天狐の桜1
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それから数年後。
「兄さん、体は大丈夫?」
「あぁ。別段問題はない」
「ホントに?兄さんそんなこと言ってこの間も倒れちゃったでしょ。ダメだよ、無理したら」
「……わかっている。だからお前は早く離してくれないか」
リクオは朝からリオウを押し倒していた。あの日以来、リクオに妖怪の姿へ変化する様子は見られない。その代わり、箍が外れたように、リオウへ迫る頻度はどんどん増えてきたが。
「遅刻は出来ないんだろう?」
「そうなんだ…兄さんと一緒にいたいのに。はぁぁ離れたくないなぁ」
「戯けたことを言うな…」
実はリオウ、既にけっこう疲れてきている。扇のように広がった美しい白銀の髪を掬い上げ、唇を寄せる。側仕えの黒羽丸や首無の目を盗んで…否、それでいて見せつけるように触れているのだが、これがなかなか修羅場になるので、間に挟まれるリオウは半ばうんざりしているらしい。
「若」
絶対零度の冷たい声。
見れば黒羽丸が今にも射殺さんとばかりにリクオを見ていた。これが恐らくリクオ以外であれば今ごろ蹴り飛ばしてでも引き剥がしているんだろうが、忠誠心の高い彼に若を蹴り飛ばすということなど出来るわけもなく。
「ほら、学校に遅れるだろう」
「兄さん…」
名残惜しげに唇を寄せたリクオに、黒羽丸ははっと息を飲むと慌ててリオウをかっさらった。
「いくら若と言えど、リオウ様への無体はお止めください」
「………チッ」
リクオは小さく舌打ちした。そんな己にはっとすると、誤魔化すように笑ってそんなことしないよ~とのほほんと笑う。
バタバタと出ていく弟の背中を見ながら、リオウは疲れたように黒羽丸に寄りかかった。
「大丈夫ですか?」
「あぁ…毎朝毎朝、あれもよくやるものだ。だが、さすがに疲れた」
リオウは後ろから己を抱き止める黒羽丸の頭に手を伸ばした。くしゃりと黒曜石のような髪を撫で、ふっと微笑む。
「だが、お前の焦る顔が見れるのは中々楽しいな」
「っ…」
神妖問わず虜にする神獣天狐。
気高く聡明で麗しい彼を繋ぎ止めることができるのは、百鬼の主か、寡黙な側仕えか、はたまた彼を狙う輩の誰かか。
それはまた別のお話。