天狐の桜11
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時は戻って数日前の放課後―――
「さぁぁて!期末テストも終わってウキウキだねぇ~!!」
それはさておきこいつを見てくれ!
部室に飛び込んできた清継は、パソコンの画面をつき出した。そこには清継宛の一通のメールが表示されている。
「何?メール?」
「何これ…「妖怪ハンター清継くんへ」~~!?」
『清継くん!!!助けて!!!妖怪が私の家に出るの。夜になると枕元に立つのよ!!!』
お願い!御祓いしてもどーしても解決しないの!数多くの妖怪をハントしたという清継くんしか頼れないのよ!
巻と鳥居は思わずジト目で清継を一瞥した。ハンターとか大嘘ぶっこいた上に、悪戯かもしれないのに助けに行くのか。この貴重な休みを潰して。
ぶーぶーと不満を垂れる二人に、清継はぼそりと呟いた。
「ちなみにそこには海があるよ」
((青い海!!!))
一瞬にして見事に食いついた二人に、リクオはちょっと、と声をあげる。どんな妖怪かも分かっていないのに、退治しに行くなんて危険じゃないのか。
だが、清継も負けてはいない。けろっとした顔で、名前ならわかっているさと鼻息荒くふんぞり返る。
「その妖怪の名前は"邪魅"。こいつはメールにもある通り枕元に突っ立ってるだけ!襲ってくるわけはないよ!でもって古い妖怪の名だから、"主"や"天狐の君"に通じているかもしれない!それと、奴良君。これは折り入って相談なんだけど…」
(ま…まさか)
急に赤くなってもじもじと指先を合わせる清継に、リクオはげげっと顔をひきつらせる。嫌な予感がする。
「君のお兄様を!!!また!!!誘ってもいいだろうか!?」
(ほらきたーーーー!!!)
はっきり言おう、絶対嫌だ。だが、きっとリオウ本人にこの話をすれば二つ返事で了承されることだろう。
…正直、また洋服姿が見たいなー、だとか、またはしゃぐところとか見れるかなー、といった下心が無いでもない。
渋々、リクオは苦虫を噛み潰したような顔で頷いた。
「に、兄さんに聞いてみるよ…」
…で、リオウにこの話をしたところ、案の定行きたいと目を輝かせた為、黒羽丸同伴で一緒に来たのだ。
「リクオ、見ろ。海だ」
「兄さん、海見たことないの?」
「あぁ、昔一度だけ遠くから見たことはあるが、そのときはこうして潮風を感じることはできなかったしな…ふふっ海の匂いだ」
実に嬉しそうに目を細める。リクオはぎゅんっと胸の奥を鷲掴みされるような感覚に、んぐっと言葉に詰まった。可愛い。現金な奴だと言われそうだが、連れてきて良かった。
暫く歩くと、古い屋敷の前に一人の少女が立っていた。左腕に包帯を巻き、セーラー服を身に纏っている。眼鏡の奥の瞳がこちらを見て誰かを探すように瞳をゆらし、お下げ髪がふわりと揺れた。
「お!あれか?もしかして。やあやあ君は―――」
「貴方が清継くんね!?」
少女は一直線にリクオに向かってきた。眼鏡は眼鏡でも頼りなさそうな眼鏡男子って感じだけど大丈夫かしら?なんて怒濤のマシンガントークに、皆は困惑に思わず固まった。
「あ?違う?こっちの天パの方?あらぁ…これはこれで…………不安」
「天パ?君何だ!天パのどこに問題あるんだ!?」
「依頼人の菅沼品子です。来てくれてありがとう…一応期待してます」
なかなか独特な子らしい。否、それだけ切羽詰まった状況ということだろうか。
品子に案内されるままに、屋敷の中に通される。古ぼけた広い屋敷は、奴良邸程の大きさはなくも、歴史を感じさせる佇まいだ。
ふと、リクオは視線を感じてぐるりと辺りを見回した。広い庭には誰も居らず、視線の主は見つからない。気のせいかと思い直したその時、地の底から聞こえてくるかのような、おどろおどろしい声が響いた。
その娘に近づくな……
「兄さん、今の…」
「あぁ、あの娘には少々面白いのが取り憑いているようだな」
リオウはついと目を細め、何かを企んでいるかのようにくつりと笑った。
部屋に通された一行は、壁から天井に至るまで、部屋中に所狭しと貼られた護符に絶句した。どうやら本当に四方手を尽くした上で、切羽詰まって清継に連絡をとったらしい。
「品子ちゃん、また…新しい人連れてきたの?御祓いなら神主さんが毎日来てくれてるじゃない」
品子の母であろう女性は、品子の後ろに控える面々に眉根を寄せた。だって効かないんですもん、と悪びれなく言う品子の言葉に、しょんぼりとしてみせた神主の男は、でっぷりとした腹を揺らしてのそのそと場所をあける。
「ここよ。昨日もここに出て、私に覆い被さるように…」
そいつはじーっと私を見るの
伸びきったざんばらな黒髪に、顔には複数の護符のようなものがついていて、表情は見えない。唯一見えるぎょろりとした右目が、じいっと此方を見下ろしてくるのだ。
「のぞきこむだけなんだね?」
清継の言葉に、品子はしゅるりと腕に巻いた包帯をほどいた。そこにはくっきりと指のあとがついてしまっている。
「これを見て。昨日はこうして痕がつくまで強く握られたの!」
「―――失礼、その腕を見せてもらってもいいか?」
リオウはそっと品子の腕をとった。品子は間近に近づいた美貌に思わず固まる。あぁ、本当に心臓に悪いくらい美しい人だ。
「(確かに、妖気がまだ残っているな)……ありがとう。さぞ怖かったことだろうな」
「は、はい…。!」
品子はリオウの触れた腕に、あれほどまでにくっきりとついていた手跡が無くなっていることに気づいて瞠目した。
どうやら他の面々は気づいていないらしい。ばっとリオウを見れば、妖艶に笑って「しー」と片目を閉じる。何者なのか、この人は…
「ちょっと!話が違うじゃんか!」
「危害加えてるじゃないのーーー!」
「ゆらちゃんは!?何で来てないの!?」
「さぁ…最近学校も休みがちみたいなんだよね」
「はぁ!?何で!?」
あんたいつもこうーー!と、巻は清継に詰め寄る。だが清継自身も、まさか邪魅が品子本人に直接接触を図っているとは思わなかったらしく、困惑した様子で眉尻を下げている。
「もう次は何をされるかわからない!!!私、怖いんです!!!」
お願い!邪魅から守って…!!!