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またたび森のおねこさま

「その猫、どうするの?」
「どうするって?」
「持って帰ったら? 猫に触れあうチャンスじゃない?」
デブ猫が、これまたいいタイミングでにゃあん、と鳴いた。柊一郎が喉の辺りをくすぐると、ぐるぐる、と喉を鳴らして頭を擦り寄せてくる。
「野良かどうかもわからないだろ」
「野良に決まってるわよ。こんなブサ猫が飼い猫だったら、世の捨て猫は保健所からいなくなってるわ」
「お前、いくらなんでも猫だからって失礼だぞ」
「とにかく、持ち上げてみなさいよ。きっと情も移るわよ」
柊一郎はしぶしぶデブ猫を持ち上げようとした。だが、デブ猫は重かった。持ちあげられない柊一郎を軟弱だと真莉絵は笑い、こんな猫私なら持てると持ち上げようとしたが、彼女も勿論持ちあげられなかった。
「これは諦めろってことだろ」
「そうね、私も認めるわ」
柊一郎と真莉絵はデブ猫から離れ、来た道を折り返し始める。歩き始めると、二人ともデブ猫のことなんかすぐに忘れてしまって、明日の宿題の話なんかを話し始めた。
そうして森から出る瞬間、
「またなァ、柊一郎」
と、柊一郎の背後から声がした。柊一郎が振り返っても、そこには何もいない。ただどこからかにゃーにゃーと声がする、いつもの三度森があるだけだ。
「柊一郎、どうしたの?」
「いや、気のせい。なんか呼ばれた気がした」
「やだわあ、厨二病って」
真莉絵は柊一郎を小馬鹿にしたような笑みを浮かべ、スキップをするかのように、走り始めた。ちょっと進んだところで振り返り、柊一郎の顔をニヤニヤ笑いながら眺め、そしてまた同じように走りだす。これは追いかけないといけないな、と柊一郎も後を追った。
小さな三度森が、どんどん遠ざかっていった。
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