天狐の桜14
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奴良組本邸では、黒羽丸や首無、犬神といったリオウの側仕え達が血眼になってリオウを探していた。
「リクオ様が遠野へ出立されてからお姿を見ていない」
「まさかあの化け物たちに…!?」
リクオが遠野妖怪たちに連れ去られたと時を同じくして、リオウの姿が忽然と消えてしまった。今のリオウは絶対安静にしていなければならない身。
あのときもぐったりと褥に横になっていた。まさかリクオと同じく抵抗ままならずに連れ去られてしまったのではないか。
鴉天狗は、連日浮世絵町中の烏を総動員してリオウを探す黒羽丸を流石に見咎めた。不安にかられているのは大いにわかる。が、いくらなんでもそろそろ落ち着いてはどうか。
「少しは落ち着け、黒羽丸。お前らしくもない」
「これが落ち着いていられるか!!!!」
黒羽丸は声を荒らげた。これだけ探しているのに未だ手がかり1つ掴めぬとは、やはり遠野に連れ去られてしまったのか。
首無はかつての殺し屋としての顔が出るほどまでに余裕がなくなり、犬神なんか半泣きでリオウを探し回っている。
「犬神。あんた顔色悪いよ?ほら、お茶でも飲んで落ち着きな」
「毛倡妓…」
側仕え三人の憔悴っぷりといったらなかった。それもそのはず、四国に不埒な企みの人間共、花開院の陰陽師と、先日からリオウは様々な輩から狙われ続けていた。
警護を強化し、よりいっそうお側にいなくてはと心に決めた矢先にこの有様。しかもリオウは血反吐を吐いて倒れている。あぁ、これがどうして心配せずにいられよう。
勿論、ぬらりひょんや鴉天狗をはじめとする組中の妖怪たちもリオウとリクオが心配だ。…だが、隣にこうも取り乱しているやつがいるとかえって冷静になれるもので。
(リオウの野郎…どこ行きやがった)
ぬらりひょんはやんややんやと騒ぐ声を屋敷の奥で一人聞きながら紫煙を燻らせた。あの時、リオウは確かにぐったりと褥にいたはずなのだ。
そう、それこそ遠野の河童達が来て、自分が出迎えに行くそのときまで。
『本当にいいんだな?リオウ。…今のリクオじゃ死ぬかもしれねぇぞ』
『"今の"リクオじゃダメだから修行に出すのだ。しかもあれは己の力をわかっていない阿呆ときた。一度くらい鼻っ柱叩き折ってどん底まで突き落としてやらねばなるまいて』
『…死んだらどうする』
『あれが死んだら?ふん、それくらいで死ぬようなら私が組を継いでやるから安心しろと伝えてくれ』
気丈な言葉を紡ぎながらも、リオウの細い肢体は力なく褥に沈んでいる。…そういえば、リオウがこれだけ体が弱くなったのはいつの頃からだったか。
確かに、あれは生まれたときから体は弱かった。しかし、ある一時を境としてそれに拍車がかかったのではなかったか。…あれは、たしか……
『父上!頼むっ目を開けてくれ!父上…!!!!』
ドゴォォンッッ
「ワキャッ!?」
「!?なんじゃ~~敵襲かぁーー!?」
屋敷の門がけたたましい音をたてて蹴破られた。外にいた妖怪達がギャイギャイと騒いでいる声が聞こえている。
「……………帰ったか」
肌に慣れた妖気と神気に、ぬらりひょんは剣呑に目を細めて立ち上がった。
けたたましい音と共に吹き飛ばされた小妖怪たちは、何事だとあわてふためきながら辺りを見回した。
「ありゃ…リオウ様とリクオ様!?」
「何!?」
「ほんとだ!!リオウ様とリクオ様が帰ってきたぁ!!」
遠野妖怪たちは、口々にやっとついたと旅の疲労を口にする。リオウはぐるりと辺りを見渡し、こちらを見つめ呆然と立ち尽くす側仕えたちの姿を見つけて、ふわりと花が咲くように微笑んだ。
「そこにいたのか、お前たち」
からからと下駄を鳴らして近づくと、ついと両腕を伸ばして頭を抱き寄せる。みるみるうちに瞳を揺らす三人に、リオウはちと心配させ過ぎたかと内心反省した。
「今帰ったぞ」
「よくぞ、ご無事で…っ」
「やはりあの化け物たちに連れ去られていたのですね」
((((遠野(俺達)に"連れ去られて"だとぉ~~~!!!???))))
イタクたち遠野勢はくわっと目を剥いた。何を言うか。この狐、自分でいけしゃあしゃあと術までかけて潜り込んでたんだろうが。つーかリオウも早く否定しろよ。
リオウは、なんとも自分が知らぬ間に色々脚色されているがまぁ良いかと思い直し、優美に笑いながら三人の頭を優しく撫でた。余計なことは言わないに限る。
「よしよし。心配をかけたな。…あぁ、泣くな犬神。お前には笑顔が似合うと言っただろう」
「首無。落ち着け。私はここにいる。彼処にいるは私の友よ。お前の手を汚さねばならぬ輩はここにはいない。…な?」
「黒羽丸。私はもう大丈夫だ。お前たちのそばにいる。何処へも行かぬから…ほら、顔をあげよ」
各々に声をかけては白魚のような指が涙をぬぐい、頬をなで、華の顔がこの上なく優しく微笑む。実に手慣れた慰め方に、いつも楽しそうに笑って悪戯をする姿しか知らぬ遠野たちはあんぐりと口を開けた。
「リオウがちゃんと大人だ…」
「何かしらあの包容力…最早母親ね…」
「たらいが落ちてこねぇ、だと…!?」
「いつあのお側付きの頭に花が咲くんだ?」
「五月蝿いぞそこ」
リオウはヒソヒソと会話する遠野勢に目を眇めた。リオウは奴良組の中では"副総大将"であり、何より"大人"なのだ。余計なことは言われては困る。
ジト目が示す黙ってろ、という無言の圧力に、遠野妖怪たちは肩を竦めると奴良家の庭に散った。遠慮もへったくれもなく寛ぐ様に、奴良組の妖怪たちは目が点になる。
「り、リクオ様…これは一体…?」
「遠野モンだよ。じじいに挨拶してくっから面倒みてやってくんな。おら、兄貴も行くぞ」
「………はぁ、仕方あるまいな」
リオウは渋々といった様子で三人から離れた。寛ぐのは構わないが、あまりうちのを虐めてくれるなよと遠野妖怪に微笑み、側付きたちに茶をいれてやるよう言付ける。
「お?リオウ元気ないな!挨拶嫌なのか?」
「…まぁ、気乗りしないな。小言が百処か二百は返ってきそうだ」
雨造の言葉にげんなりとするリオウ。だが、自分の意思で自ら黙っていなくなり、勝手に遠野まで遠出したあげく連絡の一つも寄越していないこの状況。誰がどう見たってリオウが悪い。
首無と毛倡妓は、リクオの言葉にはたと目をみはった。挨拶してくる、ということはもしかして…
「!リクオ様、京都に行くんですか?」
「あぁ、盃を交わしたやつは…支度してくれ」
ガラッと障子が開かれた。ぬらりひょんは遠野勢、本家の妖怪たちと言葉を交わす孫二人を静かに見下ろす。
「テメェら、帰ってきたのか」
「おう」
「只今罷り越した」
不敵に笑うリクオと、流れるように優雅に礼をとるリオウ。対照的だが堂々とした二人を一瞥し、ぬらりひょんは小さく鼻を鳴らした。
「こっちへ来い。話がある」