天狐の桜12
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その頃、雪女―――氷麗は走っていた。
昼間はリクオと共に清継たちに"ゆら探し"に駆り出され、はっと気がついてみれば若の姿はない。おまけに良く見知った妖気が大量に集まっている。………完全に出遅れた。
「皆待って!ずるいですよ!おいていくなんて!」
パタパタと駆け寄る。…と、がっと何かに足を引っかけ、氷麗は派手に倒れこんだ。うわぁぁ罠がーー!と声をあげる氷麗に、首無は呆れたように目を眇めた。
「雪女…お前人間の姿のままだぞ」
「………ん?はっ!な、なんで陰陽師の子がここに…!?」
「畏」の代紋の入った揃いの羽織を握りしめ、ガクガク震える氷麗に、ゆらは納得したようにジト目を向けた。
やたら奴良君やリオウさんに引っ付いてると思ったら…及川氷麗、妖怪やったんか!そんなことより、奴良君が孫ってことは…う、うそやろ…あれがぬらりひょんやったんか~~!!!
(…ていうか、"兄貴"って言うてたし、やっぱりリオウさんが天狐なんか…)
なるほど、であれば先頃から何故彼が妖怪たちに執拗に嫁にと狙われていたのかがわかった。花開院が嫌いだと言いながら、あの天狐が自分を助けてくれた訳も。
緩い空気が流れる。完全に皆が油断しきっていたその時、首無の紐が電撃の炎に焼き切れ、魔魅流が前に飛び出した。
「妖怪ぬらりひょん…滅すべし」
リクオに手が伸びる前に、黒田坊と青田坊が魔魅流を羽交締めて押さえ込む。リオウは漸々目を開けると、リクオの手を借りてゆらりと立ち上がった。
「…やめよ。青、黒」
「っリオウ様!」
「おのが力を…過信してはならぬと言われなかったか?そこな人の子」
もう仕舞いだ
バチッと電流が流れる音がしたかと思うと、魔魅流の体がぐらりと傾いだ。神気で拘束するこの術は、人間にはそう簡単には解けまい。
体が硬直し、無様に転がる魔魅流の体を青田坊が竜二のもとへ放り投げる。それを小さく咎めながら、リオウはふらふらと竜二と魔魅流に歩み寄ると、二人の前に膝をついた。たおやかな腕がついと伸ばされ、二人の体を淡い光が包んでいく。
「っ!?」
「先程は、申し訳ないことをした」
みるみる傷が癒えていく様に、竜二は大きく目を見開いた。ふわりと微笑んだ天狐は、先程とは全く違う、酷く優しげで儚い印象を受ける。
「私は、お前たちとは行けぬ」
「…憎いか。俺達が」
「さて…ふふ、嗚呼…だが、そうさな。私は嘘は好かぬ」
肝に命じておけ、虚言の陰陽師
そのまま力なく崩折れる肢体を、リクオは素早く受け止める。意識を完全に手放したらしいリオウの華奢な体を横抱きにしたリクオに、竜二は漸々口を開いた。
「…今は"預けて"おいてやる。」
「はっ…返すつもりは毛頭無いけどな」
こいつは俺の嫁だ
見せつけるように瞼に唇を寄せるリクオを一瞥し、竜二は四肢を叱咤して立ち上がる。未だ妖怪を滅そうともがく魔魅流を静かに諌めると、瓦礫の影から様子を伺っているゆらへと視線を投げた。
「やめろ、魔魅流。二人じゃキツイ。大体俺達はゆらに伝えることがあって来たんだろ」
訃報だ、と竜二は静かに言った。秀爾と是人が死んだ。花開院家の宿敵…京都の妖怪を束ねる大妖怪、羽衣狐が動き出したのだ。
「やつらは花開院家が京都に張っている8つの結界のうち、"2つ"を破った。当主花開院秀元は魔魅流を本家に加え、修行中の身であるお前まで呼び寄せた。言っている意味がわかるな?」
事態は…思ったより悪い方向に進んでいるぞ。ゆら、京に戻ってこい。
竜二は抜き身の祢々切丸をリクオの足元に投げて寄越した。ついで祖父からの言付けを思いだし、竜二はつかつかとリクオに歩み寄った。
「じいさんから言伝てを頼まれた。"二度とうちには来んじゃねぇ。来ても飯は食わさん"。以上だ、その刀大事にしろよ」
竜二はそう言うと、くるりと踵を返して去っていく。周囲に潜ませていた"狂言"に、今日はもうやめだと声をかけると辺り一面からザパァッと液体型の式神が飛び出した。
(妖怪しか切れない刀…俺に恩情をかけただと?妖怪の癖に!)
「竜二、結界を二重に仕込んでいたのに、何故やつらを倒さない」
「口出しをするな。…天狐の情と人間の血に敬意を払うのはこれが最後だ。ぬらりひょんの孫…」
"灰色の存在"も、俺は認めんぞ
夜の闇へと消えていく二人の背中に、妖怪たちはなんだったんだとざわめく。リクオは、騙しのプロだと簡単に伝えると、リオウを抱きなおし、皆を屋敷へと急がせた。