また君が死んだ
そんな歌を歌いながら、水鳥(みどり)は目の前の亡骸に手を合わせた。これからスコップを持って埋める作業が待っている。だから喪服ではなく杜松色のツナギを着ていた。
亡骸は生前、トキと名乗っていた。由来は本人も覚えていないから、水鳥は知らない。
水鳥はもう何度もトキの亡骸を埋めている。
トキはすぐに死んでしまう。理由は特にない。死ぬような兆候も全く見られない。けれどトキはある日突然、死んでしまう。
でも、いつもしばらくすると戻ってくる。全く違う身体になって。
トキが死んで、水鳥が葬式をして、トキを埋めて、墓標を立てて、一人の生活に慣れたころ、トキと名乗る別人がやってくるのだった。
別人だから、前の記憶が全くない。水鳥と過ごした日々はきれいさっぱり忘れている。
水鳥はそれを寂しいとは思わなかった。毎回違うトキに会えるのは楽しかった。
水鳥はトキと逆で、死ねなかった。
斧で首を撥ねても、死ねなかった。
包丁で心臓を貫いても、死ねなかった。
車に轢かれても、死ねなかった。
世界最高のビルから飛び降りても、死ねなかった。
ものは試しと、豆腐の角にぶつけてみたけれど死ねなかった。
何故こんな身体なのだろうと悩んだ時期もあった。でも、もう気にならない。新しいトキが気を紛らわせてくれるから。
トキの墓場は、もう端が見えないほど広くなっていた。墓の数が増えるにつれて墓場もどんどん広くした。今度また、広げないといけないかもしれない。
水鳥は前のトキを埋めた墓の隣を掘り始めた。これだけ墓があると、ミミズやモグラも不気味に思うのだろうか。土の中に生き物はいない。自分とトキ以外の生き物が大嫌いな水鳥にとっては好都合なのだが。
人が埋まるぐらいの穴を掘って、水鳥はトキの亡骸をその中へ放り込んだ。前のトキはメタボリックシンドロームだったから、運ぶのに苦労した。今度のトキは栄養失調気味だったので軽い。
またスコップを握り、亡骸の上に土をかけていく。足の方から順に埋めていく。
最後に顔だけ出た状態で、水鳥はスコップを置いた。土に膝をつき、ゆっくりと顔をトキに近づける。
わざとリップ音を立てて、キスをする。
「……おやすみ、トキ」
また、しばらく一人の日々が始まる。
水鳥は一人のとき、大抵眠っている。他にすることがないからだ。
絶食して餓死しても死なないのだから、別に生命維持活動をする必要はない。
極上とはいえないベッドに寝転がり、煎餅布団を被って、最初に来たトキがくれた抱き枕を抱いて寝る。
抱き枕から、トキの匂いがした。
何番目のトキかは忘れたが、それはトキの匂いだった。
抱き枕に顔を埋めて目を閉じていれば、すぐに眠ることができる。
そうして、水鳥は深い深い夢へと落ちていく。
亡骸は生前、トキと名乗っていた。由来は本人も覚えていないから、水鳥は知らない。
水鳥はもう何度もトキの亡骸を埋めている。
トキはすぐに死んでしまう。理由は特にない。死ぬような兆候も全く見られない。けれどトキはある日突然、死んでしまう。
でも、いつもしばらくすると戻ってくる。全く違う身体になって。
トキが死んで、水鳥が葬式をして、トキを埋めて、墓標を立てて、一人の生活に慣れたころ、トキと名乗る別人がやってくるのだった。
別人だから、前の記憶が全くない。水鳥と過ごした日々はきれいさっぱり忘れている。
水鳥はそれを寂しいとは思わなかった。毎回違うトキに会えるのは楽しかった。
水鳥はトキと逆で、死ねなかった。
斧で首を撥ねても、死ねなかった。
包丁で心臓を貫いても、死ねなかった。
車に轢かれても、死ねなかった。
世界最高のビルから飛び降りても、死ねなかった。
ものは試しと、豆腐の角にぶつけてみたけれど死ねなかった。
何故こんな身体なのだろうと悩んだ時期もあった。でも、もう気にならない。新しいトキが気を紛らわせてくれるから。
トキの墓場は、もう端が見えないほど広くなっていた。墓の数が増えるにつれて墓場もどんどん広くした。今度また、広げないといけないかもしれない。
水鳥は前のトキを埋めた墓の隣を掘り始めた。これだけ墓があると、ミミズやモグラも不気味に思うのだろうか。土の中に生き物はいない。自分とトキ以外の生き物が大嫌いな水鳥にとっては好都合なのだが。
人が埋まるぐらいの穴を掘って、水鳥はトキの亡骸をその中へ放り込んだ。前のトキはメタボリックシンドロームだったから、運ぶのに苦労した。今度のトキは栄養失調気味だったので軽い。
またスコップを握り、亡骸の上に土をかけていく。足の方から順に埋めていく。
最後に顔だけ出た状態で、水鳥はスコップを置いた。土に膝をつき、ゆっくりと顔をトキに近づける。
わざとリップ音を立てて、キスをする。
「……おやすみ、トキ」
また、しばらく一人の日々が始まる。
水鳥は一人のとき、大抵眠っている。他にすることがないからだ。
絶食して餓死しても死なないのだから、別に生命維持活動をする必要はない。
極上とはいえないベッドに寝転がり、煎餅布団を被って、最初に来たトキがくれた抱き枕を抱いて寝る。
抱き枕から、トキの匂いがした。
何番目のトキかは忘れたが、それはトキの匂いだった。
抱き枕に顔を埋めて目を閉じていれば、すぐに眠ることができる。
そうして、水鳥は深い深い夢へと落ちていく。