天狐の桜2
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これは…友達から聞いた本当の話なんだけど、うちの学校って「旧校舎」があるらしいの
そこは…この学校の敷地内にあるのに…誰にもいけない場所
そこでは、夜な夜な死霊達が暴れていて、もし…迷い込んでしまったら、二度と帰ってこれないんだって…
絶対に、近づいちゃダメよ
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―――……
浮世絵町 「奴良組」本家―――
「で?それのどこが僕のせいって言うんだよ?」
桶片手に庭の花に水をやっていたリクオは、不満げに烏天狗を見て目を眇めた。それに怯まず、ぱたぱたと飛び回りながら烏天狗はピーチクパーチク騒ぐ。
「こっちの週刊誌には都市伝説。こっちは河童。そして…インターネッツなるシロモノには「現代妖怪」の情報がズラ~~~~~リ!」
世は妖怪ブームになっているのです!どう責任をとるおつもりですか?
だから…とリクオはうんざりしたように息をついた。世間の妖怪ブームが、どうして自分のせいになるのだ。こんなにも「清く正しく美しく」そう、普通の生き方をして「立派な人間」を目指しているのに!
「若がいつまでも奴良組を継がずにプラプラしてるから!!ザコ妖怪や若い妖怪共になめられてこーやって縄張り(シマ)を荒らされているわけですよ!!」
かつてのあの快刀乱麻の大活劇!!あれは何だったのですか!!と吠える烏天狗に、リクオは「んなっ」と頬をひきつらせた。
「だって!あの時は何だかわからなくなったんだもん!自分が何言ったかも覚えてないし!!」
「そんな無責任な!!拙者はハッキリと覚えてますぞ!!俺の後ろで群れとなれとかなんとか言ってたくせにィ~~~!!」
「あぁ、それなら私も覚えているぞ」
縁側で見ていたリオウは妖艶に微笑んだ。楽しんでいるなと気づいた黒羽丸は仏頂面ながら疲れたようにため息をつく。この美しい主は、どうも人で遊ぶことを楽しんでしまう節がある。
「"未来の嫁さんに最高の景色を見せてやる"と大きな口を叩いていたな」
「!!!!!!」
リクオはリオウの言葉にあんぐりと口を開けた。そんなことまで言ってたのか、僕は。いや、でも兄さんを嫁にとるのは本気だから、どうやらその辺は人間でも妖怪でも変わらなかったらしい。ブレない一貫した恋心は大事。流石僕。
「神獣である私の前で嘘を口にしたのか?」
「いや、あ、でも兄さんを嫁にとるのは本当だよ!?」
「その前の話をしているんだ、戯者。都合のいいことはそのまま受入れおって…」
バタバタと駆け寄ってきてがっしと肩を掴むリクオの額を、ペクッと扇で一叩きする。まったく、いつもこの調子では彼が三代目を継ぐのをこの目で見ることは叶わないのではないか。
疲れたようにぱたりと振られた尻尾に、黒羽丸はリクオを引き剥がした。否、横抱きに抱き上げてかっさらったのだ。無言で火花を散らす二人に、ぬらりひょんのあきれたような声がかかった。
「おぅリオウ、リクオ。朝っぱらからなーんの話をしとんじゃ」
「じーちゃんが放任主義だからかわりに僕が怒られてんの」
「仕方なかろう?ご覧の老体…お前が早く妖怪の総大将を継いでくれねば…わし死ぬな」
「嘘つかないで!昨日も夕方元気に無銭飲食してたくせに!」
良いかい?僕はフツーの人間として暮らすんだ!じーちゃんみたいにはならないからね!と啖呵を切ったリクオは、ばっとリオウを振り返った。兄さんは必ず嫁にとるから!!と宣言する弟に、リオウは呆れたように目を細め、はいはいと尾を振ることで応える。
早ぅ降ろせ、と黒羽丸の頬を軽くつつくと、仏頂面に明らかに不満ですと言いたげな色をのせてジト目で見返された。
「顔色がよくありません。今日はお休みください」
「いつものことだろう。リクオを見送れば部屋に帰る。それくらい待っていられないのか?」
ふに、と綺麗な指が黒羽丸の唇を撫でる。妖艶な微笑みに、さしものこの側仕えも言葉につまった。ふわりと降ろせば、良い子だ、と頬を撫でられる。
リオウはリクオの桶から一本のキュウリを手に取ると、ぽいっと池に放った。ありがとうございますリオウ様、と受け取った河童は、一本だけであることに気づいて不満げな声をあげる。
「お前週刊誌出とったぞ。マスコミ査定だそうだ。若…ではせめて護身用に帯刀してください。世の中はあぶのーございます!」
「いいよ!学校行くだけだし…」
「また学校でイジメにあいますぞ!」
「過保護だな」
やんややんやと朝から騒がしい面々に、リオウは楽しそうに目を細めた。元気なのは何よりだ。そうでなくてはつまらない。
「若は組の大事なお方ですから。それだけでなく、あぁして慕われるのはリクオ様のご人望が厚いからだと」
「ふん」
たのむからご近所で「出没」しないでくれ~!!と叫ぶリクオを尻目に、リオウはふっと口許を緩めた。