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またたび森のおねこさま

そんな空気を全く気にした様子もなく、少女は頬を掻きながら、間延びした声で謝罪した。猫たちはじっと少女を見つめる。
少女は両手を横の広げた。後ろにいた二人が少女に近づき、左手に錫杖、右手には――何故かカスタネットを持たせた。
「それじゃあ、今年もワシの舞、しっかり堪能せいよ!」
少女は錫杖を高く掲げたかと思うと思いきり振り下ろした。そしてその錫杖を振りながら、顎でカスタネットを叩きつつ、妙なステップでうろうろし始めた。猫たちは真顔でそれを眺めている。
「……なんだこれは」
はっきり言って、異常な空間である。ミケにこの光景について聞きたかったが、ミケは相変わらず、じっと少女を見つめている……と思ったら、こっくりこっくりと舟を漕いでいた。よくよく周りを見ると、何匹かの猫も眠っている。
柊一郎はこの異質さに、笑ってしまいそうだった。だが、笑いを堪えて、ぎゅっと唇を噛む。
ひとしきり踊ったあと、少女は肩で息をしながら、その場にしゃがみ込んだ。
「疲れた! もう踊れん!」
そして、錫杖とカスタネットをその場に放り投げ、そのまま上半身を倒した。
「あー、じゃあ、持ってこい。ナツ、アキ」
少女が二人の女に指示をすると、女たちは奥へと下がっていった。
「ふぅ〜、今年も熱いギグだったのぅ……」
柊一郎は堪えられず、噴き出した。周りの猫たちがぎょっとした顔で柊一郎を見る。
「ん? 誰じゃ? 今笑ったのは」
少女は起き上がり、柊一郎を見つけ、睨みつける。
「なんでこんなところに人間がいるんじゃ」
少女は立ち上がり、口をギュッと噛みながら、柊一郎の方へずんずんと歩み寄ってきた。猫たちは少女の足取りを邪魔しないよう、道を開ける。何匹か眠っている猫もいたが、周りの猫が引っ張ってどかした。
柊一郎は不穏な空気を感じ取り、ミケを揺さぶって起こした。ミケはふにゃふにゃ言いながら大あくびをして、身体を伸ばした。
「なんだよォ。せっかく寝て……た……のに」
ミケは近くまで来た少女を見て固まった。
「ほぅ? ミケは眠っておったのか? ワシの情熱的な舞を見て」
「あー、えっと。えっとォ。寝てたワケじゃなくってェ……。そう! 集中しておねこさまの舞を見たいから、寝たフリをしてたんですよォ」
「ほーぅ?」
この少女がおねこさまだったらしい。おねこさまは腕を組み、目は笑っていない笑顔で、ミケを見下ろした。
「ほら、コイツ。コイツですよォ」
ミケは柊一郎の腕を引っ張った。
「コイツがいるからァ、俺が集中して見るのに話しかけられたら、おねこさまのダンスが台無しじゃァないですか。だから寝たフリを……」
「そもそも、なんで人間を連れてきたのじゃ」
おねこさまはミケの台詞を遮るように、ミケに詰め寄った。ミケは柊一郎の陰に半分隠れながら、しどろもどろに答える。
「あ? あー、言ってませんでしたっけ? ほら、あれ、えっと、柊一郎連れてくるって」
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