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また君が死んだ

トキは、チェス盤を探した。あれに書いてある遺書は、ものすごく大切なことのように思えた。
水鳥が風呂に入っている間、考えられる場所は全て探した。けれども見つからなかった。
水鳥は風呂から出ると、また濡れたままだった。
「風邪ひいちゃうよ」
「ねーぇ、トキ。拭いてー」
水鳥が甘えたような声を出した。トキはバスタオルで水鳥の頭を丁寧に拭いた。
「ねー、何してた?」
「え?」
「家の中、探し回って、何してた?」
トキは、答えなかった。答えては、いけないような気がした。水鳥の様子は明らかにおかしかった。トキの方を見ようとはせず、まっすぐ前だけを向いていた。口調だけは甘えた声なのに、水鳥は前を向いたままだった。
「ねえ……。チェス盤の裏、何で見たの?」
「……」
「見ないって言ったよね絶対見ないって言うから出したのにどうして見たの見せたくなかったのに」
声に抑揚がない。トキは固まってしまった。水鳥の頭にバスタオルを被せたまま、動くことができなかった。
水鳥は立ちあがって、バスタオルを投げ捨てた。そのまま振り返らずに、呟く。
「うそつき」
「……ごめん」
「しんじてたのに」
「……」
「またなの?」
「え?」
水鳥は突然振り返った。目は虚ろで、顔じゅうの筋肉が動きを止めたかのように無表情だった。
「もう知ってるよ。トキが何で、なんでこんな世界にいて、なんでトキをいっぱい埋めなきゃいけないのか。でも、なんで」
水鳥は、泣いた。堰を切ったかのように、目から涙が零れていた。それを拭うことなく、水鳥は虚空を見つめたままだ。
「……水鳥」
「なんで、思い出させるの……」
トキも立ち上がっていた。立ち上がって、水鳥を抱き締めていた。
「痛いよ」
トキは力を緩めなかった。さらに力を強くする。水鳥はやっと、トキと目を合わせた。
「ね、トキ」
「……何?」
「キスの意味、知ってる?」
「キスの意味?」
水鳥は答えず、トキにキスをした。
「おやすみ。トキ」
トキの身体が、崩れ落ちた。強く抱きしめていた腕は、何を掴むことなく離れていった。
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