお嬢ちゃんにでも聞くといい」
「――祝宴の用意でもして待ってろよ」
リクオは自信に満ちた顔でふっと微笑んだ。決めたからには、絶対に負けるわけにはいかない。ぬらりひょんは、そんなリクオからリオウへと視線を移す。
「さて、問題は―――テメェだ、リオウ」
地を這うような声音。この上ない怒りに満ちた、リオウ自身でさえ、この400年近く生きた中で初めて聞くおどろおどろしい声音に、僅かに肩を揺らした。
だが、リオウもひいてはいられない。己が必要だと考え、信念のもとに行動したのだ。文句を言われる筋合いはない。
「テメェ、今までどこほっつき歩いていやがった」
「リクオについて遠野まで。出立前、お祖父様の御前にもきちんと顔を出したぞ」
「………なんのことだ」
出立前、ぬらりひょんに顔を見せたのは老齢の河童となまはげ、そして…
『完了致しました』
「!!あの天狗は…ッまさか!?」
「お祖父様が気づかれぬとは思わなかった。いやはや、軽い戯れのつもりで化けてみたのだが、あぁも送り出されては行かぬわけにはいくまい」
「な、にをいけしゃあしゃあと言うとるんじゃテメェーー!!!!💢💢」
ぬらりひょんの怒号も何のその。リオウはしれっとそっぽを向いて尻尾を揺らす。ぬらりひょんはリオウの態度にひくりと頬をひきつらせた。
この野郎、素直に「自分で考えて必要だと思ったから」と言っても説教が終わらないことを覚えて、さらっと人のせいにしやがった。
「今夜は寝かせねぇから覚悟しろ!!」
「寝てろ寝てろと煩いわりに、今度は寝かせてくださらぬのか。まったく忙しいお方だ」
「テメェ…💢減らず口は一丁前か💢足腰たたねぇように抱き潰してやろうか💢」
「?ふふ、上等だ」
「おいちょっと待てジジイ!!兄貴も意味わかってから喧嘩買え!!」
リクオは慌てて腰をあげた。リオウを守るように間に滑り込んで背に庇う。無知は一番恐ろしいと言うが、それがよくわかった。祖父のあの目は本気だった。あのままぺろっと食べられたら、どうする気だったんだ。