天狐の桜11
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神社の境内。暗闇に蝋燭の炎が揺らめき、中で肩を寄せ会う黒服の男達の姿をぼうっと浮かび上がらせる。
「ガハハ…迷信を利用してまた上手くいったなぁ」
「これでついに"菅沼家"の土地も落ちるぞぉ」
ここの住民達は馬鹿ばかりだとせせら笑う。"邪魅"なんていもしない存在をすっかり信じこんで、こうも上手く動いてくれるとは。
昼間、リクオ達と遭遇したチンピラ…ハセベは、黒服の男達の台詞に目を剥いた。
「え?邪魅っていないんですかい!?」
「ハセベ~~オメーは頭悪ィな相変わらず」
強いて言うなら、オレらが飛ばしてた式神こそが"邪魅"よ。ねぇ、神主さん!
神主は、でっぷりした腹をゆらして笑った。
「くくく…昔ちょっと京都で習った式神が、こんな風に上手く大金を生むとはね~~」
何故かあの娘の家だけは時間がかかったが、よもや今日貼った札が命取りになるとは夢にも思うまい。助けも呼べず、一晩中恐怖に怯えることになる。
あの美しい青年も、今ごろは催淫効果のある香によってさぞ艶めかしい姿になっていることだろう。あぁ、それを思うだけで昂ってしまう。
明日になれば、快楽で壊れたかの美しい青年は自分のものに。娘に関しても、立ち退きが決まれば莫大な金が転がり込んでくる。笑いが止まらないとはこの事か。
ヤクザの組長らしき男は、神主にニヒルに笑って見せる。いやはや本当に…
「神主さんこそ、本物の悪ですよ」
「ハハハ。それは集英建設さんの方ですよ」
ゲラゲラと品の無い笑い声が響く。ハセベは、状況がわからず、混乱した様子で辺りを見回す。と、戸口に立っている人物を見て男達は声をあげた。
「あっお前は品子ーーー!?」
品子はキッと神主を睨み付けた。神主は誤魔化すように笑ってヒラヒラと手を振る。
「神主さん、なんでその人たちと一緒にいるの?」
「誤解だよ、品子ちゃん…ダメじゃないか。ちゃんと結界のなかに入ってなきゃ」
「近寄るなー!おかしいと思ったのよ!あんたたちがグルになって仕組んだんでしょー!?」
「―――知ってしまったか」
ならば痛い目を見て言うことを聞いてもらうほか無い。品子を押さえ込もうとじりじりと距離を詰めていく。
「外道どもが邪魅祓いとは…笑わせる」
「!?誰だ!?」
不意に聞こえてきた声に、男達は辺りを見回す。しかしその声は遠くから聞こえるようで、まるで真後ろで囁かれているようでもある。声の主がわからぬ恐怖に、男達は焦ったようにどこにいるんだと怒鳴る。
「自分等の言うことを聞かねぇ人間には式神を飛ばし、やれ邪魅が憑いたとふれまわる」
「!?」
「な、なんだ?どこから…!?」
「"邪魅に呪われた""邪魅を祓え"と人々を惑わせる。なんてこたぁねぇ。邪魅騒動ってのは自作自演の猿芝居。まさに"悪氣なるべし"だ」
「誰だーー!?どこにいやがる!?」
「さっさと出てきやがれ!!!」
怒鳴るハセベの喉元に、鈍く光る銀色が押し当てられた。殺気を込めて睨み付け、刀を構える赤目の青年の姿に、皆は瞠目した。緊張からヒューヒューと喉がなる。
どこから現れた!?いや、それよりも話を聞かれたことの方が問題だ。殺ってしまえ、との号令に、黒服達は一斉にリクオに飛びかかった。
しかし、リクオも素早く祢々切丸を抜き、ズバンと柱を切り捨てる。途端に崩れ落ちてきた柱や屋根に押し潰され、男達はおろおろと逃げ惑うほかない。
「う、うげぇ…あり得ねぇ…」
「て…テメェ人間じゃねぇ…何者だ…」
「え~~い頭が高い!このお方を何方と心得る!妖怪任侠奴良組若頭リクオ様なるぞ!」
「先の四国戦でも大将代理を立派に務め、今や妖怪界のブライテスト・ホープと呼ばれ…人間が敵うわけなかろう!」
「分かったから下がれ、おめーら」
ひょこっと飛び出してはやんややんやと騒ぎ立てる妖怪達を、リクオはハイハイと軽くあしらう。一部始終を見ていたリオウはクスクスと小さく笑った。
「よいではないか。下に好かれるのも大将の器よ。それに騒ぐあれはなかなか可愛らしい」
「…締まらねぇな」
リクオはため息をひとつつくと刀を肩に担いで兄を一瞥する。そもそもだ。手込めにされそうになっていた…いや、なっているのにどうして自分までノコノコ出てきたんだ。手込めの意味わかってんのか?
神主は逃げ惑い、役に立たない黒服達にぎりっと奥歯を噛み締めた。おのれ、よくも…妖怪だと?そんな馬鹿げた話があるか!
「このワシの花開院流陰陽術!!!式神受けてみろやーー!!!」
ザシュッッ
神主の目の前に滑り込んだ邪魅が、放たれた式神を凪ぎ払った。もう一体いたのか、と腰を抜かす神主に、リクオはつかつかと詰め寄った。
「神主さんよ、こいつがこの街に現れる本当の邪魅だよ」
「はえ!?ちょ、ちょっと待ってくれ…!!!」
「あんたの妖怪騙りのせいで不当に扱われたこいつのお礼だ…受けとれ!!!」
明鏡止水―――――"桜"
燃え盛る炎が神主を包む。終演の炎に、リオウは静かに微笑むと着流しの裾を翻してその場をあとにした。