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また君が死んだ

「具合悪いの?」
「そうじゃなくて、食べることに対して興味がないんだ」
「じゃ、とりあえず一緒のものを食べようか」
トキは一番安いうどんを頼むことにした。水鳥が起きたばかりだし、腹に優しい食べ物がいいと判断したからだ。決して財布と相談した結果ではない、そう自分に言い聞かせた。
それほど時間も経たないうちに料理が届いた。二人は静かに手を合わせて、音を立ててうどんを啜り始める。
「トキは和食派なの?」
「朝ごはんは白いご飯派かな」
「あ、じゃあお米買って帰らないと」
「ないの?」
「玄米フレークしかない」
二人はさっさと会計を済ませて外に出た。一番星が輝いている。商店街がシャッターを下ろし始める時間が迫っていた。
「とりあえずお米と、野菜と、ちょっとお肉買おうか。あ、あと卵と牛乳も」
「……」
トキが財布を見て、苦い顔をする。水鳥はトキの袖を引っ張って自分の方を向かせた。
「トキ。お金はちゃんとあるから安心して」
「ずっと寝てたのに?」
「百二十二番目のトキが、いっぱい残してくれたから、今のところは平気」
そう言って、水鳥は少し膨らんだガマ口の財布を見せた。トキが中を見ると、トキの財布には滅多に入らない茶色いお札が数枚入っていた。
「ね。だから任せて」
水鳥はそう言って、さっさと商店街へ行ってしまった。トキも慌てて後を追う。
買い物は水鳥の指示で行われた。トキは少し二人分の食材としては足りないような気がした。数日もしたらまた買いに来なければならないのではないだろうか。それとも、水鳥があまり食べないのかもしれない。
「少し足りなくない?またすぐに買い物に出ないといけなくならない?」
「足りると思うな」
「……水鳥、ちゃんと食べるんだよね?」
「うん。トキが作ってくれるならね」
「普通の量を水鳥が食べるなら、やっぱり足りないよ」
「いいじゃない。また来ればいいよ。それに、もう店は閉まっちゃった」
確かにもう商店街の殆どの店が閉店している。仕方なく、トキはこれ以上言わないことにした。次に買い物するときに多めに買えばいい。
家につくと、水鳥はソファに横になってしまった。このソファは百六十二番目のトキが来たときに、ゴミ捨て場から拾ってきたものだ。あちこち擦り切れているけれど、寝心地は最高だった。少なくとも水鳥は好きだ。
「水鳥、疲れたの?」
「うん。ちょっとね」
「じゃあ食材は勝手にしまっちゃうけどいい?」
「台所は代々トキのテリトリーだから勝手に使っていいよ」
トキは食材を持って台所へ向かった。台所は思っていたよりも綺麗だった。バスルームとは全然違う。
「なんでこうも違うんだろう……」
トキは独りごちながら、食材をしまっていく。台所は綺麗だが、いろんなところに腐っている食材があった。それを整理しながらしまっていくと、意外と時間がかかった。
台所の整理を終えてからトキが水鳥のところへ行くと、水鳥はソファの上で眠っていた。トキは水鳥を起こそうとしたが、抓ってもキスしても引っ掻いても起きなかったので、抱きかかえて寝室へ連れていくことにした。
水鳥をベッドの上に寝かせると、水鳥は眠りながら抱き枕を探しあて、抱きついた。
それを見ていたトキが、大きな欠伸をする。今日はいろいろなことがあって疲れた。寝る時間には少し早いが、トキは水鳥が寝ているベッドに入っていった。薄い煎餅布団に二人で包まって、自分以外の体温を感じながら、トキは目を閉じた。
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