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またたび森のおねこさま

それからのことは、柊一郎もよく覚えていない。猫たちの宴会に参加しようとおねこさまが言ったところまでは覚えているのだが、勢いであの酒を呑んだら、その後の記憶がなかった。いつの間にか部屋に戻っていて、傍でミケが眠っていた。
柊一郎が台所の方へ行くと、そこに母親はいなかった。どこにいったのかと探していると、縁側にその背中を見つけた。
「おはよう、母さん」
「おはよ。非行息子」
「なんだよ、それ」
柊一郎が母親の横に座ると、母親はパン、と背中を思いきり叩いた。柊一郎の目が涙で滲むほどの力だった。
「高校生がお酒なんて呑むんじゃありません。それも、ミケちゃんにまで呑ませて」
久しぶりに、母親の厳しい声を聞いた。こんなに怒られたのは、小学生のときに母親の大事にしていた花瓶を割ったときぐらいだ。
「お母さんはね、怒るの苦手なんだから。怒らせないでちょうだい」
そのときと全く同じ台詞だった。柊一郎は失笑した。再び、母親が柊一郎の背中を叩く。
「なんで笑うのよ」
「いや、ごめん、本当にごめん。反省してる」
柊一郎は笑いながら、謝った。母親は「もう、困った息子なんだから」とブツブツ言いながら、家の奥へと引っ込んでいった。
庭はいつも通り、何もいない。さわさわと、風が吹き抜けた。
部屋にもう戻ろうかと思ったとき、にゃお、と控えめな猫の声がした。柊一郎が声のした先を探すと、庭の隅にアツがいた。
「アツ。こっち来いよ」
アツは素直に柊一郎の方へやってきた。
「今、母さんいないし、普通に話していいよ」
だがアツは頑なに猫の言葉のままだった。柊一郎が首を傾げていると、ミケがやってきた。
「ソイツは、三日月の夜にしか話せねェんだ。いっつも話せるのは、俺みたいな、ちょっとイイ感じの猫だけよォ」
「違いがわからん」
「節穴だなァ」
猫には猫の、いろんなことがあるのだろう。
アツは、みゃあみゃあと、何かを訴えているようだった。ミケはそれをフンフンと聞く。
「なんかァ、よくわからんけど、お前、コイツとアルバム見せる約束したらしいぞ」
「アルバム?」
「お前、ベロンベロンだったからなァ、覚えてないか」
ミケの言葉にアツが、がっくりと頭を垂れた。
「ちょっと待って。探してくる」
柊一郎は慌てて、部屋へと向かう。
部屋の中を、柊一郎はぐるぐると見回した。そして、あの、父親の写真集を取り出す。普通のアルバムよりも、アツにはこちらの方がいいと思ったのだ。
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