天狐の桜13
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2日後、酷く雨が降っているその日、簑笠に身を包んだ一団が奴良組本家を訪れた。大柄な体躯の妖怪が二人と、年老いた痩せ型の妖怪。ぬらりひょんは彼らを出迎え、ニヤリと笑った。
「おう。遠路はるばるよう来たの」
「宜しいんですな。大事な跡取りを…亡くすことになるやもしれませんが」
「構わねぇ。好きにやってくんな。あいつが望んだことだ」
何より、先見の明を持つリオウがそれを望んだのだ。あれの決めたことに間違いがあったことは一度とて無い。
『あれが死んだら?ふん、それくらいで死ぬようなら私が組を継いでやるから安心しろと伝えてくれ』
興味ないとばかりにしれっとそう言って布団を被ったリオウを思いだし、ぬらりひょんは苦笑する。
「ったく…うちのかぐや姫は気が強くていけねぇ」
「リオウ様ですか。…出てこられない辺り、また床に臥せっておられるのか」
「あぁ、こないだ血ィ吐いて倒れたもんでな。暫くは絶対安静だそうだ」
神の血が濃いリオウは穢れに弱い。それなのに妖怪の血を最大限に引き出して暴れまわったせいで、体が悲鳴をあげたのだ。
まったく、こうなると分かっていて尚、リクオにぬらりひょんの力の真髄を見せようとしたのだから、あれもなかなか過保護というかなんというか…
(過保護にされてる本人は、自覚はねぇようだがな…)
2日も目覚めぬリクオの周りには、沢山の妖怪たちが集っていた。氷麗は心配そうにリクオの顔を覗きこむ。
「このまま二度と目が覚めなかったらどうしよう…」
自分達は、リオウとリクオが兄弟喧嘩で刃傷沙汰を起こし、リクオがこうして意識不明になったとしか伝えられていない。
あのリオウの側近である黒羽丸や首無、犬神でさえ、騒動の経緯などは一切教えられてないのだという。
『あのリオウ様と刃傷沙汰の大喧嘩だぞ?』
『若は一体何をしでかしたんだ?』
『リオウ様も吐血して倒れられたと聞いたが…』
『だがリオウ様は一撃も食らわなかったんだろ?あぁ、激しく動かれたからか』
『何にせよ珍しいよなぁ…』
組の妖怪たちは口々に未だ臥せっている主二人に、珍しい珍しいと首を捻っていた。氷麗はむくれ顔で唇を尖らせる。
「リオウ様ったら、何を考えていらっしゃるのかしら…。実の弟をこんな目にあわせて…ちょっとひどいと思わない?」
「さぁてねぇ、あの方は自分には無頓着だけど、殊の外リクオ様や私達に関しては、みーーーんな計算して計算して、先の先まで読んだ上で行動してらっしゃるし。今回も深いお考えがあるんじゃないかしらね?」
毛倡妓はそう言ってリクオの布団を直した。ずっと傍で見ていて、その考えに逐一沿った行動がとれる黒羽丸や首無たちなら兎も角、自分にはリオウの意思はわからない。わかるのは、それが決して間違いではないということだけ。信じることしかできはしない。
その時、血相を変えた首無が部屋に飛び込んできた。
「おい!!!お前らリクオ様をかくまえ!!!」
「な、何よ首無…」
「いいから早く!!!く、来るぞ!!!化け物が!!!」
首無の言葉が言い終わるより早く、のそぉっと二体の妖が部屋へと上がり込んだ。大柄な体躯に体の半分はあろうかという巨大な顔。
額には2本の角があり、大きな口にはこれまた狂暴そうな牙が生えていて、ぎょろりとした目が部屋を見回す。まさに"鬼"。
「弱い子゙はいねが~~弱い子゙はいねが~~」
「人間くせぇなぁ~~~~?」
鬼達の視線がリクオを捉えた。しゃがれた声がこいつだぁと呟き、がっとその体をかっさらった。無造作にむんずと掴まれる若頭の姿に、氷麗たちは眼を剥く。
「つれでいぐぉ~~」
「あっ!その手をどけなさい!!!」
思わず腕をつかんで止めようとする。そんな氷麗に、邪魔する悪い子゙はお゙め゙え゙がぁ゙~~と鬼たちは顔を近づけた。…物凄く怖い。
鬼は悲鳴をあげる氷麗達を部屋の畳ごと吹っ飛ばした。為す術なく飛んでいく氷麗たち。
悲鳴が飛び交い、家財道具が畳と共に屋敷の外まで飛んでくる。庭の、少し離れた所からそれを見ていた黒い影は、鬼に抱えられるリクオを確認するとふっと姿を消した。
「失礼致します。…旦那様」
ぬらりひょんは、バサバサという羽音と共に舞い降り、ざっと恭しく客人の傍らに膝をついて頭を垂れる青年に片眉をあげた。
きちんと切り揃えられた雪のように白い髪。顔には赤く鼻の長い面を着け、背には猛禽類に似た金色の翼が。…天狗か。面差しは面に隠れ、簑笠を被っているためにその体躯もよくわからないが、声からしてまだ年若そうだ。
先程あの巨大な鬼たち…なまはげたちと共にいたために隠れて見えなかったが、供はもう一人いたらしい。
「完了致しました」
「よし、よくやった」
簑笠の男は青年の声に満足そうに頷くとぬらりひょんに向き直る。その後ろに、リクオを無造作に抱えあげたなまはげたちもやってきた。
「それじゃ、確かにお預かりしましたぜ。あんたのお孫さん」
ワシら…奥州遠野一家がな!