天狐の桜11
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神社を出た一行は、行く宛もなくぶらぶらと町中を歩いていた。町を歩いていると、町人たちが品子の姿を見てヒソヒソと声を潜める。
「あ…菅沼さんちの子だわ」
「あそこも邪魅に憑かれだしたらしいわ」
「近寄れないわ。いやね~~~」
品子は体の芯がどんどん冷たくなるのを感じた。何もしていないのに、邪魅が憑いた、ただそれだけでこうして町の人たちから疎まれる。何も知らず仲良くしてくれた人も、すぐに噂に染まってよそよそしくなって。
「な~~にィ、感じ悪っ」
「品子ちゃんをまるで悪者みたいに…」
巻と鳥居は、品子の肩をガシッと抱いた。気にしちゃダメだよ、品子ちゃんのせいじゃねーじゃん、と口々に優しい言葉をかける。友達思いの二人らしい。
「よし!海に行こう!気分を晴らすには海が一番!」
「どうした清継くん!?」
「作戦を練るにも気分が落ちてちゃ~出るものも出ないよ!この際パーーッと行こうじゃないか!?」
ナイスアイディア!と皆の顔が明るくなる。一気に皆の気分が明るくなった。流石は清継くん!と、リクオたちは思っていたのだが…
「………漁船?」
そう、海は海でも砂浜はなく、停泊しているのは漁船のみ。所謂港だ。泳げねーし!!!とかなりショックを受けている様子の女性陣をよそに、漁船というものを初めて見たらしいリオウは、実に興味深そうにしげしげと見つめている。
「兄さん、楽しい?」
「あぁ。…!リクオ、カニだ」
ベルトコンベアーで運ばれていくカニを見て、ここまでキラキラと目を輝かせる人物はそうそういないだろう。きょろきょろとあちこちを見回しては、堤防を歩く小さなカニから、市場を走り回るフォークリフトまで、彼の興味はつきないらしい。
(もぉ~~兄さんはぁ~~っ!またそうやって可愛い顔する~~!水族館とか連れていってあげたい…!)
くいくいと小さく袖を引きながら、池以外で魚が泳いでいるのを初めて見た、とにぱっと嬉しそうに笑うのがまた可愛らしい。可愛すぎて胸が苦しい。兄さんが可愛すぎて僕の寿命縮むんじゃないか?これ。
一方、巻と鳥居は清継を締め上げていた。まったく、この男についていくといつもこうだ。一瞬でも男前に感じた自分達がバカだった。
品子は、そんな皆を見渡してくすりと笑った。
「ふふ、ありがとう。元気、出たよ」
「え、どして?こんなおバカに付き合わされたのに!?」
「うぅん、みんなが来てくれただけで心強いの」
邪魅の出る家は、町の人からもあまりよく思われないから、清十字団(みんな)みたいな仲間がいるってことが本当に、私は嬉しいの!
「ありがとう。本当に来てくれてありがとう」
うっすらと目に涙をうかべ、心底嬉しそうに笑って、品子は頭を下げた。巻たちは困ったように笑って頭をかく。
「いやぁ、そういってもらえると…」
「まだ何もしちゃいませんが…」
「そうだ!!!僕らはまだなにもしちゃいないぞ!!!今夜こそ邪魅を捕まえるんだ!!!」
むくっと起きあがり、清継はぐっと拳を握る。まだ言うか!と呆れる巻たちも何のその。ハンターだからね!と鼻息荒く宣言する。
「おいおい~~バケモン憑きのその娘にゃかかわんねー方がいいぜ?」
へへへ、と品の無い笑い声がして、皆の視線がそちらに集まる。見れば、昨日のチンピラが子分を数人引き連れてケラケラ笑っていた。品子はチンピラたちを見て身を固くする。
「菅沼のお嬢~~さん、ここにいたのかい?家に誰もいないから探したぞ」
「ひひひ…ヤバイことになっちゃう前に早くでた方がいいぜ~~?」
「ほう、それはこの子を脅す言葉ととらえてよいか?」
リオウは素早く子供たちとチンピラの間に滑り込んだ。相も変わらず美しく微笑んでいるが、その目は笑っておらず、冷たい殺気に満ちている。
「上の者から聞かなかったか?この子達に手出しするなら容赦はしないと」
「ぐっ…」
「は、ハセベさん!?」
「うるせぇ!!!今日のところはこれで帰るぞ!!!くそっなんでアイツがいるんだ!」
バタバタと逃げ帰るチンピラを尻目に、大丈夫だったか?とリオウは皆を振りかえる。子供たちはすごい!かっこいい!と目を輝かせながらリオウに飛び付いた。
その傍ら、リクオは一人首を捻っていた。この一連の騒動と、今のチンピラ、そして、兄さんの言葉。
(待てよ、変だな…)
今までの出来事がリクオのなかで繋がった。そうか、あの言葉って……
『その娘に近づくな…!』
「兄さん、わかった。今夜こそ、邪魅の正体を暴いて見せる」
「ほう…?ふふ、楽しみにしているぞ」
リクオの頬をなで、リオウはふっと目を細めた。
秀島神社に戻ってきた巻たちは、先に遭遇したチンピラたちに対して憤りを露にした。
「何あのヤクザ達!!!絶対怪しいよあいつら!!!なんで品子さんを脅すわけ!?[ピー]毛みたいな頭してさーー!!!」
「巻!?」
流石に直球のド下ネタには鳥居の突っ込みが入った。女の子がそんな下品なことを言うもんじゃない。いや、男でもダメだけど。
リクオは兄さんに変なこと教えないでほしいな!と内心あわあわしながらリオウを見る。が、リオウは言葉の意味がわからなかったらしく、こてんと小首を傾げているだけだ。
品子は神妙な面持ちで口を開いた。あのチンピラたちは、邪魅の噂がたって出ていった家を安く買い叩くブローカーだ。
「やっぱり!!!あいつらが犯人じゃん!!!」
「え!?犯人!?」
「きっとあいつらが邪魅を操って、ほしい家や土地を奪うために襲わせてんのよ!!!」
巻の言葉に、鳥居も清継も納得したように頷いた。成る程、妖怪を使役して、というのは実に興味深い。一方、神主は納得いかなそうに首を捻った。
「うーーん。そのような妖を人間が使うなど無いと思うが…」
「神主さん!何か方法は無いんでしょうか!?」
「は?」
「僕ら品子さんを守りたいんです!邪魅にはもう触れられたり…このままじゃ…いそがないと!」
「………仕方ありませんね」
リクオの剣幕に、神主は徐に立ち上がった。実は、20年前にも邪魅にとり殺された事件があった。その時に京の都から取り寄せた奥の手があるのだという。
神主は四枚の札を差し出した。護符はいずれも面妖な模様が描かれており、下に東西南北とふってあることが辛うじて読み取れる。
リオウはちらりとその護符の文字を一瞥し、ふむ、と独りごちた。あの護符の流派は花開院か。
「これは強力な護符。この四枚を四神として、部屋の四方に貼り…決して外にはでないこと」
勿論、品子ちゃん以外は中にも入らないこと。そして朝まで…絶対に戸を開けてはなりませんよ…
それから、と神主はリオウに向き直った。懐から1つの小さな匂袋を取り出す。白い匂袋は、妙に甘ったるい香りがして、リオウは思わず柳眉を寄せた。
「お兄さん。あの札を使ったことによって、邪魅の怒りが貴方に向かないとは限らない。…貴方はそういったものに憑かれやすい体質のようだから、これを」
「…これは?」
「神様の力が込められた香を使った、まぁお守りのようなものです。その匂袋を、決して肌身離さず持っていてください。…あぁ、それから、その香の力は強いので、今夜は子供たちと部屋は別れたほうがいいでしょう。なんなら、今夜はここに泊まっていかれるといい」
「―――――ほう?」
リオウは笑顔で受けとると、大事そうに両手で抱えて礼を述べる。泊まりの申し出は慎んで辞退し、一足早くさっさと神社をあとにする。
<リオウ様、それは…>
「あぁ、黒羽丸。少し鼻をつまんでいた方がいい」
<は?>
リオウの掌の上で、匂袋が炎に包まれる。鼻を押さえていたリオウは、さらさらとその灰を地面に落とすと、深くため息をついた。
「これはな、媚薬だ」
<はぁ!?>
「昔香道を学んだときに聞いたが…何でも催淫剤?とか言うものと同じ効果があるろくでもないものだという」
まぁ、この香木についての知識は香道を教えてくれた雪麗の受け売りなので、詳しいことはしらないが。本人も知らなくていいと詳しくは教えてくれなかったしな、とあっけからんと言いながら、リオウはさてと、と黄昏色の空を見上げる。
「事が動くのは今夜か」
あれのお手並み拝見といこうか、とリオウは小さく呟いた。