天狐の桜13
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東北…遠野は多くの妖怪が生まれた土地だ。雪女、河童、鎌鼬、あまのじゃく、山姥…様々な妖怪たちが遠野で生まれた。
ちなみに、妖怪界隈では、遠野は「極寒」の地であり、妖怪は「極悪」「極強」の3Gと畏れられている。
「う、う~~ん…兄貴…」
何事かむにゃむにゃ呟いたリクオは、漸々目を覚ましてぎょっとした。巨大な猿が至近距離でこちらを覗きこんでいる。
がばりと体を起こして瞠目する。天井の高く古い作りの木造家屋。そこには自分を取り囲むようにずらりと見たこともない妖怪たちが並んでいる。
「ちぃ…起きたかい」
「あと半刻程起きなければ食ってもいいという話じゃったのに」
ヒソヒソと話す声にばっと自身の置かれている状況を確認すれば、自分は飯炊き釜の中に入れられていたことに気がつく。
「これがあのリオウの弟だと?」
「本当に関東の奴良組の跡取りなのか」
「変な奴じゃ…夜になると髪がぼさっと伸びたぞ」
「人間の血が混ざっとるから半妖らしい。中途半端な奴じゃな」
「いやいや…半妖どころか1/4しか妖でないらしい」
「そんなやついるか!」
「ほら目の前にな…」
「リオウのように半分は神の血を継いでるのではないのか」
「あれとは異母弟らしいぞ」
「では弱いはずじゃて…」
「こんなところへ来てしまって、死ぬかもしれんぞ」
ざわざわヒソヒソと妖怪たちは口々にリクオを興味深そうに見て嗤う。猿妖怪や鶏に姿の近いもの、山犬など獣妖怪が多いらしい。
「なんだここは…」
何で自分はこんなところに?
「やっと起きたが~~。世話を焼かせる見習いじゃ~~」
「見習い?」
なまはげは、怪訝な顔をするリクオの釜を蹴っ飛ばした。赤河童様にご挨拶じゃと言われ、釜から転がり出たリクオは、己をしげしげと見つめる巨大な河童をぎっと睨み付けた。
「あんたが"ぬらりひょんの孫"かい。…ふむ、似とるな。リオウの時はまったく似とらん孫もおったもんじゃと思ったものだが…あの頃のあやつが甦ったようだわい」
優秀なやつだけ根こそぎ持って行きおって…お陰でワシらが手薄にさせられてしまうし。憎らしい。孫も憎らしい顔しとる。
恨み言を吐く赤河童に、リクオは睨み付けながらも漸々口を開いた。じじいと兄貴の知り合いか?ここはどこだよ?と物怖じしないリクオに、周囲の妖怪たちは怒りに牙を剥き出しにした。
「おい、赤河童様に生意気きいちゃいけねぇ」
ギロリと向けられる視線と殺気。赤河童は、リクオの無礼を咎める訳でなく、気にした様子もなく言葉を続けた。
「ここは東北、遠野の里。古くから「妖の里」と呼ばれる隠れ里じゃ。―――朔」
「はっ」
朔と呼ばれた天狗はすたすたと赤河童の前に進み出ると、ついと頭を垂れた。一部の隙もなく洗練された所作。赤河童の隣に控える老齢の河童は、朔に連れていけと命じる。
「承知しました。…来い、若造」
「はぁ!?ちょ、おい!」
ぐいと寝巻きの首根っこをつかんで引き起こす。リクオはバシッとその手を振り払い、ふざけるなと声をあげた。
「見習い!?東北!?ふざけんな!!!俺は早く京都に行かなきゃなんねーんだよ!!!」
「京都…?」
妖怪たちは一斉にゲラゲラと笑い始めた。指を指し、腹を抱えて笑っている。老齢の河童は、笑いを堪えてリクオを見た。
「"畏れの発動"しか出来ぬお前では、死に急ぐも同じ」
「そうかい」
「おい!逃げる気か!」
くるりと踵を返して戸口に向かって駆け出す。土間に降り立とうかというとき、床下から丸い大きな顔が顔をだし、ニヤリと笑った。
「そう簡単に出られないよ。ここからね」
「!!!」
ぞわっと得たいの知れない恐ろしさを感じる。はっと前を見れば、まるで狛犬のような生き物が立ちふさがった。
(犬…?)
その存在を知覚した瞬間、リクオの体は宙へと浮いた。翻筋斗打って転がるリクオに、これまた妖怪たちは腹を抱えて笑う。
「ははははははは!!!河童犬に敗れたぞ!!!」
「犬以下じゃ!!!」
「奴良組の若頭は犬以下じゃ!!!」
指を指してヒーヒー言っている妖怪たちをよそに、リクオは呆然としていた。リオウの時と同じだ。今、何をされたのかまったくわからなかった。何なんだこいつらは。
何なんだここは―――――!?