天狐の桜13
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夜明けの遠野一家の母屋では、3人の黒服の男が赤河童に会いに来ていた。京妖怪の鬼童丸とその配下の妖である。
「よくもまぁ、京くんだりから何度も足を運ばれますなぁ」
歓迎できず心苦しいと口上を述べる赤河童に、鬼童丸は気のきかぬ挨拶はいいとにべもなく言い放つ。
「羽衣狐様が復活したのは知っておろう。京の忌まわしき封印は1~2週間程で開かれるだろう。今すぐ兵隊が欲しい。2、30人ほど優秀なのを売ってくれ」
「………無理ですな。うちとしてはそこまで京都に義理がある訳じゃねぇですで…」
「だからって…奴良組と繋がられては困るんだよ」
鬼童丸の体から殺気が滲み出した。決して声を荒らげる訳ではない。静かな言葉ながら威圧と怒気が部屋を支配する。
「テメェら俺達を出し抜いてにっくき奴良組に何人も派遣しやがって。奴良組もろとも潰すぞ」
「やれるもんならやってみろ。ワシらはいつも中立じゃ。それなのにそーやってイチャモンつけるなら―――また沈むぞ」
老齢の河童がそう嘲る。なんだと、と思わず腰をあげる部下たちを鬼童丸は制止した。こいつらには下手に手を出すことは得策ではない。いや、むしろ逆効果だ。
「よく覚えとくよ。テメェらの言い分…また来るぜ。いい返事待ってる」
「…朔や、鬼童丸殿のお見送りを。屋敷の前まででよい」
「はっ、承知致しました」
河童たちの傍に控えていた朔はそっと進み出ると、鬼童丸たちを屋敷の出口へと案内した。鬼童丸は、見慣れない天狗の青年をじろじろと上から下まで値踏みするように見て首をかしげた。
ここ最近、京から何度もこの屋敷には来ている。いや、ここ最近どころの話ではない。何百年も前からだ。だが、こんな側付きの天狗などいただろうか。
「見ない顔だが、新入りか?」
「―――さて、私は150年程前からここで大旦那様に奉公させていただいておりますが。裏に控えることが多いので今までお目にかかる機会がなかっただけかと」
朔は流れるようにそう言うと、ぺこりと頭を下げた。主人の言いつけ通り、あくまでもこの屋敷までしか見送りには来ないらしい。
「…無事にこの里を出られることを、お祈り申し上げます」
朔の言葉に部下二人はいきり立つ。だが、鬼童丸は努めて冷静に見送りご苦労、と朔を労って深い森の中へと消えていった。
「――――とはいったものの、生かして返すわけにはいかないな」
朔は仮面の裏でニィ、と笑みを浮かべた。