天狐の桜10
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燦々と太陽の光が降り注ぎ、草木についた朝露がキラリと光を放つ。清々しい風が吹き抜け、池の水面を撫でていく。
廊下をふらりと歩いていたリオウは、牛頭丸とリクオが寝ているはずの部屋から聞こえるぎゃいぎゃいと騒ぐ声に、不思議そうに小首を傾げた。
ひょこっと部屋に顔を出せば、皆に羽交い締めされているリクオが目に入り、なお一層きょとんと目を丸くする。
「何をそんなに騒いでいるんだ?」
「あっ!リオウ様!!リクオ様が学校に行くと聞かないんです!!!」
「リオウ様からも何とか仰有ってください~~!!!」
「ほう…仕方のない奴だ」
リオウは困ったように笑うと、リクオの手首を捕まえた。え、と固まるリクオの足を素早く払い、両の手首を掴まえて布団に押し倒す。
「…………へ?」
「聞き分けの悪い病人には、これが一番早い」
艶やかな白銀の髪がさらりと頬にかかる。リクオは一気に近づいた端整な面差しに固まった。え、いや、これはどーゆーこと?
「え、っと…リオウ様?」
「うん?」
「え、いや"うん?"って…というか、先程の口振りですとまさか他にも誰かに―――」
「あぁ、黒羽丸や首無も、病気だろうが怪我だろうが大人しく寝ている質ではなくてな。昔からこうして大人しくさせている」
「――――――黒羽丸や首無にも?💢」
ピシッとリクオの額に青筋が浮かぶ。あの二人、布団にはいるのをごねる度に兄さんに押し倒されて寝かしつけられてたのか。ズルい。
「?リクオ?」
「今度から、僕以外に絶ッッッ対こういうことしないで」
「??ふむ、よくわからないがまぁ…いいだろう。…………っ???」
体を退けようとするリオウの腰をむんずと掴み、己の上に座らせる。大人しくリクオの腹の上にすとんと座り込んだリオウは、困ったように柳眉を下げた。
「どうした?…この格好ではお前が満足に休めぬだろう」
「いや、まぁそうなんだけど。もうちょっと危機感持った方がいいんじゃないかな~と思って」
「…………………?ききかん?」
お前に寝首をかかれると?
何をいってるんだ?と言わんばかりの胡乱げな表情で小首を傾げられる。いや、何をいってるんだ?と聞きたいのはこっちだ。もう少し自覚をもってほしい。
裾を割って座り込んでいるため、乱れた着流しの裾から覗く白い足。動いた為に開けた襟元。そもそも腹の上にちょこんと騎乗しているその体勢。
「リクオ?――っひ!?」
「こういうことされるかもしれないって危機感だよ」
裾から無遠慮に手を突っ込んで太ももを撫でる。先程までゆらゆら揺れていた4本の尻尾が、ぶわっと総毛立って固まった。
因みに、腹の上に座らせた辺りから、隣の布団の牛頭丸は他の妖怪たちと共にそそくさと出ていってしまっている。
「っ何、処を触って…っ!?っ!」
「ほら、尻尾。ね?付け根を触られるとすぐふにゃふにゃになっちゃうでしょ?意外と弱点だらけなんだよ、兄さん」
三角の耳がへにゃんと垂れ、びくりと細い肩が大仰に跳ねる。腰が砕けた様子で、逃げることすら叶わずに視線を彷徨わせるリオウの頬をなでる。
「僕ね、怒ってるんだよ。一瞬だけでも、本気で別の男を愛してるお嫁さん見せられて、逆に怒ってないと思った?」
リオウは嘘偽りの愛は吐かない。つまり、あの時の玉章へ言った「愛してる」は、たとえ一時だけでも、彼の本気の愛の言葉だったわけで。
「私は、お前の嫁になった覚えは…っ」
「んー?隣に並べなくて怒ってたのに?」
「そこまでじゃ。リクオ」
リオウは後ろからひょいっと誰かに抱き上げられた。軽々と自分を横抱きにするのは、言わずもがな、若かりし頃に転位したぬらりひょんで。
「リオウ、お前、戦場のど真ん中でリクオと口吸いして、夫婦よろしくイチャイチャしたかと思えば、公衆の面前で浮気宣言して玉章に愛を囁いてたんだってな?」
「っはぁ…!?」
「詳しく話を聞かせてもらおうじゃねぇか、のぅ?」
誰だ報告した奴は。事実が色々と脚色改竄されて伝わっているではないか。リオウは珍しく、背中を冷や汗が伝うのを感じた。にっこりとこちらを見て笑っているぬらりひょんの目がまったく笑っていない。
「聞けば四国の犬神も口説いたんだってなァ?倒れんな、無理をするなとは言ったが、男をたらしこむなとも言わなかったか?」
「……………………たらしこんだつもりはないしそんなことを言われた覚えもない」
「ほぅ?💢」
「じーちゃん!兄さんは僕と喋ってたんだけど!」
「お前は大人しく寝ておれ。こいつは借りていくぞ」
リクオは面白くなさそうに、ちぇっと悪態をついて布団を被った。なにも今連れてかなくても…僕だって兄さんとイチャイチャしたい。
(でも、そろそろ無防備なの理解してくれないと…兄さんたまに無自覚でとんでもないことするからなぁ)
それがまた老若男女関係なく欲を煽るから質が悪いのだ。まぁ、きっと祖父もそれを分かっているから、今回お説教をすることにしたんだろうけど。
(兎に角、これ以上悪い虫がつかないように、僕が旦那さんとしてしっかりしないと!)
決意を固めて目を閉じる。
数分後、廊下からぬらりひょんの怒号が聞こえ、リオウの大脱走劇が始まったりするのだが、この時のリクオはまだ知らなかった。