天狐の桜10
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玉章と対峙しているリクオは、圧倒的な力の前に弾き飛ばされていた。何度斬りかかろうと、全て受け止められ、凪ぎ払われる。
「リクオっ、は…小倅が、面倒なことをしてくれた」
指先に浄化の炎を灯すリオウを、リクオの長い腕が遮って止めた。
「待て。こいつは俺がやる。大将は…体を張ってこそだろ」
「…とんだはねっ返りの大将だな」
「うるせぇ。兄貴は俺の嫁さんらしく、後で笑って出迎えてくれりゃそれでいい」
リオウの加護のお陰か、傷は少しずつ回復している。だが敵の力は圧倒的で、リクオは成す術無く斬撃の前に膝をつく。
玉章は、明け行く空を見上げて口角をつり上げた。
「空が白んできたぞ。リクオ」
シュウシュウと音をたててリクオの姿が昼の姿へ戻っていく。じわじわと妖気が抜けていくのを見て、組の妖怪たちは皆血の気が引くのを感じた。
「若…!?」
「朝だ…リクオ様が人間に戻りつつある!?」
「な、何!?」
「恨むなら、非力な自分の"血"を恨むんだな…」
玉章は酷く残忍に嗤って刀を振り上げた。
僕は、神通力を持つ父の血を色濃く受け継いだんだ―――
でも、それは"必要のない力"だった。300年前に牙をもがれた組の中、大将 隠神刑部狸の88番目の嫁の8番目の息子だった僕の序列では…できることは何もなかった。
そんなとき、父に挨拶に来たというあのお方――リオウ様に出会った。
『お前が、玉章か。…ふふ、良い目をしているな』
初めてだった。「貴様の目はギラギラしすぎだ」と兄どもに嗤われたこの目を、そんな風に言ってもらえるなんて。
『野心を持つことは、決して愚かなことではない。歩みを止めれば、成長はなくなる。力というものも使いようよ』
強くなければ、力がなければ何も守れない。弱者がいくら守りたいと吠えたところで、力あるものには敵わない。
『お前には、生まれ持った力がある。より多くを望むのなら、まずはそれを磨け。仕えるべき主君たれる様に努めよ。…ふふ、幼いお前にはまだ難しいか』
『っいえ!やります!…そうしたら、父のように、立派な大妖怪になったら…っ』
またこうして会ってくれますか?
幼さ故の、小さな約束。初めて自分の力を、考えを、価値観を認めて、慈愛をくれた。後に、兄たちから天狐は妖狸とは真逆の存在であり、そんな彼に触れたいと願うなど、ましてや自分のものにしようなど、そんなことは不可能だと嘲笑われた。
僕は、何の野望も持てない兄どもに絶望していた。いつか来る、きっと来る"日の目"を信じて、自分だけで動いた。
奴らの目を欺くために、表では大人しく学校にかよい、裏では神通力を使い、若い妖怪たちを下僕として集めて回った。
そして、それは突然やって来た。"あの方"は…僕にこの刀を与えてくれたんだ―――
かつて父の刃をもいだ「魔王の小槌」。四国中の妖怪がその名を聞くだけで震え上がる神宝…!
『いいですか、天下をとるのです。玉章。貴方にはその器がある!この刀を使い、百鬼夜行を作るのです!』
そのときソイツは…力を発揮するでしょう
『何が魔王の小槌だ』
『玉章…今更そんなもの何になる』
僕に逆らい、見下したグズの兄どもは皆殺しにした。その刀は妖怪を殺すことで力を得ていく刀だった。僕は増殖する力を得、どんどんと強くなっていった…
そして、妖怪たちは僕についてきた。新生四国八十八鬼夜行の誕生だ。これが、"おそれ"なのだと気づいた。
「この街に来て一週間…とうとうこの玉章の"畏れ"が、奴良組総大将のそれを凌駕したのだ!」
「その手を離せ、下郎」
青白い狐火が玉章の目の前で突然燃え広がった。それを皮切りに、首無や河童、青田坊たちも、リクオ様から離れろと飛びかかっていく。
「なぜ…貴様たちは、こんな弱いやつについていく?リオウ様も…貴方に相応しいのは、この僕のはずだ…」
「玉章…テメェの言うその"畏れ"、俺たちはテメェのどこに感じろってんだ…?」
リクオは祢々切丸を支えに、ゆらりと体を起こした。
「テメェは刀に踊らされてるだけで、テメェ自身は器じゃねーんだよ。僕がおじーちゃんや兄さんに感じた気持ちは、怖さとは違う…」
(!昼と夜の血がまざっている、のか…?)
リオウはリクオの様子に目を瞠った。リクオはふらつきながらもゆっくりと立ち上がる。強くて、かっこよくて…でもどこか憎めない。だからみんなついていく。
「"憧れ"なんだよ。畏れ…ってのは」
そんなじーちゃんが作ったこの奴良組。兄さんがいて、烏天狗がいて、牛鬼が、皆がいるこの組を…まもりたい。
「僕は気づいた!!!それが百鬼夜行を背負うということだ!!!仲間を疎かにするヤツの畏れなんて、誰も…ついていきゃしねーんだよ!!!」
「だまれ」
玉章は容赦なく刃をリクオの胴目掛けて叩き込んだ。……筈だった。
「あ?」
リクオの姿が、そこにあるのにも関わらず、刀には何の手応えもない。何だ。今、確かに斬ったはず…だが手応えがない…何だ?"畏れ"の発動か?
(いや、違う…姿は見えるぞ!?何だ…今のは――――!?)
ぬらりひょんの新たな力か、と気づいた時には、リクオはもう間合いに入り込んでいて。リクオは思い切り玉章の右腕に刀を振り下ろした。