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またたび森のおねこさま

それを持って、柊一郎はミケとアツのところへ向かった。するとそこには母親がいて、アツをギュッと抱きしめていた。顔をすりすりと擦りつけている。
「母さん?」
柊一郎が声をかけると、母親はアツをバッと顔から離した。その目には涙が滲んでいた。
「あら、ちょっと可愛い猫さんね。母さん、思わず抱きしめちゃった」
「じゃあ、俺も抱こうかな」
柊一郎は母親からアツを受け取って、同じようにギュッと抱きしめた。そしてそのまま、母親の横に座った。
「柊一郎、アンタも猫、好き?」
「……普通かな」
「普通かぁ」
「普通に、好きだけど」
柊一郎の言葉に、母親はパッと笑顔になる。
「そっかあ、好きかあ。じゃあ、ミケちゃん飼って正解だったわねえ」
「うん」
柊一郎はアツの頭や喉や背中なんかを丁寧に撫でた。
「あら、それ。父さんの?」
母親が、柊一郎が持ってきた写真集に目を止める。
「そう。見てみようかと思って。ここで」
柊一郎が写真集を開くと、母親もアツもミケも、柊一郎の手元を覗きこんだ。
ページを捲るたび、母親がああだこうだと説明をした。柊一郎が知らないこともあれば、それは捏造ではないかと思うことまで、よく話した。
最後のページに差し掛かり、袋とじで手が止まる。
「あら、まだ開けてなかったの?」
「うん。なんとなく開けてなかった」
そう言いながら、柊一郎はびり、と袋とじを開ける。
袋とじの中に、一枚の写真が入っていた。それは、柊一郎たちの家族写真だった。柊一郎がまだ幼稚園に上る前ぐらいの年頃のもので、柊一郎自身、こんな写真を取った記憶はなかった。
写真には、小さな柊一郎と、その横で微笑む母親、そしてアツを抱いた父親が写っていた。みんな満面の笑みを浮かべていて幸せそうな家族の写真であった。
「いい写真ねえ」
母親がそう言ったのに、柊一郎は何も返せなかった。何故だか急に悲しくなって、泣き出してしまっていた。
柊一郎の肩を母親が抱き、背中の辺りでミケが丸めた身体をそっと寄せ、腕の中でアツがみゃあと、慰めるように泣いた。
柊一郎は、今、無性に、父親の声が聞きたかった。
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